上 下
43 / 123

42 悠二くんの話

しおりを挟む
「……本当に、悠二くんなの?」

「そうだよ。杏奈が急に別人のようになったから聞いたら、中身はローサフェミリアさんと言う方になっていたんだ。ローサフェミリアさんに杏奈は亡くなったと聞いて、後を追って来たんだ」

「どうやって?」

「トラックに飛び込んだよ」

「ええ!」

「とりあえず、みんな座らないか?」

 フレデリクに促されて、ローサと悠二は座った。

「それで……死んだ俺は黄泉に行って、悪魔にこっちの世界に連れて来て貰ったんだ」

「えっ、あーくんに?」

「ローサさん、私達が知っている悪魔とは限らないよ」

「そうか、そうよね」

「悪魔に出会った俺は、杏奈に会いたいと言ったんだ。そうしたら悪魔は、小僧も私の娯楽の為に力を貸せと言って、気づいたらこの世界で亡くなった人間の身体に入っていたんだ」

「うん。きっとあーくんね。フレデリク殿下はどう思いますか?」

「ああ、私も同じ意見だ」

 フレデリクは少し困った顔をした。

「そう。悠二くんは私を追いかけて来てくれたのね。ありがとう」

 ローサは悠二に、にっこり笑いかけた。

「杏奈を迎えに来たんだ。元の世界には帰れないが、こっちの世界で二人で幸せになろう」

「悠二くん、私は今すでに幸せよ」

 ローサは首を傾げた。

「杏奈はその男と付き合っているのか?」

「いいえ」

「では、恋人がいるの?」

「いないよ」

「なら、俺と幸せになろう。俺達付き合っていただろう」

 ローサは、また首を傾げた。
 ローサにとって悠二くんは、亡くなる半年程前に偶然再開をした、美味しいお店を知っていて、ご馳走をしてくれる高校の頃の同級生だ。
 ローサには付き合っていた記憶は無いが、見方によっては付き合っていたのかもしれない。

「うーん。あのね、悠二くん。悠二くんは友達以上恋人未満なの」

「えっ……」

 フレデリクは悠二を気の毒に思った。

「いつも、美味しいご飯ご馳走してくれてありがとう」

 ローサはにっこりと笑った。

 顔が引きつる悠二。

「杏奈は今、恋人がいないんだろう? だったら、俺にもまだチャンスはあるよな?」

「うーん。私恋愛ごっこをしなくちゃいけないから、あると思う」

 ローサは悠二に向かって、親指を立ててニカッと笑った。
 それを見て慌てたフレデリク。

「待ってローサさん。この国には身分と言うものがあってね。ローサさんは今、公爵令嬢だから難しいんじゃないかな?」

「そうなの? けれど、ケネスとエミールが結婚をしたら平民になるんでしょ?」

「そうだけど。ハイデランド子爵令息は、元々子爵家の生まれだから、給与が良い働き口を見つけ易いし、お金には苦労しないんじゃないかな? こねがあるからね」

「俺だって結構稼いでいるぞ」

「一般の方の普通と貴族出身の普通では、額がかなり変わると思うよ」

 悠二は少し黙った後、口を開いた。

「顔を見せても絶対に声を出すなよ。バレると面倒なんだ」

 悠二はフードを少しずらして、顔を見せた。
 ローサとフレデリクは、目を見開いた。

「なっ、それなりに稼いでいるって言ったろう。元々農家出身だったんだけど、俺の性格には合わなくて、しかもこの細い体だろう。杏奈も王都にいそうだし出てきたんだ」

「悠二くんはレイノス様なの?」

 ローサは小声で聞いた。

「うん、まあな。元々向こうの世界で俳優をやっていたから、やっぱりこの仕事が一番しっくり来るんだよなー」

「そうなんだ」

「今日の公演を見に来ていただろう? 悪魔から杏奈はオルブライト公爵令嬢になったって聞いていたから、今日逃したら会えなくなると思って、終わって急いで街を探したんだぞ」

「そうだったの。私の事は杏奈ではなくローサと呼んで。杏奈はもうローサちゃんのものなの。私の中にはローサフェミリア公爵令嬢が入っているんだ」

「分かった。じゃあ、俺の事はレイと呼んでくれ。ついでにあんたも」

「分かった。あんたじゃなくて、フレデリク殿下よ」

「殿下だって!?」

 レイは驚いた顔をした。

「はじめまして、フレデリクと申します」

「ああ……レイです」

「どうぞよろしく」

「はあ、まあ」

 フレデリクとレイは握手をした。
 フレデリクは、顔は笑っているが目が笑っていない。
 レイは王子様との握手に戸惑っていた。

 ローサとレイは連絡先を交換して別れ、フレデリクはローサを寮まで送って行った。

 寮の自分の部屋に戻ってから、ローサはふと気づいた。

 あれ? 悠二くん……レイは、私の事を恋人だと思っていたのよね。
 では、私を殺したあの女はいったい誰?
 まさか、悠二くんは二股をかけていたの?
 あの真っ赤な口紅の女も、興奮し過ぎて何を言っているのか、分からなかったのよね。

 世の奥様方に恨まれる事をしてきたと自信を持って言えるローサだったが、二股をかけられて、それが原因で死ぬのは納得がいかなかった。

 ローサは今度会った時に、レイに聞く事にして眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...