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1章 始まりの一日

02 病院と白衣の天使

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「送迎費や護衛費は国から支給されます。依頼と言っても公的依頼になりますので、菅井すがい様が本日お金を出される必要はありません。あ、お腹が空いたりのどかわいたりしたら遠慮えんりょなくおっしゃって下さいね! 今日は全部国から出ますから!」

 車での移動中、俺はキョウカちゃんに色々な質問を投げかけていた。

 一番心配だったのは費用面。
 病院は時間も金もかかるところだ。

 男だから負担額減ったりしないかなと思って聞いたら、なんと精液検査は義務だから国が全部出してくれるとのこと。
 更に別途べっと外出でかかったものまで必要経費として出してもらえる。

 男性はただただ検査を受けて帰るだけで良くて、経費の申請とか面倒なことはキョウカちゃんが後でやっといてくれるようだ。キョウカちゃん、マジ感謝。

 初の精液検査の日は、それほど国にとって重要なことなのだろう。

 精液検査。
 精子提供……もとい献精。

 男女比が偏ってしまった世界において、人類の種を存続させるためにできた制度である。

 男女比は1:199で、現在人口約1億人の日本では、男性は50万人程度。

 日本はまだ男女比がマシな方で、世界各国の男女人口格差は更に開いてしまっている。

 次世代に繋いでいくには男性の精子提供は必要不可欠。ゆえに精子提供は義務として存在する。

「初めて精液検査をされる男性の方々はかなり不機嫌ふきげんだったり、取り乱されたり、絶望した表情だったりすると先輩冒険者に伺っていたので意外でした。菅井すがい様はとっても冷静なお方なんですね。それに男性なのに言葉遣いも丁寧で……あ、私に敬語じゃなくて大丈夫ですよ!」

 チラリとミラーで俺の顔をのぞき見て、すぐに顔を赤らめるキョウカちゃん。ウィンカーを出しながらハンドルをしっかり両手で回しているこの美女も、男性経験は皆無かいむだそうだ。さっき聞いた。

 貞操逆転こういう世界では普通、男性というのは女性が苦手だったり、精子提供が苦痛だったりというのが定番テンプレである。

 しかしテンプレを知ってるがゆえにワクワクしている自分がいる。

 まずは精液検査とやらで最高ランクを叩き出し、チヤホヤされるのを目指そうと決意しつつ、更なる疑問をキョウカちゃんにぶつける。

 キョウカちゃんは嫌な顔一つせず、この世界では当たり前のようなことでもしっかりと教えてくれた。


・精子提供は義務と任意があり、特に任意を献精という
・精液検査は満15歳の誕生月に行う
・ランクはA~Gの7段階

・精子提供は月に1回
・精子提供開始日は満15歳の誕生日翌月一日いっぴから末日まで
・精子提供は非課税ひかぜいの助成金が一律10万円貰える
・精子提供は基本担当官が自宅まで回収に来てくれる(病院や役所の男性課でも対応可)
・生殖能力が無い場合(Gランク)は義務が免除めんじょ

・献精は回数限度無し
・献精は一回提供するごとに精子ランクに応じて非課税の助成金が貰える

・精液検査及び精子提供では専用の器具を使用できる
・精子は専用の容器に入れる
・第1種~第3種契約者、担当官、看護師などに補助をさせることができる
・基本は手助けなく自分で済ませる人がほとんど


「契約者って何かな?」

「第1種が同棲どうせいする配偶者、同居妻で、第2種が同棲しない配偶者、通い妻です。そして第3種は専属の男性警護官などの、手付きです!!」

 結婚の別言い方なんだな。
 つまり、ハーレムオッケーってことか。

 法制度が男性にハーレムを推奨すいしょうしているのは朗報ろうほうだ。それだけでウキウキしてしまうな。
 まぁこの世界に女性の知り合いはキョウカちゃんくらいしか居ないから、ハーレムなんてもっと先の話になりそうだが。

 そうそう、第3種を説明しているときだけキョウカちゃんの気迫を感じた。動物が獲物を狙うときのような獰猛どうもうな目をしていたのだ。

 俺が狙われているのか、はたまた他に狙っている男でもいるのかは分からない。
 あのとき、俺の背筋がブルッとしたことだけはまぎれもない事実として記しておこう。


「到着です! 病院に連絡するのでもう少々お待ち下さい!」

 既に予約は取っているのだから連絡する必要は無いんじゃないかと思ったんだが、窓から目に入るのは関係者入口という文字。

 まさか男性は表口からじゃなくて裏口から入るのか?

