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幻の村②
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※ ※ ※ ※
私は何故ここにいるのだろう…。
それは何度も何度もユリヤが思ったことであった。
拾われた自分には親はいない。
才能もない、活発な性格でもない自分に注目する人などいなかった。
いてもいなくてもいい存在。それが自分だと思っていた。
しかし今の自分はいなくてはならない存在。
それまで見向きもしなかった人たちが一斉に自分に傅き、頭を垂れている。
「ユリヤ様、お綺麗ですよ」
いよいよ明日は神様への輿入れの日だ。
禊をし、衣装の仮縫いをしていると、鏡の中で使用人が微笑む。
ユリヤは鏡を見つめたまま、使用人に礼を述べた。
ふと、窓の外を見ると、低い位置に赤く染まった月が見える。
この窓から外の世界を、ユリヤは来る日も来る日も見つめていた。
いつか、どこか遠い世界に行きたいと夢見ていた。
しかし、この世界から逃れる勇気もなく、結局黙って毎日をやり過ごしていた。
逃げ出したい。だけど逃げれない。
死んでしまいたい。だけどその勇気も無い。
だからこそ、ある日思ったのだ。
何もないのだから、何かを持つ妹達ではなく自分が神の嫁になろうと。
ドアが小さく開いているのにユリヤが気がつくと、そこからひょっこりと小さな顔が覗き込んでいた。
「ふふふ…ミランダ、おいで」
仮縫い中だから勝手に部屋に入るなとでも言われたようで、ミランダは一瞬部屋に入ることをためらう様子を見せたが、ユリヤが促すと足早に近づいてくる。
「ユリヤお姉ちゃん、お嫁に行っちゃうの?」
「そうよ」
義理妹のミランダが小さく首を傾げてユリヤに問いかけた。
「でもまた遊べるんでしょ?」
「ん……ごめんね。もう遊べなくなっちゃった」
「え!!どうして!?色んなお姉ちゃん達はお嫁に行ったのに、遊んでくれるよ!!」
返事に詰まって困った顔をしていると、使用人がミランダを優しく諭した。
「ユリヤ様は神様のお嫁になるのですよ。だから遠いところに行って、ミランダ様と遊ぶことができなくなってしまうのです」
ミランダもまたユリヤと同じように拾われて、村の主の家で育てられていた。
しかし歌が上手く、幼いながらも神歌と呼ばれる神を召還する歌を歌うことが出来たため、主にも使用人にも大切に扱われ、育てられている。
「明日の輿入れでは、ミランダ様は神歌を歌って、神様を迎えられるのですよ」
使用人が優しく言葉をかけるとミランダは無邪気に質問を返した。
「じゃあ、ミランダがお歌を歌わなければ、ユリヤお姉ちゃんはお嫁に行かなくていいの?」
使用人はミランダの問いに戸惑いの表情を浮かべると、言葉を濁してその場を離れた。
「えっと、あ、私は髪飾りを準備しなくては。ではミランダ様、ごきげんよう…」
そんな使用人の様子を見て、ミランダはじっと何かを考えているようだった。
「ミランダ?」
「お姉ちゃん……どこにも行っちゃ嫌だよ…」
ミランダは幼いながらも何かを感じたように、不安そうにユリヤに抱き着いてそう言うので、ユリヤは諭すようにその頭を撫でて言った。
「ミランダは、歌が上手いから。きっと大丈夫よ。だから私がお嫁に行かなくてはね」
「お姉ちゃん?」
自身に抱きついたミランダを、ユリヤもそっと抱きしめる。
その言葉の意味を、幼いミランダは理解することが出来ないようだったが、ユリヤの身に何かが起こることを漠然と感じているようだった。
「お姉ちゃん。お兄ちゃんがお姉ちゃんを助けるって言っていた。だから、ミランダも頑張る!!」
「お兄ちゃん……?あ、エリクが!?ミ、ミランダ!?」
ユリヤはミランダに言葉の意味を問おうとしたが、ミランダはユリヤの呼び止めも聞かずに部屋を出て行ってしまった。
風のように軽やかで、自由なミランダ。
彼女が運ぶ風は、どんなものだろうか。
彼女が明日紡ぐ歌は、どんなものだろうか。
