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藤の花の季節に君を想う
藤の牢獄②
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高遠は暁よりは軽症の様で、蹲っているもののこちらを見て薄く笑っていた。
「高遠殿、大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だよ。この人達は…暁君の式神というやつかい?」
「はい。こっちが金烏、こっちが玉兎です。」
玉兎の解毒作業が終わると高遠はゆっくりと立ち上がった。
「暁君が彼らを呼んでくれてよかったよ。…初めましてかな。私は藤原高遠だ。すまない、助かった」
「まさか…見える…のか?」
動揺したのは玉兎だった。
確かに高遠は玉兎の張っていた結界を二度も破っている。そのうえで自分の姿が見られるのに驚いたのだろう。
「あぁ、そうか。普通は見えないのだったな。今回は光義殿の術で一時的に見鬼の才を使えるようにしていただいたのだよ」
「ほー。普通の人間だったら光義の術でも効かないからな。素質はあったってことだよな。それにこの毒の穢れにあたってもそれ程ダメージを受けていないのも大したもんだな」
「ははは。式神の君に褒めてもらえるのは光栄だな」
「玉兎の結界を破るだけあるってわけだ」
その金烏の言葉に玉兎の右眉がピクリと揺れた。
金烏は面白そうにニヤニヤとしている。
「…だが、見鬼の才は一時的なものだ。ただの人間が妖の異空間にいるのだ。気を付けた方が良い」
「ま、その意見には俺も賛成だな。とりあえずは俺たちも守るが、守護する優先順位としては暁が上だから、何があっても恨まないでくれよ」
「君たちの足手まといにはならないように気を付けるよ」
高遠の存在に玉兎は明らかに不機嫌で、金烏も打ち解けたような言葉遣いだがその目は不敵な笑みを浮かべており、あまり歓迎はしていないようだ。
それを感じたようで高遠も不敵な笑みを浮かべたままだ。
三者の不穏な雰囲気を察知し、暁は慌てて話題を変えることにした。
「と、とにかく!!この藤の香の元凶を絶たないと吉平の縁も辿れないし。どうしようか?」
「それなら俺の出番だな?サクッと終わらせよーぜ!」
金烏はぽきぽきと肩を回しつつ、玉兎の結界を出ていく。
そして体を低くして抜刀の姿勢をとる。
「一閃紅蓮騰」
そのまま一気に空を薙ぐと空気を燃やすような熱と爆風が吹き荒れる。巻き上がった土埃が収まり、視界が見えたときには周りの藤棚は燃え尽きていた。
黒くなった気の中でわずかに燃え残った木には、小さな炎が少しだけ残っていた。
このあたりの攻撃力はさすがとしか言いようがない。
「おやおや。すごいものだね」
高遠が感嘆の声を上げる。暁も焼き尽くされた藤棚の残骸を見つつ金烏に近づいて言った。
「金烏、凄い…」
「暁が少しずつ強くなっているからだぜ。だいぶ術も使えるようになってきているぜ」
「そう?嬉しいな」
「さてと、焼き払ったはいいが、吉平の坊主をさがさねーとな」
「縁を辿ろうと思っているんだけど…上手く行かないんだよね」
「じゃあ、俺もフォローすっかな」
「無論、私も手助けしよう」
暁が無言で頷くと金烏と玉兎が肩に手をかけてくれる。暁は再び意識を集中させていくと2人のおかげで吉平の縁が更に辿りやすくなった。と同時に他に2つの気を感じた。
「あれは…」
「他の失踪者ってことか。先にそっちを探した方がいいな」
「そうだね。とにかく急ごう」
金烏によって焼かれた藤棚の残骸を進むとそこには大きな屋敷が忽然と現れた。
きっと屋敷の中は更に危険が付きまとうだろう。式神2人がいるものの気を引き締めなくては。そう思って意を決して屋敷の中へと足を運ぶ。
屋敷の中は暗く感じる。それは外の庭に光があふれているため反対に室内の闇が増しているように感じたのだった。
室内にまっすぐに伸びる花菖蒲とそこに流れる水を表現された金の流線形が描かれている。
暁は一呼吸おいてふすまを開けた。
「ここは…どこだ?」
高遠がぽつりと漏らしたが、みな同じ考えだったと思う。
屋敷の中だったはずの先は外のような空間があった。どこまでも続くような暗闇の中で空高く藤の樹がそびえたっていた。藤の樹はぼうっと青紫の淡い光を放っている。
そこから広がる枝がうねる様に伸びており、巨木にふさわしく太くしっかりした枝は、だがしなやかに絡みつき網目状になっていた。
その異様な雰囲気に混じって妖力を感じる。暁の肌が少し泡立った。
「こっちだな」
ところどころに蛍のように舞う光を頼りに玉兎の案内で進んでいく。しかし暗闇のためと網の目のような枝を縫うように歩いていくため足場は悪く焦る気持ちとは裏腹になかなか進んでいないような気もする。
大木になる藤の花の元に近づこうとするがなかなか進めない。
