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111 婚約破棄からの婚約解消?

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「ローサフェミリア様……フレデリク殿下が昨夜から部屋に引きこもって出て来ないそうです」

 ローサ付きの侍女が報告をした。
 朝は寝ているのかと思ったけれど、昼食の時にも会わなかったなと思ったローサ。
 フレデリクは基本忙しいから気にしなかったのだ。

「えっ! 昨日の夜からってもう夕方よ。丸一日何も食べていないの?」

「はい。部屋の中には入れないそうです。返事が返ってくるので生きてはいるそうです」

「そう。生存確認は出来ているのね」

「はい」

「今から行ってみるわ」

「畏まりました」

 ローサはフレデリクの部屋の前まで来た。

「フレデリク殿下、ローサです。中に入れてもらえないでしょうか」

「……分かった。でも、入っていいのはローサさんだけだ」

「分かりました」

 フレデリクは鍵を開けてローサを中に入れた。
 ローサの侍女や扉の前で心配そうな顔をしていたレイドリックは、そのまま扉の前で待機をした。

 ローサが中に入って見たものは、カーテンを閉め切った薄暗い室内だった。
 フレデリクはローサが中に入るとすぐに鍵を閉め、ソファにふらつくように座った。
 ローサはフレデリクの目の前に座る。

「昨日ぶりですね。昨日は寝不足と言っていましたが、今は具合が悪そうですね。お医者様を呼びますか?」

「いや、いい。病気ではないから」

「そうですか。では食事でもお持ちしましょうか?」

「食べたくないんだ」

「えっと……」

「食欲がなくてね。それよりも大事な話がある」

 フレデリクは悲壮感漂う顔をしてローサに言った。

「分かりました」

「ローサさん……」

 フレデリクは両手を握りしめた。

「はい」

「犯人は兄上だった。兄上は王位欲しさに私にとって大切な人である、ローサフェミリアとローサさんを狙ったんだ。だから、婚約を解消して欲しい」

「えっ? えっと……色々と情報が多すぎて処理しきれません。順を追って説明してもらえませんか?」

 フレデリクは昨日アルカインと話した内容をローサに伝えた。

「なるほど……犯人はアルカイン殿下だったのですね。そうですね。アルカイン殿下には生きて罪を償って欲しいです」

「ああ。申し訳ないが兄上を犯罪者として裁く事が出来ない。証拠が無いし、死神が……と言っても誰も信じないだろう。そして、ローサフェミリアが亡くなったと言ってもローサさんが生きているから、私と兄上の頭の心配をされて終わるだろう。もし、兄上を裁くとすれば、ローサフェミリアは亡くなっていると言う説明を皆にしなければならない。ローサさんは、皆に知られるのは嫌だろう?」

「ええ、それは仕方がない事です。それに関しては大丈夫です」

「……何も出来なくてすまない」

「いえ。大丈夫です。寿命を半分失ったのでしょう? それだけで十分です。アルカイン殿下のお話は分かりました。では、その後の問題発言について話し合いをしましょうか」

 ローサは笑み浮かべたが、目元が笑っていなかった。

「ローサさんが命を狙われたのは私のせいなんだ。私がローサさんと仲良くしなければ、好きにならなければ……ローサさんが命を狙われる事は無かった。全て私のせいだ。申し訳なかった」

「だから、婚約を解消して欲しいと?」

「そうだ」

「婚約破棄をして、よりを戻して、婚約解消ですか……。珍しいパターンですね」

「私は真面目な話しをているんだぞ」

「では、私はフレデリク殿下と婚約解消をして、レイの友人をやめますね」

 ローサはにっこりと笑った。

「レイは関係ないだろう」

「いいえ関係あります。レイと仲良くしなければ、ミリウェイン子爵令嬢に殺されかけなかったんですもの。ですからレイと関わるのをやめますね」

「レイは悪くないだろう」

「そうです。レイもフレデリク殿下も悪くありません。だから、フレデリク殿下が責任を取る必要はないんですよ」

「あっ……いや。だが……」

「いや? あっ。私の事を嫌いになりました?」

「違う! そんな訳ないだろう。私がローサさんを手放すのを決断するのにどれだけ悩んだ事か」

「では、好きですか?」

「ああ」

「ちゃんと言って下さい」

「ローサさんが好きだよ」

「私も好きですよ」

 ローサは嬉しそうに笑った。
 フレデリクは照れ臭そうにしている。

「では何も問題ないですね。食事をお持ちします」

「ありがとう………………ローサさん待って!」

 立ち上がったローサをフレデリクが呼び止めた。

「少しだけこうさせて」

 フレデリクも立ち上がるとローサを後ろから抱きしめた。
 フレデリクがローサを抱きしめる事数分。
 ローサの胸はときめく…………事はなかった。

「フ、フレデリク殿下……」

「何?」

「重たいです。そろそろ限界です。とにかく何か食べましょう」

「ごめん。足元がまだふらついていて」

 少し息を切らしたローサは、深いため息をついたのだった。
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