上 下
70 / 75
番外編

ルシアン視点:婚約解消…そして

しおりを挟む
先日リディに婚約破棄を告げ、契約の解消を申し出た。

リディは一瞬驚いた様子であったが、直ぐに了承の意を示し、そして契約は解消された。

まだ婚約解消については周囲には話していないので、今夜の夜会だけはリディはルシアンの婚約者として参加している。

「素敵なご令嬢。よろしければ一曲、踊っていただけませんか?」
「はい!喜んで」

ルシアンが跪いてそう言った後、リディの手を取って踊りの輪へと入った。

多分婚約者としては最後になる夜会。
だが、最後にはさせないと決めた。

今までは契約の壁があり、自分の想いも伝えられない意気地なしだったが、その契約も無くなる。

今度こそリディに愛していると告げて、本当の婚約者になってみせる。

(その為ならばどんな手を尽くす。365日リディに贈り物をして…あ、変な虫が付きそうならリディが好意を持つ前に潰した方がいいだろうな)

ルシアンがそんな物騒な事を考えているとは知らないリディは無垢な笑みを浮かべて楽しそうに踊っていた。

「ふふふ、最後にいい思い出ができました。今日は連れてきてくださってありがとうございます」
「いや、こちらこそだよ。リディと踊れて幸せだ」

「今まで、ありがとうございました。今後お会いできないですけど、ルシアン様の幸せを祈っております。占いでは必ず想い人の方と結婚できるはずです。ですからすぐには会えないかもしれませんが、諦めないでくださいね」

「君がそれを言うなんて…皮肉だな」

リディの占いはよく当たる。そのリディが「絶対に結婚できる」と断言するのだ。
もし求婚を断られたら、占いの結果を盾にとってリディと結婚するのも手だろう。

(諦めるつもりはない。絶対に…)

ルシアンがそう決意を新たにしていると同時に音楽が終わり、リディとのダンスを終える。

その時、予想外の参加者が入場してきた。
シャルロッテだ。

招待されていないはずのシャルロッテが突然現れたことに皆の視線が集まっていると、ルイスがそのシャルロッテと婚約すると宣言したのだ。
会場が驚きでどよめいた。

「どういうことだ?俺は聞いてないぞ!」

ルイスとシャルロッテが接近していることは把握していたが、ソフィアナの断罪ルートを回避することで頭がいっぱいで、ルイスとシャルロッテのことまで頭が回らなかった。

そもそもルイスの補佐官であるルシアンにこのような重大な話が聞かされていないなどあり得ない。

もしかして、前世で聞いたことのあるラノベの展開の様に、王子が先走ってヒロインと婚約を宣言するというパターンなのではないかという考えが浮かんだ。

急いで国王を見たが、国王も王妃もルイスを見守る形で、平静を保っていた。

「陛下は…驚いてない…と言うことは知っていたのか?」

(だからってなんでシャルロッテと婚約!?あんな女が王妃になるなんて冗談じゃない)

シャルロッテの馬鹿さ加減は知っている。

そもそも身辺調査をすれば、シャルロッテの能力や振舞い、リディの婚約者を奪った事実等、その悪行が分かるはずで、とても王妃の器ではないことは明確であるはずだ。

なのに、何故この国の事を誰よりも考えている国王はこの頭の弱いシャルロッテが未来の王妃となることを承諾したのだ。
とても正気の沙汰ではない。

「陛下に確認してくる。あの女が本当に王太子妃でいいのか、甚だ疑問だ。何か良くない予感がする」
「分かりました」
「じゃあ、後でまた会おう」

ルシアンはリディと別れるとそのまま国王の元へと向かった。

「陛下、少々よろしいでしょうか?」
「おお、ルシアン。いつもルイスが世話になっておるな」

国王は控えめに笑みを浮かべてルシアンを迎えた。
だが、その顔には疲労の色が浮かんでいた。

ルシアンがルイスの婚約について聞こうと口を開いたのだが、それを遮るようにして国王が話した。

「いい、分かっておる。ルイスのことであろう?」
「はい」
「そなたに何も言わなかったことは申し訳ないと思っておる。実は、婚約の事は昨日決まったのだ」
「昨日、ですか?」

