上 下
19 / 20
2章 表と裏

17 幼馴染

しおりを挟む


仁軌じんき様。配信機材のセッティング完了しました。チャンネルも開設しておきましたので、後はご自由にどうぞ」

「ありがとう、秘書ちゃん」

「仕事ですのでお礼は結構ですよ」

 担当官になった卜部うらべさんは本当に頼りになる。
 機材の手配から設定まで全て半日でやってのけてしまった。

 交流も進んでおり、色々と話していくうちに敬語は不用と言われたので、軽い口調で言葉をわすようになった。

 呼び方も「お好きに呼んで下さい」と言われたので試しに「秘書ちゃん」と呼んでみたら、一瞬ジト目で返されたが「それでも構いませんよ」と諦めたような表情をしながら認めてくれた。

 美女のジト目ってなんかゾクゾクしていいよな。うん。

 警護官の3人は俺に全肯定なので、ときに厳しい口調でいさめてくれる存在は貴重だ。

 と、思っているところにトコトコと全肯定その1をかんするキョウカちゃんが近寄ってきた。

 転移の一件もあり、結局キョウカちゃんたち警護官には自宅内で護衛してもらうことになった。

菅井すがい様、動画配信なさるんですね。素晴らしい社会貢献こうけんです。私も登録しないと……。どんな内容の配信をされるんですか?」

「うーん、まだ良く考えてないんだよね。ゲームは好きだからやりたいし、ダンジョン攻略を配信で流すのも楽しそうだよなー」

 キョウカちゃんは興味深そうな表情で質問してきた。

 配信が社会貢献っていうのは意味がよく分からないが、男性が配信するのは女性中心の社会に対して貢献していると捉えることもできなくはないのか?

 まぁ正直、何をするかは決まっていない。計画性皆無かいむってやつだ。
 自分が楽しめることをやりつつ、視聴者にも楽しんでもらえるのが理想ではあるから、試せるものはチャレンジしていこう。

「旦那様。ツブヤイター、フォローした」
「アタシもチャンネル登録しといたぞ」

「お、マロンもアカネもありがとう。ツイッt……じゃなかった、ツブヤイターのアカウント作ったばっかりなのに良く分かったなー」

 この世界ではアプリやウェブサイトの名前がユルチューブとかツブヤイターとか微妙に違うから言い間違えに気を付けないといけない。

「愛の力」
「アタシはうといからマロンに教えてもらった」

 すごいなマロン、愛で分かるものなのか。
 本名に近い名前、『ジン・ガイスキー(Jin Gajski)』で登録しちゃったのはやっぱりまずかったかな?

 アカネは素直でよろしい。実に解釈一致である。
 
「って、もうフォロワー1000人か。やっぱりこの世界の男性需要は高いのか」

 今日作ったばかりのアカウントの伸びがえげつない。
 まだアイコンもヘッダーも初期状態でツブヤキもしてないのに、良く見つけられるなー。

「せっかくだし、今日から配信しちゃうか。えーと、配信予約してサムネイルは……あと初ツブヤキになるけど、配信告知しておくか」

 配信のやり方自体は幼馴染がVtuberで、配信の様子を見学していたことがあるから何となく分かる。
 あいつには「お前は声が良いから絶対やれ」って口うるさく言われたが、幼馴染が所属している事務所は女性しかいなかったし、個人でやるのは無理だろうと思って諦めたんだったな。

 しばらく会ってないけど、幼馴染あいつ元気にしてるかな。
 と言っても世界が変わってるし、もう二度と会うことはできないのか。ちょっとさびしさが込み上げてくる。

 これから配信するんだし、気持ちを切り替えていこう。

 周辺機器の準備は完了したので、後は配信で何をするか決めよう。
 初配信は雑談枠になりそうだが、定期的にゲーム配信はやろうと思っている。ただこの世界のゲームについては、1ミリも分からないから聞いてみるか。

「みんなってゲームとかやる? 好きなゲームとかオススメがあったら教えて欲しい」

「私は迫り来る女性たちから男性を守るタワーディフェンスゲームが好きです! オススメは『警護官ミッション2~侵略のモンスターズ~』です!」

 キョウカちゃんが目をキラキラさせながら早口で答えてくれた。
 戦略系のゲームで面白そうだが、いきなりナンバリング作品の2からやるのはやめておこう。やるなら1から遊んでみたい。

 拠点を守りきれなかったら男性がモンスター娘に襲われるのはポイント高いな。

「アタシはあんまりゲームはしねぇなぁ。あ、でも敵をバッタバッタ倒すやつは好きだぜ。『ライジングゾンビ』とかゾンビぶっ飛ばせてスカッとすんだよなぁー」

「脳筋」

「はいはい、アタシは脳筋ですよー」

 マロンに言われ口をとがらせてねちゃったアカネがちょっと可愛い。
 彼女はイメージ通り戦闘系のゲームならやるみたいだ。ゾンビ相手に銃とか使わず肉弾戦をする姿が目に浮かんでくる。

「ゲーム、未経験」

 マロンはゲームやらないのか。
 1級冒険者だとダンジョン攻略が忙しくてあんまり暇がないのかもしれない。

わたくしもやったことはありません」

 秘書ちゃんも同じく、と。
 イメージとしては勉強ばっかりしてそうなタイプに見えるし、イメージ通りではある。

 となると、この中で最近のゲーム事情に精通していそうなのはキョウカちゃんくらいか。

 この世界の男女比的に女性向けのゲームが多そうだから、男性でも楽しめそうなゲームがないか聞いてみよう。

「キョウカちゃん、男がゲームするなら何がオススメかな?」

「男性に人気なのは『どうぶつ村づくり』や『牧場ストーリー』ですかね。ほのぼの系のゲームや可愛い系が人気です。女性でも好きな人は多いので、ある程度人気なゲームなら間違いなしだと思います」

