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番外編
ルシアン視点:色づく世界
しおりを挟む断罪劇から2か月が経った。
既に夏は暑さのピークを過ぎ、日差しは暖かいが清々しい風が吹く季節へと移っていた。
今日も例にもれず爽やかな日である。
雲一つない抜けるような青空は、目に鮮やかな青色で晴れ渡っている。
「絶好の結婚式日和だな」
ルシアンはタキシードに身を包み、窓を見上げてそう呟いた。
思わず唇の端が上がってしまう。
今日の日をどれほど待ち望んでいただろう。
愛する運命の女性であるリディと結婚できるなど夢のようにも感じられる。
空を見上げながら2か月前に妖精界でリディと想いを交わした時の事をルシアンは思い出していた。
不甲斐ない自分の事を謝罪し、真っすぐに想いの丈を伝えたルシアンは、正直リディがその気持ちを返してくれるとは思わなかった。
『私も、愛しています』
その言葉を聞いた時の胸の震えを、ルシアンは一生忘れないだろう。
1度目のキスはハプニングのように奪ったもので、2度目のキスは感情のままに貪るようにしたキス。
その2つにはリディの感情は伴っていなかった。
だが3度目のキスは想いを交わすもので、キスの間ルシアンの心は感動と幸福感で占められていた。
その後、人間界に戻るとオベロンによるシャルロッテとルイスの断罪劇が行われ、そしてオベロンに半ば騙されるようにルシアンは王位を継ぐことになり、リディもまた妖精王に王妃の資格を与えられた。
正式な戴冠式はまだ先ではあるが、ルシアンもリディもそれぞれ王と王妃になるべく準備を進めている。
ちなみにシャルロッテは北の修道院で厳しい戒律の下、今は大人しく過ごしているという。
ルイスは廃嫡の末にシャルロッテがいる修道院近くの隔離塔にて幽閉されている。
退位することを表明している国王はリディを贄にした件やルイスの愚行を改めなかったという一連の責任を取って、ルシアンへの引継ぎが終わり次第、辺境の地にある小城にて軟禁生活を送ることになる。
この3人は一生その地で過ごし、もう二度と外界へと出ることはない。
(重い処分かもしれないが、下手をすればリディは死んでいたんだ。妥当な処分だろうな)
もしリディが死んでいたらと考えるとぞっとする。
その時にはルシアンが3人を殺していただろう。
(まぁ、もう終わったことだ)
それよりも未来の事を考えるべきだろうとルシアンは気持ちを切り替えると、リディが準備をしている部屋へと向かった。
「リディ、入るよ」
「あ、ルシアン様?どうぞ」
リディの許可を得て、ルシアンはドアを開けた。
その瞬間、ルシアンの視界は溢れる光で白く染まった。
その光を背に微笑んでいたのは、白いドレスを纏ったリディだった。
いつもは流しているプラチナブロンドの髪は今日は綺麗にまとめて結い上げられ、白いベールで包まれている。
その上には可憐なデザインのダイヤのティアラが輝いていた。
真っ白なドレスはリディの清楚さを演出していて、白い花の刺繍の入ったソフトチュールがスカートを覆っている。
余りにも神々しく、まるでこの世のものとは思えない。
妖精のような優しく繊細なリディの姿に、ルシアンは思わず息を呑んだ。
「綺麗だ…」
「え!?…あ、ドレスのことですね。はい、綺麗ですよね!」
「ははは、前もそんなやり取りをしたな」
婚約披露パーティの際に、ドレス姿をルシアンは褒めたのだがリディはお世辞だと受け取ったようだった。
あのシャルロッテのせいで、どうもリディは自己評価が低い。
だったら何度でも伝えよう。綺麗だと。
「あの時の淡い桜色のドレス姿も素敵だったけど、やっぱりウェディングドレスは最高に綺麗だよ」
そう言ってルシアンはリディの頤を持ち上げて、決してお世辞ではないと伝えたくて真っすぐに見つめた。
するとリディの頬がほんのりと赤くなる。
その反応が初々しくて愛らしい。
余りにも可愛いくて、ルシアンはそのままリディの柔らかな唇に口づけようとした。
(駄目だ…唇は近いのキスまで取っておこう)
ルシアンはそう思いぐっと我慢した。
その代わりにプラチナブロンドの髪にキスを落とした。
「!?」
「やっぱり近くで見ても素敵だ」
「えっと…あ、ありがとうございます」
「はぁ…綺麗すぎる。皆に見せびらかしたい気持ちと俺だけのものにして閉じ込めたい気持ちにもなるな」
「そ、それは大袈裟なのでは?」
首元まで真っ赤にしながら言ったリディだったが、今度はため息が零れそうなほどの可愛い笑みを浮かべて言った。
「それに…私はルシアン様だけのものですからね。な、なんて…」
「…リディは俺の理性を試そうとしているのか?悪いが式の後は覚悟してくれよ」
「覚悟…ですか?」
リディはいまいちピンと来ていないようで小さく首を捻っているのを、ルシアンは意味深ににっこりと笑って見つめた。
その時エリスが声を掛けて来た。
「お兄様、お姉様。そろそろお時間ですよ」
「分かった」
エリスへと短く答えたルシアンはそのままリディへと腕を差し出した。
「では、行こうか」
「はい!」
リディがルシアンの腕に控えめに手をかけたのを見ると、ルシアンはリディをエスコートしながら歩き出し。教会へと向かった。
その後リディとは一旦分かれてルシアンは先に教会にて待つ。
パイプオルガンの曲と共に入場してきたリディが一歩一歩とルシアンの元に辿り着くと、厳かに式が行われた。
「それでは誓いのキスを」
誓いのキス。
神父の言葉を合図にルシアンはゆっくりとリディに顔を寄せながら思った。
リディと出会ったのは運命だったのだと。
運命は一つではなく、数ある選択肢の一つだというのなら、ルシアンが選び取った運命なのだ。
8歳で前世を思い出したルシアンが人生のすべてはゲームの通り決められたものだと分かった瞬間、ルシアンの世界は色を失った。
だが、今、リディとの出会いによってルシアンの世界は色を取り戻した。
だから、ルシアンはリディと出会えた奇跡に心を震わせながら、愛しているという気持ちを伝えるように誓いの口づけをする。
これから先、リディと共に生きる未来はきっと鮮やかな色に彩られるだろう。
そう確信して――。
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