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1. 離婚に向けて

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「クロヴィス様は今日も忙しいのかしら」

「はい。そのようでございます」

 侍女のマノンの返事を聞いたミレリアは、そっとため息をついた。

 第一王子クロヴィスとランチェスター公爵令嬢のミレリアが結婚をしてから半年。
 ミレリアが最後にクロヴィスに会ったのは、二月程前に廊下ですれ違った時だ。

 その時もクロヴィスは、忙しなく大臣と言葉を交わしながら歩いていた。
 ミレリアとクロヴィスの視線が合ったのは一瞬で、軽く挨拶をして立ち去った。

 二人が婚姻を結んでから、寝室を共にした事は一度も無く、クロヴィスとミレリアの不仲説が王宮に広まりつつあった。

「マノン、これを」

 ミレリアはマノンに手紙をニ通渡した。
 一通は友人のロレッタ宛て、もう一通は、返事が来ないであろう夫のクロヴィスに向けて。

 結婚をしてからミレリアは、クロヴィスに何通も手紙を出しだが、返事は一度も無かった。
 婚約をしていた時には、返事が返って来ていたのだが、結婚をした途端にこれだった。

 一向に夫婦の寝室に来ない夫。執務室を訪ねても、忙しいと言われ会えなかった。

 今のミレリアに、クロヴィスと連絡を取る手段は手紙しか無かったのだ。




「ミレリア様、本日はお招きいただきありがとうございます」

 友人のロレッタが王宮に会いに来てくれた。

「新婚で忙しい時にごめんなさい」

「いえ、お義母さまにミレリア様にお呼ばれした事を伝えたら、鼻息を荒くして今すぐ行って来なさいと言われました」

「まあ。候爵夫人たら」

 ロレッタは未来の候爵夫人で、今は嫁ぎ先の勉強で忙しいそうだ。

「忙しいのに、来てくれて有り難いわ。今日は折り入って相談があるの」

「相談……ですか?」

「ええ。貴女なら口が堅いと思って。私、離婚しようと思うの。どうしたら良いかしら」

「り、離婚ですか!?」

 第一王子夫妻が不仲と言う話を耳にしていたが、ミレリアから直接聞いた事が無く、いきなりの事でロレッタは驚愕した。

「ええ。そうよ」

「ですが、離婚をすれば第一王子殿下は……」

「ええ。王太子にはなれないでしょうね」

 第一王子のクロヴィスは、陛下と愛妾の間に出来た子どもだ。
 この国では婚外子でも、父親が認めれば実の子としてとして、届け出を出せる。

 クロヴィスの母は王宮メイドで、クロヴィスを生んだ後も側妃ではなく、妾のままだった。

 クロヴィスには一歳年下の弟のアレックスがいて、アレックスは王妃の子どもである。
 本来ならばアレックスが王太子となっていただろうが、クロヴィスとアレックスを比べてしまうと、クロヴィスの方が優秀であった。

 そこでクロヴィスを王太子にするには後ろ盾が必要で、そこで白羽の矢が立ったのが、筆頭公爵家の令嬢のミレリアを婚約者にする事だった。

 今まではクロヴィスを愛妾の子どもと悪く言う者もいたが、ミレリアと婚約をしてからは一切無くなった。
 陛下とミレリアの父が、全て潰したからだ。

 この国に王家とランチェスター公爵家を敵に回さそうとする者など、皆無だ。
 立太子の儀は、結婚式から一年後を予定している。

「……それは、大変な事ではありませんか」

「ええ、そうね。だからロレッタに相談したのよ。どうすればいいかしら? 出来るだけ穏便に済ませたいのよ」

「穏便にと申しますと、すみやかに離婚の手続きをしたいと言う事でしょうか?」

「ええ。そうよ」

「本当によろしいのですか?」

 ロレッタの瞳が、ミレリアの瞳をじっと見つめた。

「もう、疲れたの」

「ミレリア様は第一王子殿下の事を……その……」

「好きだったわ。でも、それは昔の話よ」

「昔……」

「昔と言っても半年程前だけど。私が裏でなんて呼ばれているか知っている? 跡継ぎを生めない妃よ」

「そんな酷い事を……」

 ロレッタは自分の結婚で忙しく、少し社交の場から遠のいていた。
 それでも、社交界には時折顔を出していたが、そのような話は初めて聞いた。
 主にミレリアの身近な者。王宮内で広まっているのだろうと考えた。
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