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第一部
そばにいるから(11)
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先程と同じように、レイモンドが先に中に入り、そのすぐ後にエレノーラが続く。中は薄暗く、魔法で明かりを灯したが、二人の見える範囲にはアグネスはいない。代わりに、なにかの魔法の痕跡をエレノーラは感じ取っていた。
部屋には本棚が並べられていて、その合間に扉が見える。強い魔法がその奥から感じとれて、エレノーラは顔を顰めた。
「レイモンド、ちょっとこっちに…」
エレノーラが振り返って声をかけた瞬間、彼女はなにかに足を取られてバランスを崩した。そのままなにかに引き寄せられて、エレノーラが反射的に目を瞑ると、何かが体に絡みつくような不快感が彼女を襲い、顔を顰める。
「エレノーラ!」
エレノーラはレイモンド声に目を開くと、彼の慌てた表情と伸ばされた手が見えて、手を伸ばした。しかし、その手は届かずに宙を切って、そのまま引きずられてしまう。再び視界が暗闇に覆われ、彼女はちょっとした高さから床に落とされた。
「いたっ」
エレノーラは痛みに体をさすりつつ、両手をついて上体を起こす。辺りは真っ暗で、何も見えなかった。
「なに…」
エレノーラは魔法で明かりを灯し、辺りを見回した。どうやら、彼女は先程の部屋とは別の場所にいるようだ。中にはエレノーラの他にもう一人、彼女が探していたアグネスが、気を失って横たわっている。
「アグネスさん!」
エレノーラは立ち上がろうとしたが、右足首にずきんと痛みを覚えて留まった。彼女は這いつくばってアグネスの元に近づき、その肩を揺すって声をかける。すると、エレノーラの声に反応したアグネスは、うっと小さく呻いた。
(…よかった、無事ね)
エレノーラがほっと胸を撫で下ろすと、突然、扉が開かれる音がした。彼女は驚いて顔を上げ、その音の方を見る。開かれた扉を背に、レイモンドが慌てた様子で二人に駆け寄っていた。どうやら、ここは先程見つけた扉の先のようだ。
「大丈夫か…?!」
レイモンドは真っ先にエレノーラの元、ではなく、アグネスの元へ駆け寄った。倒れている彼女の前にしゃがみこみ、上体を大切そうに抱き上げる。エレノーラはそれを目の当たりにして衝撃を受けたが、見えていないだけかもしれないと思い直して声をかける。
「…レイモンド」
「あなたも無事でしたか。よかった」
レイモンドは彼女を一瞥し、安心した。普通の反応だが、アグネスの元に駆け寄った様子とはあまりに違って、エレノーラは衝撃を受けてしまう。
(どういうこと…?)
彼女はあまりの衝撃に頭が回らず、体を強ばらせた。何かを話そうと口を開くもままならず、アグネスが呻いて意識を取り戻したことで、エレノーラは何も話すことができないまま彼の目が彼女からアグネスへと移った。
部屋には本棚が並べられていて、その合間に扉が見える。強い魔法がその奥から感じとれて、エレノーラは顔を顰めた。
「レイモンド、ちょっとこっちに…」
エレノーラが振り返って声をかけた瞬間、彼女はなにかに足を取られてバランスを崩した。そのままなにかに引き寄せられて、エレノーラが反射的に目を瞑ると、何かが体に絡みつくような不快感が彼女を襲い、顔を顰める。
「エレノーラ!」
エレノーラはレイモンド声に目を開くと、彼の慌てた表情と伸ばされた手が見えて、手を伸ばした。しかし、その手は届かずに宙を切って、そのまま引きずられてしまう。再び視界が暗闇に覆われ、彼女はちょっとした高さから床に落とされた。
「いたっ」
エレノーラは痛みに体をさすりつつ、両手をついて上体を起こす。辺りは真っ暗で、何も見えなかった。
「なに…」
エレノーラは魔法で明かりを灯し、辺りを見回した。どうやら、彼女は先程の部屋とは別の場所にいるようだ。中にはエレノーラの他にもう一人、彼女が探していたアグネスが、気を失って横たわっている。
「アグネスさん!」
エレノーラは立ち上がろうとしたが、右足首にずきんと痛みを覚えて留まった。彼女は這いつくばってアグネスの元に近づき、その肩を揺すって声をかける。すると、エレノーラの声に反応したアグネスは、うっと小さく呻いた。
(…よかった、無事ね)
エレノーラがほっと胸を撫で下ろすと、突然、扉が開かれる音がした。彼女は驚いて顔を上げ、その音の方を見る。開かれた扉を背に、レイモンドが慌てた様子で二人に駆け寄っていた。どうやら、ここは先程見つけた扉の先のようだ。
「大丈夫か…?!」
レイモンドは真っ先にエレノーラの元、ではなく、アグネスの元へ駆け寄った。倒れている彼女の前にしゃがみこみ、上体を大切そうに抱き上げる。エレノーラはそれを目の当たりにして衝撃を受けたが、見えていないだけかもしれないと思い直して声をかける。
「…レイモンド」
「あなたも無事でしたか。よかった」
レイモンドは彼女を一瞥し、安心した。普通の反応だが、アグネスの元に駆け寄った様子とはあまりに違って、エレノーラは衝撃を受けてしまう。
(どういうこと…?)
彼女はあまりの衝撃に頭が回らず、体を強ばらせた。何かを話そうと口を開くもままならず、アグネスが呻いて意識を取り戻したことで、エレノーラは何も話すことができないまま彼の目が彼女からアグネスへと移った。
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