治療と称していただきます

茜菫

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第一部

今だから出来ること(7)

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 二人は部屋を出て王宮を出ると、馬車に乗り込んだ。魔法薬を飲んだエレノーラはレイモンドの隣に腰掛け、彼の腕に抱きつきぴったりと体を寄せてる。

「…エレノーラ、狭くないか…?」

「ふふ、狭いかもね」

「向かいが空いているぞ」

「やだ、レイモンドの隣がいいの」

 そう言って、エレノーラは彼の肩に頭を預けた。何時もよりも甘えてくる姿が、彼にはたまらなく可愛く思えた。

 レイモンドは普段、エレノーラのことを可愛いと思うより綺麗だと思うことの方が多いが、今日ばかりは最高に可愛いかった。彼がその細い肩を抱くと、彼女は機嫌良さそうに鼻を鳴らして彼を見上げる。

「ね、レイモンド。どこに行くの?」

(…しまった、どうしよう…)

 レイモンドには最後に必ず行こうと思っている場所が一つだけあったが、それ以外は全く考えていなかった。

(街に出れば楽しめるとしか、考えてなかった…)

 彼は誰かと街に出かけることがなかったので、どこへ行けば楽しめるのか、さっぱり思いつかない。

「…エレノーラは、どこか行ってみたいところはあるか?」

 レイモンドは内心冷汗をかきながら、悟られぬように必死に平静を装って問う。エレノーラは細くて長い指を軽く唇にあて、小さく首を傾げて悩む。

「うーん、そうねえ…私、あまり王都のことは知らないのよね」

 エレノーラは助け出されて連れてこられるまで、王都には一度も訪れたことがなかった。彼女はこの国の各地をまわり、多くの人々をその薬の知識で助けたが、彼女が現れたのは地方ばかり。その中の一つに、レイモンドの故郷もあった。

「私はレイモンドが一緒なら、どこでも嬉しいけれど…」

 レイモンドも嬉しいが、今は少し複雑だった。計画性を持ちなさいと言った、ニコラスの声が彼の頭に響く。

(初っ端から、これは本当にまずい…!)

 レイモンドは必死で無い記憶を掘り返して、デートに最適な場所を探し出そうとする。だが、考えれば考える程、焦り、全く思い浮かばなかった。

(落ち着け、落ち着け、僕…!そうだ、ニコラス!…………ニコラスは、なんて言っていたっけ…)

 ニコラスが恋人と出かける時にどこへ行ったと聞いた覚えがあったが、思い出せなかった。いや、恐らく興味がなくて、全て聞き流していた。彼は過去の自分を大声で自分を罵りたくなった。

「…あ!そうだ、私、あそこに行ってみたいな」

「あそこ?」

「ロミエン広場ってところ。デートにピッタリって、話しているのを聞いたことがあるの」

 ロミエン広場は王都の東側にある大きな広場だ。中央には噴水があり、愛の女神の彫像がその中央に飾られている。

(そうだ、ニコラスも行ったって言っていたな…!)

 レイモンドはエレノーラの提案に頷くと、早速目的地を定め、御者に近くまでと指示した。
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