上 下
1 / 20

プロローグ

しおりを挟む


「おーい、仁坊じんぼぅー、競輪行くぞー」

「ジィちゃん、今行く~」
 
 ジィちゃんと出かけるなんて、久しぶりだなぁ。それになんだか、俺の声が幼く感じる。

 仕事へ行かずに昼間ぴるまからジィちゃんと競輪。最高だな。

仁坊じんぼぅ、この車券買っといてくれるか?」

「もぅジィちゃん、僕まだ子供だから買っちゃダメなんだけど」

「大丈夫大丈夫。ジィちゃんはちょっとトイレ行ってくるわ。釣りでジュースでも買って待っててなぁ」

 全く、ジィちゃんは。

 あれ?
 俺子供じゃないから買っても大丈夫なはずなのに、おかしいな。

 あぁ、そっか。これ夢なんだな。

 ジィちゃんは3年ほど前に亡くなっている。

 最近家族とも疎遠だし、子供の頃が恋しくなってこんな夢を視てしまっているのだろう。

「今日は散々だっなぁ。仁坊じんぼぅ、来週はナイター競馬だぞぉ」

「もう、ジィちゃん。今日あんだけ負けたのに。しょうがないなぁ」

 ジィちゃんの楽しそうな表情に、幼い俺の呆れ顔。

 なんだかんだ言っても、ジィちゃんと出かけるのは俺の楽しみだったな。

 どこかおかしくって、懐かしくなって、寂しい気持ちになって、込み上げてくるものがある。

「そうだ、仁軌じんき。将来お嫁さんができたら、ジィちゃんみたいにギャンブルばっかりするんじゃないぞぉ」

「僕はしないよ! それに、僕にお嫁さんなんてできないよ。学校で……ううん、なんでもない」

 冗談や下ネタばっかり話すジィちゃんが、俺を仁軌じんきって呼ぶときは、真剣な話をするときや、真面目なことを言ってるときだ。

 いつも笑顔でくしゃくしゃの表情のジィちゃんが、キリッと真面目な顔をするのが俺はなんとなく好きだった。

「学校でなんかあったか? 辛いことがあったら、いつでもジィちゃんに言うんだぞ」

「うん、ジィちゃん。何にもないよ! 大丈夫!」

 あぁ、嘘をついてしまった。
 俺は子供の頃、女の子グループにからかわれたり、イジメられたりしていたんだ。

 ジィちゃんは何か察してくれていたのかもしれない。それでも俺は、ジィちゃんの悲しい顔を見たくなかった。心配させたくなくて、一人で抱え込んでしまった。

「そうか。ジィちゃん早く孫を抱っこしたいから、女の子とは仲良くするんだぞぉ」

「う、うん」

 ごめんな、ジィちゃん。

 結局俺はジィちゃんに曾孫を見せてあげられなかった。

 青年期は3次元の女性が苦手になって、2次元の女の子にハマった。
 大人になってからは女性不信は回復したが、2次元にハマったことからは抜け出せずに今でもドップリ。

 特に好きなのは、現実には存在しない人外娘だ。
 あ、人外娘が好きな人外スキーだからといって、普通の女の子を好きになれないとかじゃないがな。

 結局、三十路みそじ手前になって、いまだに彼女ナシ、経験ナシ。

 俺、このままだとジィちゃんと天国で顔を合わせられないよ。

仁軌じんきがお嫁さんもらえなかったら、ジィちゃんがなんとかしてやるからな」

「もぅ、そんなのいいって。ジィちゃんは心配性だなぁ」

 ぐはっ、ジィちゃんの心配した通りになっちまったよ。

 ジィちゃん孝行こうこうの為にも、そろそろ婚活とか考えないと、か。

 この夢をた意味は、そろそろなんとかしろ、っていうジィちゃんのメッセージかもしれない。

 貯金はそこそこあるし、これを機に色々と始めてみようかね。

「そうだ、仁坊じんぼぅ。お嫁さんいっぱい作ってハーレムにしたらどうだー。賑やかで楽しいぞー」

「もぅ! ジィちゃん!」

「ハハハハ」

 全く、彼女もできたことない俺が、ハーレムなんてできっこないだろジィちゃん。

 そんなことが可能なのは、男性の数が極端に少ない貞操ていそう逆転の、所謂いわゆるあべこべ世界くらいなものだ。

