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第二部
見た目も大事よね(7)
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「…………ねえ、レイモンド」
エレノーラはその沈黙を破り、顔を上げて恐る恐るといったように声をかける。すると、レイモンドも恐る恐るといったように顔を上げた。彼の顔は赤く、彼女も同じように赤い。
「…なんだ…?」
「もう一度、言ってくれないかしら…?」
「っ、それは…その…」
彼女の言葉に、レイモンドは所在なさげに自分の手を弄った。エレノーラは彼が恥ずかしがり屋なのは知っているので、無理強いするつもりはない。
(できるなら、もう一度…)
エレノーラは期待をこめた目でじっと見つめるが、彼は暫く彼女と見つめあった後、ふっと目を逸らしてしまった。彼女が少し残念だと俯き、肩を落としたところで、レイモンドが口を開く。
「エレノーラは…僕の、お姫様…だろ…」
エレノーラは勢いよく顔を上げてレイモンドを凝視するが、彼は顔を赤くして彼女から目をそらしたままだった。彼女は先程よりもはっきりと聞こえた言葉に、にやにやしてしまうのがとめられない。
(…えへ、えへへ…私、魔女だけど…お姫様…)
エレノーラは顔が緩み、変な声が出た。せめてと両頬を手で覆ったものの、何も隠せていなかった。
彼女が幼い頃に聞いた、悪い魔女に拐われたお姫様と、それを助け出した王子様が結ばれて、幸せに暮らした童話。この童話でなくとも、魔女とは悪しきように描かれることが多い。それは魔女が、一般的な人々から見れば信じ難いほどの魔力を持ち、それに見合った人々が扱えないような強力な魔法を扱うものが多いからだ。強大な力は恐れの対象になり得るし、実際に悪事を働いた魔女もいる。特にこの国では、何十年と人々を苦しめた享楽の魔女のせいで、魔女のイメージは最低だろう。
エレノーラは元々魔女に、魔法使いにすらなろうとしたわけではない。捨てられた彼女を助けた先代の薬草の魔女の元で暮らし、学んでいるうちに、いつの間にか魔力が膨れ上がって魔女になった。
彼女自身は魔女としては歳若く、まだまだひよっこで、扱う魔法も補助のものばかり。されども魔女、彼女はお姫様という存在からは一番遠く、悪役になる側だ。
(そんな私でも、お姫様になれる…)
エレノーラが愛し、彼女を愛してくれるレイモンドの前なら、彼女は魔女でなくお姫様だ。
「…エレノーラ」
「ふふ…ありがとう、レイモンド」
エレノーラは恥ずかしいとは思いつつも、にやにやした顔のまま彼に目を向ける。
「…隣、座っていいか」
「うんうん。ごめんね、にやにやしちゃうの、とめられなくて」
「…可愛いから、いい」
エレノーラはレイモンドが可愛いと言ってくれるならいいと、自分の表情はどうでもよくなった。彼女が少し横にずれて隣に人一人分の空きを作ると、レイモンドがそこに座る。エレノーラがぴったりと体を寄せると、レイモンドは彼女の肩を抱き寄せた。
エレノーラはその沈黙を破り、顔を上げて恐る恐るといったように声をかける。すると、レイモンドも恐る恐るといったように顔を上げた。彼の顔は赤く、彼女も同じように赤い。
「…なんだ…?」
「もう一度、言ってくれないかしら…?」
「っ、それは…その…」
彼女の言葉に、レイモンドは所在なさげに自分の手を弄った。エレノーラは彼が恥ずかしがり屋なのは知っているので、無理強いするつもりはない。
(できるなら、もう一度…)
エレノーラは期待をこめた目でじっと見つめるが、彼は暫く彼女と見つめあった後、ふっと目を逸らしてしまった。彼女が少し残念だと俯き、肩を落としたところで、レイモンドが口を開く。
「エレノーラは…僕の、お姫様…だろ…」
エレノーラは勢いよく顔を上げてレイモンドを凝視するが、彼は顔を赤くして彼女から目をそらしたままだった。彼女は先程よりもはっきりと聞こえた言葉に、にやにやしてしまうのがとめられない。
(…えへ、えへへ…私、魔女だけど…お姫様…)
エレノーラは顔が緩み、変な声が出た。せめてと両頬を手で覆ったものの、何も隠せていなかった。
彼女が幼い頃に聞いた、悪い魔女に拐われたお姫様と、それを助け出した王子様が結ばれて、幸せに暮らした童話。この童話でなくとも、魔女とは悪しきように描かれることが多い。それは魔女が、一般的な人々から見れば信じ難いほどの魔力を持ち、それに見合った人々が扱えないような強力な魔法を扱うものが多いからだ。強大な力は恐れの対象になり得るし、実際に悪事を働いた魔女もいる。特にこの国では、何十年と人々を苦しめた享楽の魔女のせいで、魔女のイメージは最低だろう。
エレノーラは元々魔女に、魔法使いにすらなろうとしたわけではない。捨てられた彼女を助けた先代の薬草の魔女の元で暮らし、学んでいるうちに、いつの間にか魔力が膨れ上がって魔女になった。
彼女自身は魔女としては歳若く、まだまだひよっこで、扱う魔法も補助のものばかり。されども魔女、彼女はお姫様という存在からは一番遠く、悪役になる側だ。
(そんな私でも、お姫様になれる…)
エレノーラが愛し、彼女を愛してくれるレイモンドの前なら、彼女は魔女でなくお姫様だ。
「…エレノーラ」
「ふふ…ありがとう、レイモンド」
エレノーラは恥ずかしいとは思いつつも、にやにやした顔のまま彼に目を向ける。
「…隣、座っていいか」
「うんうん。ごめんね、にやにやしちゃうの、とめられなくて」
「…可愛いから、いい」
エレノーラはレイモンドが可愛いと言ってくれるならいいと、自分の表情はどうでもよくなった。彼女が少し横にずれて隣に人一人分の空きを作ると、レイモンドがそこに座る。エレノーラがぴったりと体を寄せると、レイモンドは彼女の肩を抱き寄せた。
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