 おっと、貞操観念逆転世界なのを忘れていた。こういう好みも逆転してると考えた方が良いのか。

「FPSとかって男性はあんまりやらない感じ?」

「割と女性向けですが、男性は結構珍しいくらいでやってる方はいらっしゃると思いますよ。バトルロワイヤルのシューティング系なら『バーテックスVERTEX』が人気ですね」

 なんか似たような名前のゲームが元の世界であったなー。

 多分やり方はそこまで変わらないだろうし、候補に入れておこう。

「みんな意見ありがとう。そろそろ、初配信してみるよ」

「待機しときます!」
仁軌じんきさんの活躍しっかり見ねぇとな」
「楽しみ」
「では、マウスを左クリックして下さい」







:サムネも画面もシンプルすぎw
:ダサ……くはないです、はい。
:みんな大人しく待機やで
:ワイには分かる。ぬしは男や。
:おとこぉぉぉぉぉうぉぉぉぉぉ!
:サムネ草
:名前ジン・ガイスキーか。フォローもした。
:名前ジン君って呼んで良いのかな?
:ジンジンしてキター!
:みんな落ち着けwww


 男性が動画配信するという情報を掲示板で見つけた私、宇多うだ定省さだみは、待機画面を開きながらコメントらんをボーッとながめていた。

 白地しろじに細い黒字で初配信と書かれたサムネイル。待機画面にも同じものが表示されており、無骨ぶこつな印象を受ける。

 きっと、配信慣れはしていないのだろう。
 私も最初の頃はサムネ1つ作るのさえ大変だった。

「あれ? 押したけどなんか変わった? 配信ついたかな? コメントどうやって見るんだ?」

 衝撃を受けた私は、目をカッと見開いた。


:ジンジンキタキタ!
:ン?! 本物の男!?
:セクシーイケボやん
:いやマジで男やん最高!
:をまいらおおおをちつけってwww
:コメント見えてないんか?
:うわ、もう推します。まぢ良すぎる。
:感謝マジ感謝
:しゅてき!
:たのむスパチャさせてくれ


「ガイスキー様、現在配信中です。お気をつけ下さい。こちらのタブからポップアップできます」
「お、ありがとう秘書ちゃん。これでコメント見られるよ」


 大人びた優しげな声音こわねに、どこか懐かしさを感じる。

 幼い頃の感情が徐々に胸に込み上げてくる。


:お、ぬしはもしかしてポンか?
:もう誰よその女ァ!
:てぇてぇか?
:とっても仲良さそうですね。珍しい。
:うぉぉぉぉぉおとこだぁぁぁぁ!
:らメェ! 耳が妊娠しちゃうぅ!
:デリカシーないコメ欄だなwww
:ゆっくりでええんやで
:レアですよね、女性にお礼を言う男性。
:うらやま
:語彙力ないやつおるて
:くっ、スパチャできない!


「おぉ、コメントの流れ早っ! え、同接1万超えてるし!? あー、今のは俺の担当官です。配信準備とかしてもらってました」


 幼い頃に遊んだ男の子の顔が頭に浮かんでくる。

 いや、そんな訳ないか。
 声もちょっと違うのに、何考えてるんだろう。

 私の捨てきれない恋心が、彼とジン・ガイスキーさんを勝手に結びつけているだけだ。


:お小遣い稼ぎならお姉さんが養ってあげるわよ
:もしかして担当官付きってことは……?
:いやマジか。Gランクじゃないのか。
:ワイは何でもええ。声が好きや。推すで。
:セクハラになるからランク聞くのはダメよ
:開始から1分で同接3万www
:ヲタク共、今こそ出番や。拡散するで。
:これもう5万はいきそう
:えっ、担当官と仲良いとかマジか。
:てかぬしは女苦手じゃないん?


「あーえっと、ランクは内緒です。チャンネル登録ありがとうございます。女性は苦手ではなく、むしろ好きですよ」


 彼は女性が嫌いになってしまったはずだ。

 あぁ、違うはずなのに、鼓動こどうがどんどん早まっていく。

 胸も、息も苦しい。

 私があのとき彼に対してあんなことをしなければ、彼との関係は続いていたのだろうか。
 彼は女嫌いにならなかったのではないのだろうか。

 締め付けられた胸を押さえながら、私は彼の顔を思い浮かべる。


「ジンキ…………」


 幼い日に私が傷つけてしまった男の子の名前は、どこかこの配信者と似ている名前だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男がほとんどいない世界に転生したんですけど…………どうすればいいですか?

かえるの歌🐸
恋愛
部活帰りに事故で死んでしまった主人公。 主人公は神様に転生させてもらうことになった。そして転生してみたらなんとそこは男が1度は想像したことがあるだろう圧倒的ハーレムな世界だった。 ここでの男女比は狂っている。 そんなおかしな世界で主人公は部活のやりすぎでしていなかった青春をこの世界でしていこうと決意する。次々に現れるヒロイン達や怪しい人、頭のおかしい人など色んな人達に主人公は振り回させながらも純粋に恋を楽しんだり、学校生活を楽しんでいく。 この話はその転生した世界で主人公がどう生きていくかのお話です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この作品はカクヨムや小説家になろうで連載している物の改訂版です。 投稿は書き終わったらすぐに投稿するので不定期です。 必ず1週間に1回は投稿したいとは思ってはいます。 1話約3000文字以上くらいで書いています。 誤字脱字や表現が子供っぽいことが多々あると思います。それでも良ければ読んでくださるとありがたいです。

裏アカ男子

やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。 転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。 そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。 ―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)

京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。 だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。 と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。 しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。 地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。     筆者より。 なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。 なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...