余りにも突然の事だ。
王太子の婚約者ともなれば慎重に慎重を重ねて選ばれるものなのに、昨日突然決まるなど異例中の異例だ。

「実は…シャルロッテはルイスの子を妊娠している」
「な…」
「王太子が女を孕ませてそのまま放置するなど、国民の反感を買ってしまう。そうなっては困る」
「側妃ではいけないのですか?」

ルシアンの提案に国王は緩く頭を振ると、いかに難解な問題で議論を尽くしたかを物語るように頭を押さえてぎゅっと目を瞑ってため息をついた。

「ルイスが折れなかったんだ。絶対にシャルロッテでなくては嫌だと言ってな。それに…これはおぬしを守るためでもあったのだ」
「どういうことですか?」

「そなたの婚約者はシャルロッテの義姉だそうだな。シャルロッテはその義姉に虐められて虐待を受けているとルイスが言っておるのだ。そしてそんな女を婚約者にするおぬしの事を信じられないと言っている。それにそなたにシャルロッテが辱められたとも」

「辱め…なんですか!?それは!」

「そなたの婚約パーティの際に、根も葉もない悪口を並べ立ててシャルロッテを笑いものにしたと言うのだ。だからそのような人間は補佐官に相応しくないからそなたを罷免すると言うのだ。それにシャルロッテと婚約したら生活を改め、きちんと政務をこなすと約束した」

国王の言葉にルシアンも深くため息をついた。
ここまで脅されてしまっては流石に国王も折れざるを得なかったのだろう。

それにやはり国王にとって、ルイスは実の息子だ。
馬鹿ではあるが可愛いのだろうし、王位も継いで欲しいと思っているようだ。

「だが、ルシアン。そなたはこの国にとっても得難い人材だ。どうか変わらず支えてくれないだろうか?…もし、このまま補佐官でいてくれたのならば、そなたの望むことは叶えよう」

「…分かりました。私は一臣下にすぎません。陛下のご命令に従います」
「ありがとう」
「では、御前失礼いたします」

ルシアンは一礼してその場を辞した。
リディへ告白しようと意気込んでいたのに、とんだ問題が発生してしまった。

また頭痛の種が増えてルシアンは内心頭を抱えた。

(シャルロッテの抑止力になる人間が必要だな。…王太子妃教育も受けてもらうとして、だが妊娠はバレてはまずいだろうから人選はきちんとしなくては。あと、ルイスにはまず簡単な仕事を回すとして、…ダートにも仕事の割り振りについて話しておこう)

考えることは山ほどある。だが直近の問題は、リディとの婚約の事だ。
今日こそちゃんとリディに想いを伝えるのだ。

頭を切り替えると、なぜか城に一泊することになったリディへの部屋へと足早に向かった。

だけど、リディを前にしていざその言葉を口にしようしたのだが、緊張のために心臓が早鐘を打ち、呼吸が浅くなる。
なんとか平静を保つ努力をして、想いを伝えようとした。

「俺の気持ちを伝えさせてくれ。俺はあんたのことが…」

その言葉の続きを言うことはできなかった。
シャルロッテが部屋へ乱入してきたのだ。

話の続きをしたかったのだが、シャルロッテはルシアンに対し、王太子妃であることを笠にきて見下すように言い放った。

「ルシアン様、私の言うことが聞けないんですの?私はもう王太子妃ですのよ。身分を弁えていただかないと」

ここまで言われてしまえば否とは言えない。
婚約解消は明日なのだ。
明日、もう一度改めて伝えることにしよう。

そう思ってルシアンはリディの部屋を後にした。

だが、その「明日」が来ることはなかった。
翌朝、リディは逮捕された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰がゲームの設定に従うと思いまして?

矢島 汐
恋愛
いい加減に、してほしい。この学園をおかしくするのも、私に偽りの恋心を植え付けるのも。ここは恋愛シミュレーションゲームではありません。私は攻略対象にはなりません。私が本当にお慕いしているのは、間違いなくあの方なのです―― 前世どころか今まで世の記憶全てを覚えているご令嬢が、今や学園の嫌われ者となった悪役王子の名誉と秩序ある学園を取り戻すため共に抗うお話。 ※悪役王子もの第二弾

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって――― 生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話 ※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。 ※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。 ※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました

廻り
恋愛
 幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。  王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。  恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。 「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」  幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。  ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。  幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。 本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。 人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆ 本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編 第三章のイライアス編には、 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 のキャラクター、リュシアンも出てきます☆

処理中です...