 貞操逆転世界に転生できたら……いや、そんなラノベみたいな非現実的なこと、起こるわけがないか。

仁軌じんきはジィちゃんの孫だからハーレムくらい作れるぞ」

「はぁ、ハーレムなんてムリだよ」

「ムリじゃないぞぉ。ジィちゃんがドイツに出張してた頃はベルリンの壁っていうのがまだあってな、東ドイツと西ドイツの両方で彼女を作って……九州の出張でも……北海道の子は医者の卵で…………」

 ジィちゃんの昔話は長いけど、まるで本の中の話みたいで嫌いじゃなかったな。

 めちゃくちゃモテたジィちゃんの血が、本当に俺に流れているのか疑わしくなるよ。

 性格も全然違うし、なんか似てるのは名前くらいだ。

 俺は菅井すがい仁軌じんきで、ジィちゃんが菅井すがい金次きんじ

 俺の名前の由来がジィちゃんなのは、誰が見ても分かることだろう。

仁軌じんきは優しい子だから、女の子を大切にできる。だから仁坊じんぼぅ、好きなだけハーレムを作れ!」

「いや、僕にハーレムはムリだって!」


 ジィちゃん、楽しい夢を視せてくれてありがとな。

 ハーレムは無理だろうけど、頑張って3次元の女の子と仲良くなってみるよ。

 夢の終わりが近づいて、段々と意識と記憶が薄れてゆく。

 夢の内容は忘れてしまっても、決意だけは忘れないように深く心に刻むとしよう。

仁軌じんき、これから大変だろうが、ジィちゃんは応援してるぞ』

 笑顔のジィちゃんが、どこか嬉しそうに、励ますように、俺のことを見守っているような、そんな気がした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したのに何も出来ないから、、喫茶店を開いてみた

k
ファンタジー
新島 仁 30歳 俺には昔から小さな夢がある まずはお金を貯めないと何も出来ないので高校を出て就職をした グレーな企業で気付けば10年越え、ベテランサラリーマンだ そりゃあ何度も、何度だって辞めようと思ったさ けど、ここまでいると慣れるし多少役職が付く それに世論や社会の中身だって分かって来るモノであって、そう簡単にもいかない訳で、、 久しぶりの連休前に友人達と居酒屋でバカ騒ぎをしていた ハズ、だったのだが   記憶が無い 見た事の無い物体に襲われ 鬼に救われ 所謂異世界転生の中、まずはチート能力を探す一般人の物語である。 本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

近況ボードも投稿するん? ボケ老人(笑)の夢の軌跡報告書! 結果が全てと言い切る営業マンがお送りします!

虎口兼近
エッセイ・ノンフィクション
寄る年波には勝てないボケ老人(笑)が、妄想ファンタジー歴史シミュレーションゲームの現実でのゲーム化を目指す! エタるより老い先短い方が心配(笑)な老人が、運命に抗い、悪戦苦闘する、リアルな挑戦の物語。 果たしてボケ老人(笑)は、物語を完結させる事が出来るのか? はたまた、完結までお亡くなりにならずに、生きられるのか? ボケ老人(笑)の、涙と、汗と、笑いの、物語開幕です!  あなたの人生の天啓に、如何でしょうか? 結果が全てと言い切る営業マン、虎口兼近がお送りします。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】転生先は男女比1:30の貞操逆転世界~ビッチを夢見る三十路の魂~

尾和 ハボレ
恋愛
再公開とともに、他サイトで公開していた部分を校正しつつ投稿して参ります。 新規部分についての投稿時期は未定ですが、よろしくお願いいたします。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

処理中です...