治療と称していただきます

茜菫

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第一部

また、治療と称していただきます(10)

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 石のどれかが妖精避けの魔法の可能性が高いが、遠目では判別がつかず、手に取って確認してみないとわからなさそうだ。仕方なく、エレノーラが泉の中に入ろうと足を向けたところで、レイモンドから制止の声がかかる。

「エレノーラ、濡れるだろう。僕が取りに行く」

「でも、レイモンドが濡れちゃうわ」

「別に構わない」

「私が構うの。私は濡れても気にしないし」

「それは、僕が気にする」

 そう言って、レイモンドは池の近くに立っている彼女に近づいた。彼は彼女が濡れるより自分が濡れる方がいいと思っているのだろうが、彼女はその逆に、彼が濡れるよりは自分が濡れる方がいいと思っている。エレノーラが笑うと、つられたのかレイモンドも小さく笑った。

「…じゃあいっそ、二人で一緒に濡れてしまうか?」

「あら、それは素敵な提案ね!」

 笑いながら両手を合わせて同意すると、そうするかと彼は頷いた。そのまま、レイモンドは歩いて彼女の隣に並ぶ。すると、なにかの魔法が発動したのを感じて、エレノーラは池に目を向けた。

「レイモンド、今…」

 魔法の石のひとつがうっすらと発光しているのが見える。エレノーラには反応しなかったが、レイモンドに反応して発動したのかもしれない。

「レイモンド、あの一番奥の赤い石が…!」

「エレノーラ、下がって!」

 彼女はその声に従って、少し後ろに下がって池から離れる。彼はその石を確認するために、剣を引き抜き足を一歩踏み出して水を踏みしめた。

 何が起きようとしているのか、エレノーラは不安になりながら両手を握りしめ、じっと彼の背中を見守る。一歩、また一歩とゆっくり慎重に進んでいくレイモンドの体が膝まで水に浸かり、その石の元へとたどり着いた。レイモンドは剣先でその石に触れ、何も起きないことを確認してから手に取る。

(…よかった、けれど…)

 エレノーラは何も起きないことに安堵半分不安半分だ。魔法が発動しているのに触れても何も起きないということは、既に何かが起きているのだから。

 遺されている魔力の結晶石の量からして、おそらく何者かに発見されたとしても、ここは放棄する気が無かったのだろう。となれば、あの石に込められている魔法は足止め程度のものではなく、侵入者を排除するためのものである可能性が高い。

(判断を、間違えたかしら…)

 エレノーラは妖精の報復よりも、あの享楽の魔女の方が怖い。彼女は震え出した手を隠すように握りしめ、レイモンドの背中をじっと見つめる。

(レイモンドがそばにいる、大丈夫よ)

 彼女がそう自分に言い聞かせて安心しようとしていると、後ろから伸びてきた腕が彼女の体を絡め取り、引き寄せた。
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