時に太さ20センチはあろうという藤の枝をあるき、時にはその間をくぐっていく。場所によっては枝に遮られ進めないところを高遠が剣で切り払って進んでいった。
「高遠殿、大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だよ。この人達は…暁君の式神というやつかい?」
「はい。こっちが金烏、こっちが玉兎です。」
玉兎の解毒作業が終わると高遠はゆっくりと立ち上がった。
「暁君が彼らを呼んでくれてよかったよ。…初めましてかな。私は藤原高遠だ。すまない、助かった」
「まさか…見える…のか?」
動揺したのは玉兎だった。
確かに高遠は玉兎の張っていた結界を二度も破っている。そのうえで自分の姿が見られるのに驚いたのだろう。
「あぁ、そうか。普通は見えないのだったな。今回は光義殿の術で一時的に見鬼の才を使えるようにしていただいたのだよ」
「ほー。普通の人間だったら光義の術でも効かないからな。素質はあったってことだよな。それにこの毒の穢れにあたってもそれ程ダメージを受けていないのも大したもんだな」
「ははは。式神の君に褒めてもらえるのは光栄だな」
「玉兎の結界を破るだけあるってわけだ」
その金烏の言葉に玉兎の右眉がピクリと揺れた。
金烏は面白そうにニヤニヤとしている。
「…だが、見鬼の才は一時的なものだ。ただの人間が妖の異空間にいるのだ。気を付けた方が良い」
「ま、その意見には俺も賛成だな。とりあえずは俺たちも守るが、守護する優先順位としては暁が上だから、何があっても恨まないでくれよ」
「君たちの足手まといにはならないように気を付けるよ」
高遠の存在に玉兎は明らかに不機嫌で、金烏も打ち解けたような言葉遣いだがその目は不敵な笑みを浮かべており、あまり歓迎はしていないようだ。
それを感じたようで高遠も不敵な笑みを浮かべたままだ。
三者の不穏な雰囲気を察知し、暁は慌てて話題を変えることにした。
「と、とにかく!!この藤の香の元凶を絶たないと吉平の縁も辿れないし。どうしようか?」
「それなら俺の出番だな?サクッと終わらせよーぜ!」
金烏はぽきぽきと肩を回しつつ、玉兎の結界を出ていく。
そして体を低くして抜刀の姿勢をとる。
「一閃紅蓮騰」
そのまま一気に空を薙ぐと空気を燃やすような熱と爆風が吹き荒れる。巻き上がった土埃が収まり、視界が見えたときには周りの藤棚は燃え尽きていた。
黒くなった気の中でわずかに燃え残った木には、小さな炎が少しだけ残っていた。
このあたりの攻撃力はさすがとしか言いようがない。
「おやおや。すごいものだね」
高遠が感嘆の声を上げる。暁も焼き尽くされた藤棚の残骸を見つつ金烏に近づいて言った。
「金烏、凄い…」
「暁が少しずつ強くなっているからだぜ。だいぶ術も使えるようになってきているぜ」
「そう?嬉しいな」
「さてと、焼き払ったはいいが、吉平の坊主をさがさねーとな」
「縁を辿ろうと思っているんだけど…上手く行かないんだよね」
「じゃあ、俺もフォローすっかな」
「無論、私も手助けしよう」
暁が無言で頷くと金烏と玉兎が肩に手をかけてくれる。暁は再び意識を集中させていくと2人のおかげで吉平の縁が更に辿りやすくなった。と同時に他に2つの気を感じた。
「あれは…」
「他の失踪者ってことか。先にそっちを探した方がいいな」
「そうだね。とにかく急ごう」
金烏によって焼かれた藤棚の残骸を進むとそこには大きな屋敷が忽然と現れた。
きっと屋敷の中は更に危険が付きまとうだろう。式神2人がいるものの気を引き締めなくては。そう思って意を決して屋敷の中へと足を運ぶ。
屋敷の中は暗く感じる。それは外の庭に光があふれているため反対に室内の闇が増しているように感じたのだった。
室内にまっすぐに伸びる花菖蒲とそこに流れる水を表現された金の流線形が描かれている。
暁は一呼吸おいてふすまを開けた。
「ここは…どこだ?」
高遠がぽつりと漏らしたが、みな同じ考えだったと思う。
屋敷の中だったはずの先は外のような空間があった。どこまでも続くような暗闇の中で空高く藤の樹がそびえたっていた。藤の樹はぼうっと青紫の淡い光を放っている。
そこから広がる枝がうねる様に伸びており、巨木にふさわしく太くしっかりした枝は、だがしなやかに絡みつき網目状になっていた。
その異様な雰囲気に混じって妖力を感じる。暁の肌が少し泡立った。
「こっちだな」
ところどころに蛍のように舞う光を頼りに玉兎の案内で進んでいく。しかし暗闇のためと網の目のような枝を縫うように歩いていくため足場は悪く焦る気持ちとは裏腹になかなか進んでいないような気もする。
大木になる藤の花の元に近づこうとするがなかなか進めない。
時に太さ20センチはあろうという藤の枝をあるき、時にはその間をくぐっていく。場所によっては枝に遮られ進めないところを高遠が剣で切り払って進んでいった。
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