 しかも到着したのはそこそこ大きめのクリニックとかではなく、どデカイ大学病院だ。
 こんなところに来ると、ヤバイ病気を罹患りかんしたような気になりソワソワしてしまう。

 キョウカちゃんが連絡を終えるとすぐさまベテランっぽい医師と、10人を超える看護師が駆け足でやってきた。
 ベテランの先生の名札に教授という文字がチラリと見えたが、何も見なかったことにしよう。うん。

菅井すがい仁軌じんき様。職員一同お待ちしておりました。本日の検査の担当を致します、関東大学医学部附属病院男性診療科主任教授の二条にじょう雨夜あめよと申します。本日はご足労いただき……」

 見なかったことにしたのに自己紹介されてしまった。
 主任教授とか言われても、なんか凄そうな肩書きだなぁという感想しか出てこない。

 そんなことより、俺の目は看護師たちに向けられていた。

 アイドルグループがナースのコスプレをしているんじゃないかと思うくらいには、顔面偏差値が異常に高い。言うなれば一人一人がセンターを飾れるくらいの逸材いつざいである。
 いや、なんか1人お子様体型というか、ロリが混じっているけど、他はスラっとした美人な子や可愛らしい子ばかりだ。

 俺のよこしまな心は早速、誰にをお願いしようかなぁと、下衆ゲスなことを考えていた。

「……本日の検査についてご説明は必要でしょうか? ご質問がある場合も遠慮なさらずお聞き下さい」

「あ、補助って看護師さんにもお願いできるんでしたよね?」

 ビクッと一斉に震える看護師一同。と、キョウカちゃん。君は看護師じゃないだろうに。

「か、可能ですが、配偶者以外の女性が補助となるとご不快に思われる男性の方は多いため、当院の看護師が補助を行った前例もなく……あ、いえ、勿論可能です。ですよね、看護部長」

「ふぁい! 可能です!」

 いや、ロリ。お前が看護部長かい。

 合法ロリに気を取られてしまったものの、しっかり言質げんちは取った。

 それから軽い問診や感染症検査を受け、血圧なども測定した。
 少し心拍数は上がっていたが、これは致し方ないことだろう。

 ドキドキしている理由わけは、検査そのものでする行為についてもあるが、検査結果という点にもある。

 もしも生殖能力の無いGランクと認定された場合、精子提供の義務はなくなるが、その代わり国からの助成金があまり出なくなる。

 Fランク以上であれば、仕事をせずともかなりの生活が約束される。反面、Gランクになると国から男性へのサポートは必要最低限になってしまうため、働いて収入をおぎなう人が多いとか。

 俺は冒険者になると決意しているので、別に働きたく無いわけではない。
 だが働くにしても、上のランクである方が色々と融通ゆうずうきやすく、男性の暮らしは楽になると聞いている。

 Gランクになってしまう人は、なんと男性の2分の1。およそ半分だ。

 Cランクでさえ、なれる人は男性の1%にも満たない。

 だからなのか、「Gランクでも気を落とさないで下さい」と移動中に何度かキョウカちゃんに言われてしまった。

 ついでに「Gランクでも私は大丈夫です!」と言っていた気もする。
 一般論でも割とそうらしい。

「こちらは今回事前に補助の希望を出している看護師です。この中から選んでいただくことになります」

 リストを渡され、十数人の看護師たちが並ぶ。最初に出迎えてくれたメンバー全員が承諾しょうだくしている、と。

 年齢や出身、趣味やBWHスリーサイズまで幅広くっているリストを、真剣に確認していく。

 これだけの情報量だ。急ごしらえでは作れまい。
 つまり、使わないだろうと思いつつも、毎回毎回事前に用意しているということになる。その労力には驚嘆きょうたんだ。

 俺が感心していることを察したのか、合法ロリが感慨かんがい深そうにウンウンと何度もうなずいている。
 見た目と相俟あいまってミスマッチというか何というか。って、こいつ31かよ! 前世の俺より歳上かい!

 はぁ、インパクトのある人物に意識を持っていかれ過ぎた。
 あまり待たせるのも悪いし、早めに決めよう。可愛い系にするか美人系にするか悩みどころだ。

 いやでも、1人とは言われてないよな?
 サラッと2人頼んだらいけちゃうとかないかね?

「では沢田さわださんと野守のもりさんに補助をお願いします」

 さも当然かのごとく2人を指名した俺に複数の驚愕きょうがくの表情が向けられる。

 さっきまで看護師さんのほとんどはこちらをギラギラした目で見てきていたが、この2人は違っていた。

 沢田さわだ杏奈あんな
 21歳、看護実習生。
 期待からかワクワクした表情を見せる彼女は、愛嬌あいきょう満点の顔立ちだ。お団子ヘアーの元気っ子な印象。決め手となったのは、昔飼っていた犬に雰囲気が似ているからという割と安直な理由だった。
 人なつっこそうなため、心の内ではアンナちゃんと呼ぶことにしよう。

 野守のもりほまれ
 26歳、看護副主任。
 可愛い系のアンナちゃんとは逆ベクトルの超絶美人。
 ナース服を着ていても主張はすさまじく、リストにはアイカップという選べる下着ブラがほとんど無さそうな驚きのサイズが記されていた。
 20代なかばながらもすで妖艶ようえん魅力みりょくかもし出しており、手玉に取られてもイイからお近づきになりたいとさえ思ってしまうほどの美女だ。
 敬意を込めて、心の内ではホマレさんと呼ぶことにしよう。

「2人!? いえ、大丈夫です! 問題ございません! 2人とも構いませんね?」

「やったぁ! 頑張ります!」
つつしんでお受けいたします」

 ニパッと笑顔が咲いたアンナちゃんに、フフッとふんわりした笑みを浮かべるホマレさん。

 既に準備はできているようで、後は俺の心の準備のみ。

 待合室で待ちきれない俺は、さっさと横スライドのドアを開き、検査室に入室するのであった。

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