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2章 表と裏
15 担当官
しおりを挟む「事情は把握致しました。今後は【夜の帝王】のスキルをオフにしていただきますよう、お願い致します」
「分かりました。夜分遅くにご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ないです」
「ええ、全くですね。仁軌様はご自身の重要さをもう少し理解して下さいませ。脱出するためにダンジョンの入口方面ではなく、踏破に向かったことも褒められた行動ではありませんよ。今後軽率な行動はお控え下さい」
グサグサっと心に刺さる言葉をジト目で言い放ったのは、俺の担当官になった卜部慶子さんだ。
俺の失踪が危うく事件になるところだったようで、早朝にもかかわらず彼女が呼び出されたらしい。
事情を詳しく教えて欲しいと言われたので説明したところ呆れ顔にさせてしまったが、彼女は各所へ連絡してくれて事態を収めてくれた。
「本来なら本日の午後にお伺いしてゆっくりとお話しする予定でしたのに。しかしながらスキルが自動で発動してしまったのですから、仕方ありませんね」
貞操逆転世界にも、男性に当たりが強い女性は存在するみたいだな。
やれやれといった顔をしながら、プラチナブロンドの髪を少し揺らす卜部さん。顔立ちも日本人離れしており、国際映画女優顔負け。あまりに顔が整い過ぎているから、最初は絵画から出てきたのかとか、精巧に作られたアンドロイドか何かかと疑ってしまったくらいだ。
聞いてみたら人工授精でヨーロッパ系の血が入ったハーフらしい。
「ダンジョンから帰還されてバタバタしてしまい、お疲れでしょう。もう一度お休みになりますか?」
「あー、いや、アドレナリンでも出てるのか全然眠くないんですよね」
現在時刻は午前4時過ぎ。
ほとんど寝てないのに眠気なんてどっかへ行ってしまった。
「そうですか。では担当官についての説明を先に済ませておきましょう。改めまして『男性省男性生活サポート局個別補佐担当官』の卜部慶子と申します。職務内容は簡単に言いますと、男性の個人秘書です」
担当官は生殖能力のある男性へ国からつけられる秘書らしい。
公務員であり給料は国から出るが、男性個人に帰属し、男性の希望を可能な限り実現していくことを第一に行動してくれる。
「私がお気に召さない場合は担当官を変更することも可能です。お気軽にチェンジとお申し付け下さい。ちなみに、一度担当になった担当官は別の男性の担当をできませんので、私は無職になります。ですがどうぞ私のことはお気になさらずに。何か質問はございますか?」
いや、そんなこと言われたら気軽にチェンジとか言えないんだが。特にチェンジする気もないけどな。
「担当官の勤務時間ってどうなるんですか?」
「おはようからおやすみまでサポート致します。年中無休で睡眠時間は切り詰めますのでご安心下さい」
いやいや、怖いよ。全然安心できないんだが。
「ジョークです。休みの日は別の者が臨時で対応致します。夜間は専用ダイヤルがありますので、そちらにご連絡下さい」
何を当たり前なことをといった飄々とした態度を取られてしまった。淡々と言われたら嘘か本当か分かりづらいところである。
「分かりました。秘書にはどんな仕事を頼んで良いんですか?」
「法律に反する命令はできません。Aランクの男性のためでしたら、無理難題でなければ、基本的には何でも対応致します。スケジュール調整やアポイントメントの確認。必要な物や人物の手配もお任せ下さい。勿論、献精のお手伝いも致します。どこでもお好きにお使い下さい」
うーん、ちょっと反応に困る。
基本的な仕事はイメージ通りの秘書って感じか。
「出勤というか、勤務形態はどういう感じになるんですかね? 家に来るんですか?」
「男性の皆様は担当官にも近づいて欲しくないと仰られる方が多く、メッセージや電話対応がほとんどです。仁軌様が毎日家に来いと仰るのでしたら私は朝早くに起きてすぐに支度をして向かいますよ。喜んでさせていただきますとも」
