上 下
8 / 42

8

しおりを挟む
  朝になった。
  私が目を覚ますとロイアン殿下はネズミの姿に戻っていた。
  ロンは私の顔の近くで丸くなって眠っている。

  良かった。ネズミの姿に戻っているわ。
  あっ、ロイアン殿下にしてみれば、良くないのか。

  私がロンを眺めていると、ロンが目を覚ました。

「おはようございます。ロイアン殿下」

「おはよう。ロンと呼べと言っているだろう」

「そうでしたね。すみません……ん?」

「えっ?」

「な、なんで言葉を話しているのですか?」

「あれ?  何故だ?」

  私は首を傾げた。

「ロイアン殿下……やはり、王宮に戻った方が……」

「ロンだ。嫌だ!」

  わがままな王子様ね。

「ふー、ロン……とりあえず、ネズミの練習をしましょう」

「ネズミの練習?」

「人前で話したら王宮に連れて行かれますよ」

「それは困るな」

「では練習をしましょう。私が話し掛けても、チューしか言っては行けませんよ」

「分かった」

「チューです」

「チュー!」

「ロン、おはよう」

「チュー」

  うん。これならなんとかなるでしょう。

「ロン、とても上手です」

「チュー」

  そんなやり取りをしていると、メイドが私の部屋に入ってきた。

「おはようございます。お嬢様」

「おはよう」

「今日は起きていたのですね。では、お着替えをしましょう」

「着替え……?」

「ええ、いつも起きたら着替えでしたよね」

「そ、そうね」

  私はロンをちらっと見た。ロンはさっと顔を背けた。

「ねえ、お願いがあるのだけれど……着替えの間はロンを箱の中に入れておいて欲しいの」

「箱ですか?」

「ええ、そうよ」

「ですが、箱ですと呼吸が苦しいかもしれません」

「では、箱に穴を……穴はいけないわ!  穴から覗くかもしれないわね」

「ネズミがお嬢様の着替えを覗くのでしょうか?」

「そうよ。へんた……何でもないわ。そうね……もう一人呼んで、一人は廊下でロンを見ていてもらいましょう」

「かしこまりました」

  無事に着替えが終わった。
  私は朝食を食べに居間に向かった。

「おはようございます」

「おはよう、アネモネ」

  今朝はお母様しか居なかった。
  お父様とお兄様はきっと忙しいのだろう。

  私はお母様とロンと食事を食べた。
  部屋に戻るとロンと二人で話し合いをした。

「ロン……本当に王宮に戻らないのですか?」

「この生活が気に入っているからな」

「そうですか……」

  ならば、ずっとネズミのままでいればいいのに。
  そんな事は殿下に向かって言えないのが残念よね。

「はあ……これからどうします?」

「よし!  デートに行こう!」

「デート……?」

「町に行くぞ!」

  ネズミとデートか……やっぱり、セシルお兄様に素敵な男性を紹介してもらおうかしら。

  私はワンピースに着替えた。
  ちょっと裕福な家のお嬢様風のワンピース。

  ロンと一緒に王都の町に出掛けた。
  馬車の中では、ロンを小さなかごに入れて私の隣に置いた。
  二度と膝の上には座らせません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の推しが婚約者になりました

編端みどり
恋愛
※番外編も完結しました※ 誤字のご指摘ありがとうございます。気が付くのが遅くて、申し訳ありません。 〈あらすじ〉 アマンダは前世の記憶がある。アイドルが大好きで、推しが生きがい。辛い仕事も推しの為のお金を稼ぐと思えば頑張れる。仕事や親との関係に悩みながらも、推しに癒される日々を送っていた女性は、公爵令嬢に転生した。 推しが居ない世界なら誰と結婚しても良い。前世と違って大事にしてくれる家族の為なら、王子と婚約して構いません。そう思っていたのに婚約者は前世の推しにそっくりでした。 推しの魅力を発信するように婚約者自慢をするアマンダに惹かれる王子には秘密があって… 別サイトにも掲載中です。

【完結】男の浮気と女の浮気は違うと婚約者様が仰いましたので

柴 (柴犬から変更しました)
恋愛
”男の浮気と女の浮気は違う” 婚約者であるアルベルト王子にそう言われたヴィットーリアは「この人とは結婚できない」と決意し婚約解消をした。 その理由は…… ざまぁはありません ※なろうさまにも投稿しています

王子の恋愛を応援したい気持ちはありましてよ?

もふっとしたクリームパン
恋愛
ふわっとしたなんちゃって中世っぽい世界観です。*この話に出てくる国名等は適当に雰囲気で付けてます。 『私の名はジオルド。国王の息子ではあるが次男である為、第二王子だ。どんなに努力しても所詮は兄の控えでしかなく、婚約者だって公爵令嬢だからか、可愛げのないことばかり言う。うんざりしていた所に、王立学校で偶然出会った亜麻色の美しい髪を持つ男爵令嬢。彼女の無邪気な笑顔と優しいその心に惹かれてしまうのは至極当然のことだろう。私は彼女と結婚したいと思うようになった。第二王位継承権を持つ王弟の妻となるのだから、妻の後ろ盾など関係ないだろう。…そんな考えがどこかで漏れてしまったのか、どうやら婚約者が彼女を見下し酷い扱いをしているようだ。もう我慢ならない、一刻も早く父上に婚約破棄を申し出ねば…。』(注意、小説の視点は、公爵令嬢です。別の視点の話もあります) *本編8話+オマケ二話と登場人物紹介で完結、小ネタ話を追加しました。*アルファポリス様のみ公開。 *よくある婚約破棄に関する話で、ざまぁが中心です。*随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

トラック事故で消えた幼なじみが騎士団長になっていた

氷雨そら
恋愛
「伝えたいことがある」 高校卒業を控えたある日、電話でその言葉を残し、幼なじみは消えてしまった。 トラックに轢かれたという目撃証言はあるのに、現場には携帯電話が落ちていただけという謎を残して。 七瀬は、彼氏いない歴29年の看護師。そんな七瀬にも、好きな人が全くいなかったわけではない。それは、幼なじみへのほのかな恋心。 「あんな言葉を残して消えるなんて絶対おかしいよ……」 学業や仕事に打ち込み、11年が過ぎたある日。七瀬は異世界転生し、リリアという少女に生まれ変わる。光魔法を身につけて騎士団に入団したその場で出会ったのは。 消えたはずの幼なじみとやり直す異世界ラブストーリー。  幼馴染はハッピーエンドが好きな方に贈ります♪小説家になろうにも掲載しています。 本編完結しました。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...