ミランダの残像を見つめながら、ユリヤは一人残された部屋で思った。
私は何故ここにいるのだろう…。
それは何度も何度もユリヤが思ったことであった。
拾われた自分には親はいない。
才能もない、活発な性格でもない自分に注目する人などいなかった。
いてもいなくてもいい存在。それが自分だと思っていた。
しかし今の自分はいなくてはならない存在。
それまで見向きもしなかった人たちが一斉に自分に傅き、頭を垂れている。
「ユリヤ様、お綺麗ですよ」
いよいよ明日は神様への輿入れの日だ。
禊をし、衣装の仮縫いをしていると、鏡の中で使用人が微笑む。
ユリヤは鏡を見つめたまま、使用人に礼を述べた。
ふと、窓の外を見ると、低い位置に赤く染まった月が見える。
この窓から外の世界を、ユリヤは来る日も来る日も見つめていた。
いつか、どこか遠い世界に行きたいと夢見ていた。
しかし、この世界から逃れる勇気もなく、結局黙って毎日をやり過ごしていた。
逃げ出したい。だけど逃げれない。
死んでしまいたい。だけどその勇気も無い。
だからこそ、ある日思ったのだ。
何もないのだから、何かを持つ妹達ではなく自分が神の嫁になろうと。
ドアが小さく開いているのにユリヤが気がつくと、そこからひょっこりと小さな顔が覗き込んでいた。
「ふふふ…ミランダ、おいで」
仮縫い中だから勝手に部屋に入るなとでも言われたようで、ミランダは一瞬部屋に入ることをためらう様子を見せたが、ユリヤが促すと足早に近づいてくる。
「ユリヤお姉ちゃん、お嫁に行っちゃうの?」
「そうよ」
義理妹のミランダが小さく首を傾げてユリヤに問いかけた。
「でもまた遊べるんでしょ?」
「ん……ごめんね。もう遊べなくなっちゃった」
「え!!どうして!?色んなお姉ちゃん達はお嫁に行ったのに、遊んでくれるよ!!」
返事に詰まって困った顔をしていると、使用人がミランダを優しく諭した。
「ユリヤ様は神様のお嫁になるのですよ。だから遠いところに行って、ミランダ様と遊ぶことができなくなってしまうのです」
ミランダもまたユリヤと同じように拾われて、村の主の家で育てられていた。
しかし歌が上手く、幼いながらも神歌と呼ばれる神を召還する歌を歌うことが出来たため、主にも使用人にも大切に扱われ、育てられている。
「明日の輿入れでは、ミランダ様は神歌を歌って、神様を迎えられるのですよ」
使用人が優しく言葉をかけるとミランダは無邪気に質問を返した。
「じゃあ、ミランダがお歌を歌わなければ、ユリヤお姉ちゃんはお嫁に行かなくていいの?」
使用人はミランダの問いに戸惑いの表情を浮かべると、言葉を濁してその場を離れた。
「えっと、あ、私は髪飾りを準備しなくては。ではミランダ様、ごきげんよう…」
そんな使用人の様子を見て、ミランダはじっと何かを考えているようだった。
「ミランダ?」
「お姉ちゃん……どこにも行っちゃ嫌だよ…」
ミランダは幼いながらも何かを感じたように、不安そうにユリヤに抱き着いてそう言うので、ユリヤは諭すようにその頭を撫でて言った。
「ミランダは、歌が上手いから。きっと大丈夫よ。だから私がお嫁に行かなくてはね」
「お姉ちゃん?」
自身に抱きついたミランダを、ユリヤもそっと抱きしめる。
その言葉の意味を、幼いミランダは理解することが出来ないようだったが、ユリヤの身に何かが起こることを漠然と感じているようだった。
「お姉ちゃん。お兄ちゃんがお姉ちゃんを助けるって言っていた。だから、ミランダも頑張る!!」
「お兄ちゃん……?あ、エリクが!?ミ、ミランダ!?」
ユリヤはミランダに言葉の意味を問おうとしたが、ミランダはユリヤの呼び止めも聞かずに部屋を出て行ってしまった。
風のように軽やかで、自由なミランダ。
彼女が運ぶ風は、どんなものだろうか。
彼女が明日紡ぐ歌は、どんなものだろうか。
ミランダの残像を見つめながら、ユリヤは一人残された部屋で思った。
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