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藤の花の季節に君を想う

さぁ蹴鞠の始まりだ②

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「まぁ…お気に入りというわけではないですが、色々からかわれていますね。」
「ふーん。で、さっそくだけどちょっとやってみるか!」
「はい!よろしくお願いします!!」
「あ、堅苦しいのなしな。俺に敬語要らないから。」
「そう?分かった。ありがとう」
「さ、庭に降りるぞ」

暁だけではなく、吉平も連れられて庭に出ることとなり、吉平は全力で拒否していたが、影平に強引に連れ出されてしまった。
逃げられないと悟った吉平はしぶしぶ庭に出て、転がっていた鞠を握った。
一方、影平は鞠を器用に足で操る。鞠はポンポンと飛ばされながら影平の頭や胸で跳ね続け、それは落ちることがなく続けられた。
その様子に暁は感嘆の声を上げた。

「影平、すごい!!鞠が生きているみたいだ」
「そうか?蹴鞠には自信があるんだぜ!暁はここまでできないと思うけど。まずは3人で蹴ってみようぜ」
「うん、やってみる」

他のメンバーは興味深そうに縁側から眺めている。
にやにやしながら見ているという感じだったので、きっと実力を値踏みされているのだろう
影平が蹴ってくる鞠を暁も蹴り上げる。が…なかなか影平のようには行かない。
吉平にいたっては鞠に触ることもできず、足が空振りしていた。

「ん…こう…かな?」
「暁上手いじゃないか。初心者っていっても基本はできているみたいだし、これなら遊べるな」

最初はコントロールが難しかったが、2度3度とやっているうちにコツが掴めてきた。
どこに飛んでいくか分からない状態の鞠も、段々相手に綺麗に返せるようになっていく。
吉平は、残念ながら短時間での上達は見込めず、早々に離脱の意を表明した。

「僕は無理。大人しく見学するよ」
「そうか。暁はやるよな?」
「うん、このくらいの技術でいいならやれるよ」
「おう十分だぜ。みんな始めるぜ」

影平が呼ぶと待ってましたとばかりに外野が下りてきて、打ち合いをして体ならしを始めた。
蹴鞠の規則(ルール)は簡単だ。
鞠を蹴って落とさなないようにして回数を競う。
どのくらい蹴り続けられるかを競った団体戦と、鞠を落とした人が負けという個人戦がある。

「こんど宮中で大きな試合があるんだ。団体戦で参加する予定だったんだけど、兼雅と実朝(さねとも)と音信不通になっちゃってさ」
「兼雅って左馬上の息子の?」
「そうそう。なんか好きな女ができたから頑張って落とすとか言ってて、それ以来この会に来なくなっちまったんだよな。文を出しても忙しいの一点張りで最近会いもしてないんだぜ」

文を見てくれないのはきっと行方不明になっているからだ。
父親が醜聞を恐れて事情を隠しているのだろう。
影平は今まで鬱憤がたまったのか、更に続けていった。

「それにさ、実朝も突然連絡取れなくなったんだぜ。試合近いから練習さぼられるの困るんだ」
「実朝って誰?」
「あぁ、蔵人頭の息子だよ。結構イケメンなんだぜ。女たちの噂で知らないか?」
「え?蔵人頭の?」

思わないつながりに驚いていると、影平は違った意味でとらえたようでにんまりと笑った。

「その様子じゃ知らないのか?物腰が柔らかでさ、髪なんか柔らかい感じでふわふわと揺れるもんだから、天上の貴公子なんて呼ばれてるんだぜ」
「あぁ、僕はそれ知っている。すごい人気だよね」
「吉平知っているの?」
「うん。暁は知らなかった?」
「そうだね…うん…初耳。」
「やっぱり暁って高遠殿のコレ?男色の趣味があったとは分からなかったな」
「だから違うって!私はあまり女房との関りが少なくて。そう言った噂なんて聞いたことなくて。」
「そっか。まぁ、俺も女共がキャーキャー騒いでるのとか興味ねーしな。狩りとか遠乗りとか行ってた方が楽しいよな!」
「そうだね。私も家に籠っているよりはそっちの方が好きだよ」
「暁、お前分かっているな!今度一緒に遠乗りしようぜ」

影平に誘われたが、正直馬に乗ったことがないのだが、熱烈に誘われたので断ることもできず、曖昧に笑ってごまかした。
暁達が話している間に、他の参加者は団体戦の練習を始めていた。
それを横に見ながらこの機会に色々聞いておこうと思い、さりげなく探りを入れることにした。

「その兼雅は連絡取れなくなる前になんか言ってた?変な様子なかった?」
「うーん。そうだなぁ。恋ってなんだろうとか急に言ってたなぁ」
「恋…」
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