エルーシアの物語

ねむ太朗

文字の大きさ
上 下
34 / 37

33

しおりを挟む
  王宮の舞踏会から数日経ったある日、お姉様が私の部屋にやってきた。

「どうしたの」

「グリデーラ家からもらったお金の半分は、エルーシアが使いなさい」

「なんで?  そんなのお父様が許してくれるかしら」

「あのお金は、グリデーラ侯爵がプラメル家に迷惑をかけてごめんなさい。と、エルーシアの事を自分の息子が傷つけてごめんなさい。といったグリデーラ侯爵の気持ちが込められているのよ。だから、エルーシアも使うべきだわ」

「お父様は許可をくれたの?」

「もちろんよ。私を誰だと思っているのよ」

  親に説教をして、精霊エミリア様という強い味方がいて、もしかしたら、この国では陛下よりも力を持っているかもしれない……私のお姉様でしたね。

「私のお姉様です」

「そうよ。少しはやいけれど、嫁入りとして持って行くのよ」

「お姉様……ありがとう」

  お姉様は優しく微笑んでいた。

  さらに月日は流れ、私はまめにフォンダーン王国に行き、農作業の手伝いをしていた。
  グリデーラ家からのお金を使った事で、予定よりもはやくに子爵領は豊かになってきた。
  領民も増えてきている。

  フォンダーン王国のお茶会にも参加をした。
  ライングドール王国出身と言っただけで、ちやほやされた。

  私は何を話していいのか分からなかったので……何しろ最近は農作業ばかりだからね。
  とりあえず、美味しい野菜が出来た話をしたら、これがなぜか盛り上がった。
  最近どこの領地でも、昔より美味しい野菜が急に採れるようになったらしい。
  なんと野菜ブーム……

  たぶん、精霊エミリア様の力が影響をしているように思う。
  ライングドール王国が豊かなのも、きっとそういう事ね。
  令嬢達が不思議よね。と話していたので、私も不思議ですよね。と話を合わせた。
  お姉様……私は今、フォンダーン王国で、立派な嘘つきをやっています。

  それから、さらに月日が流れ、私は十八歳になった。
  この間、結婚式を挙げた。
  お姉様達も来てくれたし、領民の皆さんも祝ってくれて、幸せな結婚式となった。

  最近は農作業を手伝う必要は無いが、ちょこちょこ手伝っている。
  おばさま達とのおしゃべりが楽しい。

  夜寝室にて。

「ディリック様、だいぶ豊かになりましたね」

「そうだな。エルーシアのおかげだな」

「ふふ。私は何もしていませんよ」

「もし、エルーシアを助けなければ、精霊エミリア様にたどり着かなかっただろう?」

「確かに……私がお姉様の妹で良かったですね」

「俺達が出会ったのは、運命だったのかもしれないな」

  ディリック様は優しく微笑むと、私を抱きしめキスをした。

  今の私は幸せだ。
  今、ディリック様の目の前にいるのは、本当の私。
  嘘偽りの無い本当の私。
  ディリック様……ありのままの私を好きになってくれて、ありがとう。

  おわり

  長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
誰もが魔力を備えるこの世界で魔力のないオネルヴァは、キシュアス王国の王女でありながらも幽閉生活を送っていた。 そんな生活に終止符を打ったのは、オネルヴァの従兄弟であるアルヴィドが、ゼセール王国の手を借りながらキシュアス王の首を討ったからだ。 オネルヴァは人質としてゼセール王国の北の将軍と呼ばれるイグナーツへ嫁ぐこととなる。そんな彼には六歳の娘、エルシーがいた。 「妻はいらない。必要なのはエルシーの母親だ」とイグナーツに言われたオネルヴァであるが、それがここに存在する理由だと思い、その言葉を真摯に受け止める。 娘を溺愛しているイグナーツではあるが、エルシーの母親として健気に接するオネルヴァからも目が離せなくなる。 やがて、彼が恐れていた通り、次第に彼女に心を奪われ始めるのだが――。 ※朝チュンですのでR15です。 ※年の差19歳の設定です……。 ※10/4から不定期に再開。

転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)
恋愛
 脳筋家族に囲まれ脳筋として育った獅子井桜は、友人から話を聞いただけの乙女ゲームに悪役令嬢シシィ・ファルナーゼとして転生した。  冤罪で断罪されて処刑コースだけは避けたいシシィ・ファルナーゼ。  乙女ゲームの知識もほぼ無く、とりあえず婚約者になるのを避ければ大丈夫だと四苦八苦する。  一方、婚約者の死亡後に冤罪だったと知った王子は何故か婚約前まで時間が巻き戻り、今度こそシシィを信じると誓っているが、巻き戻り前と様子の違う婚約者に戸惑う。  小淑女と呼ばれた完璧令嬢の筈のシシィ・ファルナーゼが、脳筋女子高生獅子井桜の意識で生きていき、一回目とは違う展開になっていく。 ※R15は保険 ※最初だけシリアス なろうさまでも掲載しております

世界最強魔法師の娘〜この度、騎士団で下働きをすることになりました〜

恋愛
 世界最強と謳われた魔法師アダム。  アダムは先の戦争で多大な功績を上げたが、叙爵は辞退し王宮魔法師として働いていた。  魔法以外には興味が無かった彼は、ある日エリアーナと出逢い、大恋愛の末結婚。    しかし、出産と同時に妻であるエリアーナは亡くなってしまう。  愛する妻の忘れ形見であるらララを大切に守り育ててきたアダム。  だが、アダムもララの成人を目前に急逝。  遺されたのは世界最強魔法師の娘。  だがララは下級魔法すら使えない。  しかも、田舎町から一歩も出ない生活をしていたせいで、アダムがそんなに凄い魔法師だと言うことさえ知らなかった。    ララはこれから一人で生きていくため、アダムの唯一の弟子クライヴに頼み込んで騎士団の下働きとして働くことになった。  クライヴはアダムにララの世話を頼まれていた騎士で、ララには実の兄のように慕われている存在。  けれどクライヴは、世間知らずな上に、美しく人の好いララが心配で……?  このお話はそんな二人のお話です。 ※ゆるゆる設定のご都合主義のお話です。 ※R指定は念の為。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでご注意ください。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

王子様、お仕えさせて下さいませ

編端みどり
恋愛
伯爵令嬢のジーナは、本が大好き。ずっと本を読んでいたせいで目が悪くなり、近眼気味。 ある日、兄の職場を訪ねたジーナは図書館らしき場所を見つけて大興奮。兄への届け物も忘れてフラフラと本棚に近づこうとして第二王子を踏んづけてしまう。家が取り潰しされかねない不敬を、第二王子はあっさり許してくれた。 だけど、それを知った王太子はジーナを許さなかった。期限付きで城に留まる事になったジーナは、優しい第二王子に生涯の忠誠を誓う。 みんなに馬鹿にされても、舐められても何も言わなかった第二王子は、ジーナの命を助けたくて今まで逃げていた事に必死で向き合い始めた。全ては、初めて好きになったジーナの為。だけど第二王子を主人として慕うジーナは、王子の気持ちに全く気が付かない。 ジーナと第二王子をくっつけたい王太子の企みをスルーして、ジーナを疑う第三王子の信頼を得て、召喚された聖女と仲良くなり、ジーナの世界はどんどん広がっていく。 どんなにアプローチしても気付かれない可哀想な王子と、少し毒舌で鈍感な伯爵令嬢のラブストーリー。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...