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リャナンシーさんとスコップケーキ
④
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「なので今からちょっとした魔法をかけようと思うの。
大丈夫、ちょっとびっくりするかもしれないけれど、怖いことはありませんからね」
そう言うと魔女っ子さんは器用にぱちんと片目だけを瞑ってみせました。
するとウィンクをした方の瞳から、魔力が溢れ出て煌めき始めたのです。
魔女っ子さんの瞳と同じ、若草色をした煌めきはそのまま辺りを漂っていたかと思うと、リャナンシーさんの方へ引き寄せられてるかのように集まっていきました。
自分の周りを覆っているキラキラの輝きに、リャナンシーさんはうっとりして尋ねました。
「これはどんな魔法なんですか?とっても綺麗…」
「これからすぐにわかりますよ。
さあ心の用意をしてください、動きますからね」
魔女っ子さんが言い終わると同時に、リャナンシーさんは自分の体が自分の意思と関係ない動きをし始めたので驚いて悲鳴をあげました。
よく見ればリャナンシーさんの体は、向かい側にいる魔女っ子さんの動きとそっくり同じに動いているのでした。
「まず感覚を掴むには、経験することです。私の動きと連動するので、お菓子作りの動作が流れでわかると思いますよ」
言い終わると同時に、魔女っ子さんは早速ケーキ作りを始めたのでした。
卵を二つほど手に取ると、もう片方の手には大きなボウルを持って、調理台の方に移動していきました。
「まずはさっきと同じくスポンジケーキを作ってみますね」
魔女っ子さんはそういうと、大きなボウルの縁にかしゃんと卵を軽く打ち付けてました。
二つにわかれた殻の中から、卵黄が溢れないよう器用に卵白だけを入れていきます。
リャナンシーさんも魔女っ子さんの向かい側で、同じ動きをしながら卵を割り入れていきました。
前回はどうやっても卵の殻が入ってしまったのですが、魔女っ子さんの動きを真似できている今は嘘のように上手に割ることができたのでした。
こうやって比べてみると、リャナンシーさんは自分がどれだけガチガチに緊張しながら料理をしていたのかがわかって、こうすればいいのかと新しい驚きを得るのでした。
「いい感じ!それじゃ次はメレンゲ作りですよ、ちょっと大変だけど頑張りましょ」
「大丈夫です、頑張れます!」
自分が上手に料理ができているという事実に、夢のような心地になっているリャナンシーさんは張り切って答えるのでした。
先ほど割り入れた卵白の中に、ほんの少しのお塩を加えてから、泡立て器でひたすらに泡立て始めました。
「お塩をほんの少し入れておけば、泡立つのが早くなるんですよ」
「へえ、そうなんですね。魔法でもないのに、不思議だわ」
魔女っ子さんはハタとある事に気がついて、あくまでお塩はほんのひとつまみですからね、と念を押しておきました。
料理が苦手な人は“適量”という曖昧な表現を前にすると予想外の行動に出るものなのだと、先ほどのお試しで十分理解出来たからでした。
リャナンシーさんが忘れても大丈夫なように、レシピの記述も後で書き直しておいてあげようと、魔女っ子さんは頭の中でメモをしておきました。
そうして2人がひたすらにがしゃがしゃと泡立て続けていくと、だんだんとボウルの中の卵白はふわふわのメレンゲに変わっていきました。
泡立て器でメレンゲを掬うように持ち上げれば、ぴんと角が立ち上がりました。
しっかりと泡立てて作った角は、数秒経っても倒れてきたりませんでした。
それを見た魔女っ子さんは満足そうに頷くと、こう言いました。
「うん、これくらい角がたてば充分ですね」
「これって、こんなに疲れるんですね…」
リャナンシーは酷使した腕をぷるぷる震わせながら呟きました。
意思とは関係なく体が動くおかげで途中で遅れたりはしませんでしたが、腕の疲れはどうしようもありません。
