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おまけ
守るべきもの~玉兎の場合~
しおりを挟む賀茂家の朝は慌ただしい。
まず、家主の賀茂光義は割と朝が早い。この男、夜は遅くても朝早くには起きて出仕している。
本人は
『現役の陰陽師として穢れを払うために都中を…下手をすると日本各地を飛び回っていた頃に比べると、事務仕事が中心の今なんて暇で体力が有り余っているからね』
などと言っていたのを聞いた金烏は
『歳のせーじゃねーの』
と言っていて、光義の冷笑を向けられていたが…。
今は暁の式神になったから良かったが光義の式神だった頃ならどんな仕返しを受けたかを考えると金烏に対しては『馬鹿か?』の一言しか言えない。
そんなやり取りを思い出しながらも玉兎は手早く朝餉の支度をして、光義の元に出した。
「あ、今日のお味噌汁は筍か。暁が好きな具材だね」
今は春。
ちょうど筍の季節であり光義の言ったように現在の主人である暁の好物だ。
その味噌汁を味覚を研ぎ澄ませゆっくりと味わうように目を瞑りながら光義は味噌汁を一口飲んで言った。
いつからか賀茂家の炊事の担当は玉兎になっていた。それまでは光義は食べるものも食べずという感じであったし、玉兎達妖はそもそも食事をすることもない。
そんな式神の自分が炊事をするようになったのは暁が来てからだった。
光義が突然連れてきた子供。
鬼の子供であると言われても妖力もなく、どう見ても単純に人間の子供だった。
光頼に連れらた暁は酷くおびえていて、なかなか心を開いてはくれなかった。光義も子供の扱いはできず、金烏と3人で色々と試行錯誤を重ねて面倒を見るという事をして行った。
その一環で美味しいご飯を提供するという事をしていったのだ。
「ご馳走様」
玉兎が一通りの炊事を終えた段階で光義は朝餉を食べ終え、早々に出仕してしまった。という事は、そろそろ暁を起こす時間だ。
暁は真面目な面もあるが、朝は寝起きが悪く出仕の際も遅刻寸前という事をよくやらかす。
早めに起こすのがいいだろう。
「金烏、そろそろ暁を起こしてくれ」
「あいよ」
金烏はそう言ってどすどすと音を立てながら廊下を歩いて行った。しばらくするとズドンバタンという物音がして慌てたように暁が出てきた。
多分金烏によって強制的に起こされるとともに慌てて身支度を整えていたというところだろう。
「おはよう、玉兎!今朝のご飯は?」
「大丈夫だ。今日は米だ。」
「良かった!!…あ、これ筍の味噌汁だ!私、これ大好きなんだよね」
膳を暁の前に置くと嬉しそうに目を輝かせながら味噌汁を飲んでいた。
美味しそうに食べるその様子を見る瞬間が玉兎にとっては何よりも嬉しい瞬間だった。
彼女の特異な出自を考えるとこれから先どんな困難があるだろうか。
子供の頃は鬼の子としての記憶をなくしても見鬼の才は無くならず、妖に常に狙われていた。それにより人間に拒絶されることにより表情を無くした彼女を見るのは辛かった。
でも今は少し違う。
吉平という人間は暁にとって初めてできた同期であり、友人になる人物だ。
高遠については…玉兎自身はあまり好ましくは思っていないが何かと暁を気にかけているようだ。
そんな仲間とも呼べる人間と出会い深く関わることは彼女にとってい喜ばしいことだ。
それを寂しいと思ってしまうのは…なぜだろう。
それでも、と玉兎は思う。暁を思う気持ちは変わらない。
彼女を陰になり日向になり自分のできる限り守る。
自分が出来ることは、穢れを祓う時に力を貸すこと、妖と対峙した時に守護すること、そして……美味しいものを食べさせてあげること。
決して沢山のことをしてあげれるわけではないが、暁の食事を作ることは自分にしかできないこと。
それが玉兎には至極嬉しく感じる。
「さて、今日は暁の好物のタラの芽でも探しに行くとするか」
そうして再び暁の喜ぶ顔が見たくて料理を作るのだ。
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