暗に面倒だというニュアンスが含まれているように聞こえる。言葉に棘があるというか、シニカルというか。
となると、彼女の基本的な仕事内容はコンシェルジュに近いのかもしれない。
呼び出せば秘書で普段はコンシェルジュ、と。大体こんなイメージで良いだろう。
「月に1度は訪問しなければならない規則がありますので、そのときは会っていただけませんと困りますね。頭の隅にでも留めておいて下さいませ」
「了解です。後は引っ越しとか今後の話をしたいんですけど、大丈夫ですかね?」
「本来であればそちらが本題でしたからね。本来であれば」
人の心を抉るのがお上手なようで。
それからまずは引っ越しの話を進めた。
「話を伺う限り節操なしの仁軌様は配偶者が多くなりそうですからね。とりあえずマンションでも用意致しましょうか?」
確かに節操なしと言われたら反論できないけども。ちょっとはオブラートに包んで欲しいよ。
「あの、マンションって、とりあえずで用意できるもの何ですか?」
「ちょうど新築で50階程度のマンションがありますので、国に買ってもらいましょう。一軒家の方がよろしいですか? 建設まで時間がかかることになりますが」
結局卜部さんの勢いに負けてマンションをもらうことになってしまった。
「当面の生活サポートはどういたしましょうか?」
冒険者講習のスケジュールや、今後やりたいと思っていることを彼女に伝えると、メモを取っているのかスマホを操作していた。
「まず冒険者になりたい、と。国としては全力で止めたいところでしょうが、担当官としてしっかりサポートさせていただきます」
冒険者になることは反対されなかった。ひとまず安心だな。
「直近の予定は明日に冒険者ギルドで講習。明後日に専属警護官の面接ですね」
今のところそんなに予定が詰まっているわけではないな。
面接も楽しみだな。この世界の女性たちはみんな可愛い子や美人さんばかりだから、やっぱり期待してしまう。
「配信機材は注文致しましたので、今日中に届きます。夕方にはセッティング等も完了するのでご自由にお楽しみ下さい」
動画配信などをやってみたいという意見も聞き入れられ、トントン拍子で決まっていった。
そういえば機材は選ばせてもらえなかったな。俺はPC関連に詳しいわけじゃないし、この世界のメーカーとかも全く分からないので、任せるのが正解だろう。
「献精はいつでも可能です。あと、昨日の精液検査で提出された量が多かったため、検査に使わなかった精子を国が買い取らせて欲しいそうです。オークションに出すことも可能ですが、どう致しますか?」
ほぅ、これは稼ぐチャンスだな。
買い取りだと値段は固定だろうが、オークションなら金額が跳ね上がる可能性がある。
断る理由も特にないから、素直にオークションでお願いしておこう。
「じゃあオークションで」
「畏まりました。伝えておきますので、一旦席を外しますね」
さて、色々話が進みすぎたが、だいぶ纏まってきたな。
直近の予定が冒険者講習と警護官の面接。
準備ができたらもらったマンションに引っ越し。
動画配信や献精は自由にやって良し。
オークションでお金も手に入る。
何より、これら全部を簡単にサポートしてくれる頼りになる秘書ちゃんが来てくれたことが嬉しい。
彼女はちょっと俺への当たりが強いものの、仕事がバリバリできるって感じだし、オマケに超絶美人だ。
優秀な秘書ちゃんをゲットしたことや、これからのイベントの数々が楽しみで上機嫌な俺は、彼女の背中に暗い影があることに気がつくことはなかった。
◇
「彼との会話の録音データは送信致しました。ご命令通り、男性に嫌われる態度や言動で接しております」
「ご苦労様ね、卜部の忌み子さん。後はアンタが解雇されるのを待つだけね。とにかく彼に嫌われて、担当官を変更させるよう仕向けなさい。アンタなんかに、彼のような世界一素晴らしい男性は不釣り合いよ。ちゃんと分かっているんでしょうね?」
「はい。存じております」
「ならいいわ。ま、アンタが彼に気に入られるなんてことは万が一、いえ、億が一にもないでしょうけどね」
「………………はい」
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