「うふふ、慣れないと大変ですよね。でもこれで終わりではないですから、ほら頑張りましょう」
「うう、頑張ります…」
リャナンシーさんはもう正直ヘロヘロだったのですが、魔女っ子さんに励まされて、また頑張ろうと気合を入れ直したのでした。
泡立ったメレンゲに材料を順番に加えていきながら、泡立て器からゴムベラに持ち替えて混ぜていきました。
「ここで混ぜるときは切るように、さっくりと混ぜていくのがポイントですからね」
「切るように、ってこれをどうやったら切れるんですか?」
不思議そうにしているリャナンシーに魔女っ子さんはくすりと笑んで答えました。
「もちろん本当に切るんじゃなくって、こう、底から持ち上げるようにして。
ゴムベラで縦にして切り込みを入れるようにして、混ぜていくのよ」
ゴムベラをボウルの底から持ち上げるようにすれば、混ざりきっていない薄力粉が表面に現れて広がりました。
それをゴムベラで優しく沈み込ませていくのを数回繰り返していけば、ふんわりと全体が馴染んできました。
「さっき一生懸命あわ立てたメレンゲを潰してしまわないように、優しくしましょうね。
潰しちゃうと焼いた時にぺちゃんこになってしまうから」
「え?それは困ります、優しく、底から混ぜるように、ですね」
魔女っ子さんの動きを覚えようと、真剣な表情でつぶやいています。
全部の材料が混ざって仕舞えば、あとは型に生地を流し込んで焼いていけばスポンジケーはおしまいです。
「型に流し込んでいる時に、空気が入ってしまうとそこが穴になってしまうの。だからこうして、軽く持ち上げてから落として空気を抜くのよ」
その言葉通り、ぽん、と軽い音を立てる程度に衝撃を与えれば、生地の表面にぷつぷつと泡が浮かび上がってきました。
不思議そうにしているリャナンシーさんに、繰り返し注意をしていきます。
「高いところから思い切り落としたり、力一杯揺らしたりしないでね。あくまで優しく、ですから」
「う、わかってますよ…」
実はもっと強くすれば綺麗に泡が抜けるのでは、と考えていたリャナンシーさん。
少し後ろめたい気持ちでその注意に、素直にうなずきました。
大丈夫、ちょっとびっくりするかもしれないけれど、怖いことはありませんからね」
そう言うと魔女っ子さんは器用にぱちんと片目だけを瞑ってみせました。
するとウィンクをした方の瞳から、魔力が溢れ出て煌めき始めたのです。
魔女っ子さんの瞳と同じ、若草色をした煌めきはそのまま辺りを漂っていたかと思うと、リャナンシーさんの方へ引き寄せられてるかのように集まっていきました。
自分の周りを覆っているキラキラの輝きに、リャナンシーさんはうっとりして尋ねました。
「これはどんな魔法なんですか?とっても綺麗…」
「これからすぐにわかりますよ。
さあ心の用意をしてください、動きますからね」
魔女っ子さんが言い終わると同時に、リャナンシーさんは自分の体が自分の意思と関係ない動きをし始めたので驚いて悲鳴をあげました。
よく見ればリャナンシーさんの体は、向かい側にいる魔女っ子さんの動きとそっくり同じに動いているのでした。
「まず感覚を掴むには、経験することです。私の動きと連動するので、お菓子作りの動作が流れでわかると思いますよ」
言い終わると同時に、魔女っ子さんは早速ケーキ作りを始めたのでした。
卵を二つほど手に取ると、もう片方の手には大きなボウルを持って、調理台の方に移動していきました。
「まずはさっきと同じくスポンジケーキを作ってみますね」
魔女っ子さんはそういうと、大きなボウルの縁にかしゃんと卵を軽く打ち付けてました。
二つにわかれた殻の中から、卵黄が溢れないよう器用に卵白だけを入れていきます。
リャナンシーさんも魔女っ子さんの向かい側で、同じ動きをしながら卵を割り入れていきました。
前回はどうやっても卵の殻が入ってしまったのですが、魔女っ子さんの動きを真似できている今は嘘のように上手に割ることができたのでした。
