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共に生きる①

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そのまま時間を計る。

5分経っても、お兄様の美しい顔に現れている痣は消えない。
体を覆うような痛々しい紫の痣も変わらなかった。

(まだよ…)

30分経っても変わらない。
1時間…2時間…

時計の秒針の音だけが室内に響き、淡々と刻々と時間を刻んでいく。

(駄目…だったの…?)

絶望で目の前が真っ暗になる。そして視界が涙で歪んだ。

「うっ…」

溢れる涙をそのままにして私はお兄様を見た。
間もなくコールドスリープからお兄様が目覚めるだろう。
今日が15年で、例え薬が完成しなくてもお兄様は目覚めざるを得なかったから。

じっとお兄様を見つめていると、長い睫毛がふるりと揺れて、空色の瞳が瞼の奥からゆっくりと現れた。

「ここ…は…僕は…」
「お兄様…いえ、フレッド・アルドリッジ様。ご気分はどうですか?」
「大丈夫です」

ゆっくりと起き上がったお兄様は頭を二度程振って少しだけぼうっとした表情で前を見ていた。

「ご自分のことを分かりますか?」
「…あぁ、覚えています。私は、アルドリッジ伯爵家長男のフレッドです。いまは何年ですか?薬は…どうなりましたか?」

フレッドお兄様が真剣なまなざしで私を見た。
このご様子だと、私がクロエであることには気づいていないみたい。

それはそうよね。お別れした時は13歳の子供だったのだもの。

お兄様からすれば28歳になった私に気づかないのも無理はないわ。
だけど…少しは気づいてほしかったという気持ちもある。

(お兄様のご病気も治せない不甲斐ない私が名乗る資格もないけど)

私はそんな心の内を隠したまま、平静を装ってお兄様に答えた。

「今はフレッド様がコールドスリープに入られて15年後になります」
「!では、僕の病気は!」

お兄様は勢いよく私に尋ねてきたけど、直ぐに自分の手をみて状況を察したようだった。
酷く落胆した様子で、そのまま俯いていた。

「治らなかったのですね」
「力が及ばず、申し訳ありません」
「いえ。多分いろいろとご尽力いただいたのだと思います」

お兄様が悔しそうに口を引き結んでいるのを見て、胸が痛くなった。
かける言葉が見つからなくて私は口実を言ってそのまま立ち去ろうとした。

「教授を呼んで参ります」

卑怯にも自分のことを名乗らず、私は逃げるように踵を返した。

その時、ぐいっと私の手首が掴まれたと思うと、気づけばお兄様の腕の中にいて抱きしめられていた。

「クロエ…だよな」
「お兄様…分かるの?」
「もちろんだよ。僕のクロエ。…綺麗になった」

そう言って頭を撫でてくれる手は15年前と変わらず優しかった。
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