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第一部
夢だったのなら(3)
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レイモンドは青ざめて震えているだけで何も答えようとしないメイドに苛立つ。極力表に態度に出さないように気をつけて、彼は息を吐いた。
「黙っていても、状況は良くなるどころか悪化するだけですよ」
彼の言葉に涙を浮かべたメイドの肩に、エレノーラがそっと触れた。びくりと再び身体を震わせ彼女を見たそのメイドに、エレノーラが優しく声をかける。
「私の方から、寛大な処置にして貰えるようにお願いしてみるから…ね?」
エレノーラがちらりとレイモンドに目を向けた。それに彼は少し唸ったものの、頷く。遂に泣き出してしまったメイドは、しゃくりあげながらも漸く自分の名と所属を口にした。レイモンドはエレノーラがそのように言っていたことも報告するつもりではあるが、処分を決めるのは彼ではないため、保証はできなかった。
(…あとは、エレノーラをここに一人置き去りにした護衛だ…)
レイモンドが考えながらメイドを慰めているエレノーラを眺めていると、誰かが横手の建物から出てきた。このタイミングからして、恐らく今日の護衛担当だろう。その人物を見て、同僚が呻いた。
「…レイモンド!」
その声に聞き覚えがあり、レイモンドも同じように呻きそうになったが、何とか耐える。
「…アグネス」
宮廷魔道士のアグネスは享楽の魔女を嫌っていて、エレノーラに対してもその嫌悪を示していた。
(どうして、アグネスを担当にしたんだよ…!)
レイモンドは魔道士長に苦言を呈したくなった。アグネスのエレノーラに対する態度は見るに見兼ねるもので、彼は何度も彼女を担当から外してほしいと意見していた。
(流石に、ここまで馬鹿な真似はしないとは思っていたのに…)
だが、これでアグネスは永久に担当から外されるだろう。彼女を担当にした上官にも、責任はとってもらわねばならない。
「きゃあ!レイモンド、濡れているわ…!これを…」
「いえ。拭くものはあるので、結構です」
レイモンドがアグネスからハンカチを差し出されて断ると、彼の手元に女物のハンカチが握られているのを見たアグネスはエレノーラを睨みつける。エレノーラはただ、困ったように眉尻を下げるだけだ。その様子を見兼ねて彼がそこに割り入ると、アグネスが誤魔化すように視線を外した。
「アグネス。何故、エレノーラを一人にしたのですか」
「…それは…」
アグネスは押し黙った。レイモンドは彼女が素直に答えるとは思っていなかったが、予想通りでため息しか出ない。
「…馬鹿なことを」
彼が呟くと、アグネスが羞恥からか、顔を赤くそめる。口を開いたが、上手い言い訳が思いつかなかったのか、そこから音は出なかった。
「…まあ、いいです。言い訳は、貴女の上官にしてください」
「っレイモンド、私は…!」
「いいです、と言いました。エレノーラは私が部屋まで送ります」
「待って!それは、私が」
「彼女をここに一人残してどこかへ行っていた貴女のことは、信用できません」
レイモンドがはっきりと言うと、アグネスは返す言葉もないのだろう、俯いて黙り込んだ。みるみる間にその目から涙が溢れていくが、レイモンドは彼女に同情の余地はない。彼は戸惑っているエレノーラを促し、少し躊躇したようだが、彼女は頷いて彼に従った。
「黙っていても、状況は良くなるどころか悪化するだけですよ」
彼の言葉に涙を浮かべたメイドの肩に、エレノーラがそっと触れた。びくりと再び身体を震わせ彼女を見たそのメイドに、エレノーラが優しく声をかける。
「私の方から、寛大な処置にして貰えるようにお願いしてみるから…ね?」
エレノーラがちらりとレイモンドに目を向けた。それに彼は少し唸ったものの、頷く。遂に泣き出してしまったメイドは、しゃくりあげながらも漸く自分の名と所属を口にした。レイモンドはエレノーラがそのように言っていたことも報告するつもりではあるが、処分を決めるのは彼ではないため、保証はできなかった。
(…あとは、エレノーラをここに一人置き去りにした護衛だ…)
レイモンドが考えながらメイドを慰めているエレノーラを眺めていると、誰かが横手の建物から出てきた。このタイミングからして、恐らく今日の護衛担当だろう。その人物を見て、同僚が呻いた。
「…レイモンド!」
その声に聞き覚えがあり、レイモンドも同じように呻きそうになったが、何とか耐える。
「…アグネス」
宮廷魔道士のアグネスは享楽の魔女を嫌っていて、エレノーラに対してもその嫌悪を示していた。
(どうして、アグネスを担当にしたんだよ…!)
レイモンドは魔道士長に苦言を呈したくなった。アグネスのエレノーラに対する態度は見るに見兼ねるもので、彼は何度も彼女を担当から外してほしいと意見していた。
(流石に、ここまで馬鹿な真似はしないとは思っていたのに…)
だが、これでアグネスは永久に担当から外されるだろう。彼女を担当にした上官にも、責任はとってもらわねばならない。
「きゃあ!レイモンド、濡れているわ…!これを…」
「いえ。拭くものはあるので、結構です」
レイモンドがアグネスからハンカチを差し出されて断ると、彼の手元に女物のハンカチが握られているのを見たアグネスはエレノーラを睨みつける。エレノーラはただ、困ったように眉尻を下げるだけだ。その様子を見兼ねて彼がそこに割り入ると、アグネスが誤魔化すように視線を外した。
「アグネス。何故、エレノーラを一人にしたのですか」
「…それは…」
アグネスは押し黙った。レイモンドは彼女が素直に答えるとは思っていなかったが、予想通りでため息しか出ない。
「…馬鹿なことを」
彼が呟くと、アグネスが羞恥からか、顔を赤くそめる。口を開いたが、上手い言い訳が思いつかなかったのか、そこから音は出なかった。
「…まあ、いいです。言い訳は、貴女の上官にしてください」
「っレイモンド、私は…!」
「いいです、と言いました。エレノーラは私が部屋まで送ります」
「待って!それは、私が」
「彼女をここに一人残してどこかへ行っていた貴女のことは、信用できません」
レイモンドがはっきりと言うと、アグネスは返す言葉もないのだろう、俯いて黙り込んだ。みるみる間にその目から涙が溢れていくが、レイモンドは彼女に同情の余地はない。彼は戸惑っているエレノーラを促し、少し躊躇したようだが、彼女は頷いて彼に従った。
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