こうやって比べてみると、リャナンシーさんは自分がどれだけガチガチに緊張しながら料理をしていたのかがわかって、こうすればいいのかと新しい驚きを得るのでした。
「いい感じ!それじゃ次はメレンゲ作りですよ、ちょっと大変だけど頑張りましょ」
「大丈夫です、頑張れます!」
自分が上手に料理ができているという事実に、夢のような心地になっているリャナンシーさんは張り切って答えるのでした。
先ほど割り入れた卵白の中に、ほんの少しのお塩を加えてから、泡立て器でひたすらに泡立て始めました。
「お塩をほんの少し入れておけば、泡立つのが早くなるんですよ」
「へえ、そうなんですね。魔法でもないのに、不思議だわ」
魔女っ子さんはハタとある事に気がついて、あくまでお塩はほんのひとつまみですからね、と念を押しておきました。
料理が苦手な人は“適量”という曖昧な表現を前にすると予想外の行動に出るものなのだと、先ほどのお試しで十分理解出来たからでした。
リャナンシーさんが忘れても大丈夫なように、レシピの記述も後で書き直しておいてあげようと、魔女っ子さんは頭の中でメモをしておきました。
そうして2人がひたすらにがしゃがしゃと泡立て続けていくと、だんだんとボウルの中の卵白はふわふわのメレンゲに変わっていきました。
泡立て器でメレンゲを掬うように持ち上げれば、ぴんと角が立ち上がりました。
しっかりと泡立てて作った角は、数秒経っても倒れてきたりませんでした。
それを見た魔女っ子さんは満足そうに頷くと、こう言いました。
「うん、これくらい角がたてば充分ですね」
「これって、こんなに疲れるんですね…」
リャナンシーは酷使した腕をぷるぷる震わせながら呟きました。
意思とは関係なく体が動くおかげで途中で遅れたりはしませんでしたが、腕の疲れはどうしようもありません。
「うふふ、慣れないと大変ですよね。でもこれで終わりではないですから、ほら頑張りましょう」
「うう、頑張ります…」
リャナンシーさんはもう正直ヘロヘロだったのですが、魔女っ子さんに励まされて、また頑張ろうと気合を入れ直したのでした。
泡立ったメレンゲに材料を順番に加えていきながら、泡立て器からゴムベラに持ち替えて混ぜていきました。
「ここで混ぜるときは切るように、さっくりと混ぜていくのがポイントですからね」
「切るように、ってこれをどうやったら切れるんですか?」
不思議そうにしているリャナンシーに魔女っ子さんはくすりと笑んで答えました。
「もちろん本当に切るんじゃなくって、こう、底から持ち上げるようにして。
ゴムベラで縦にして切り込みを入れるようにして、混ぜていくのよ」
ゴムベラをボウルの底から持ち上げるようにすれば、混ざりきっていない薄力粉が表面に現れて広がりました。
それをゴムベラで優しく沈み込ませていくのを数回繰り返していけば、ふんわりと全体が馴染んできました。
「さっき一生懸命あわ立てたメレンゲを潰してしまわないように、優しくしましょうね。
潰しちゃうと焼いた時にぺちゃんこになってしまうから」
「え?それは困ります、優しく、底から混ぜるように、ですね」
魔女っ子さんの動きを覚えようと、真剣な表情でつぶやいています。
全部の材料が混ざって仕舞えば、あとは型に生地を流し込んで焼いていけばスポンジケーはおしまいです。
「型に流し込んでいる時に、空気が入ってしまうとそこが穴になってしまうの。だからこうして、軽く持ち上げてから落として空気を抜くのよ」
その言葉通り、ぽん、と軽い音を立てる程度に衝撃を与えれば、生地の表面にぷつぷつと泡が浮かび上がってきました。
不思議そうにしているリャナンシーさんに、繰り返し注意をしていきます。
「高いところから思い切り落としたり、力一杯揺らしたりしないでね。あくまで優しく、ですから」
「う、わかってますよ…」
実はもっと強くすれば綺麗に泡が抜けるのでは、と考えていたリャナンシーさん。
少し後ろめたい気持ちでその注意に、素直にうなずきました。
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