治療と称していただきます

茜菫

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第一部

今だから出来ること(11)

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「…レイモンド、今の不意打ち、すごくいい!すっごくよかったわ!」

「…そうか」

 満面の笑みを浮かべたエレノーラは、頬を赤らめて何度も頷いた。その笑顔に、レイモンドは良かったと安堵する。

「ふふっ…お返し!」

 エレノーラはぐっと身を乗り出すと、レイモンドの唇に口付ける。彼は思わず辺りを見回してしまうが、特に誰かに見られているということもなかった。この場所はデートにぴったりと言われる程だ、キスなどその程度で済まされる、よくある光景だ。

 それから二人は、ベンチでクッキーと果実ジュースをあてに、他愛のないことを話した。会話の内容はいつも部屋の中で話している会話と大差ないものだが、これが外、街の中だというだけで、エレノーラにはまるで特別のように感じていた。いや実際に、自由に外に出ることができないエレノーラにとっては、特別なことだ。

「…エレノーラは、不満は…ないのか?」

「え?」

「もっと自由に外出したい、とか…」

 エレノーラはレイモンドの言葉に目を瞬かせ、少し困ったような表情を浮かべた。

「…私、今の生活に不満はないわ。保護してもらって、レイモンドと結婚できるんだし、こうしてデートに連れて行ってもらっているんだし」

 保護とはいうが、普段の彼女は殆ど軟禁状態に近い。享楽の魔女にその知識を悪用されたことがあるため、今後はその知識が悪用されないように、彼女に接近するものは限られ、常に警護と監視の者がついている。

 レイモンドは常々、彼女も被害者なのにこの待遇はどうなのかと思ってしいた。今日のこんなにも楽しそうにしているエレノーラを見ていると、彼のその気持ちは更に強まる。

「レイモンド」

 彼の名を呼んだエレノーラは、困ったような表情のまま言葉を続ける。彼が考えていることは、お見通しなのだろう。

「私はね、この知識があれば多くの人を救えるんだって、驕って…色んな人から感謝されて、その力があるんだって…きっと、いい気になっていたの」

「エレノーラ…」

「力を誇示するなら、それを守れるだけの力もないといけないのにね。自分にそれがないのに、守ってくれる人もいないのに調子に乗っていたから、いいように利用されちゃったの。だから、保護してもらえるのは私にはいいことなのよ」

 力は、振りかざすことは簡単だ。だが、自分のその欲求を抑え、他者に悪用されぬよう守ることは、難しい。

「それに…」

 エレノーラはレイモンドの腕に腕をからませると、彼の肩に頭を預けて彼を見上げた。彼女のアンバーの目が彼をじっと見つめ、彼も彼女の目から目を反らさずに見つめ返す。

「私のこと、ずっと、守ってくれるでしょう?…ね、私の騎士様」

「…ああ、必ず」

 レイモンドが強く頷いて返すと、エレノーラは安心したように笑った。
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