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本編
好きです、旦那様(15)
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アデリナの呟きに、ヴァルターは彼女が自分と同じ想いを抱いているのだと確信して、花束を抱えた彼女を抱きしめた。アデリナはヴァルターの腕に包まれ、幸せな気持ちで彼の胸に体を預ける。
「私も…好きです、旦那様」
ヴァルターのその想いに応えるように、彼女もその想いを口にする。漸く二人は、本当の意味で、想いを通じあわせることができた。
「本当か」
「本当です」
「もう一度言ってくれ」
アデリナは強請られて、顔を上げ真っ直ぐにヴァルターを見つめる。彼は喜びと期待を含んでか、いつもより口元が緩んでいて、それが彼女にはたまらなく可愛く見えた。
「…好きです、ヴァルター」
アデリナの告白にヴァルターの眉間の皺は消え去って、代わりに口角が目に見えて上がる。いつも凛々しくつり上がっている目まで緩み、アデリナは彼がこんな風に笑うのかと驚くと同時に、その笑顔にまた恋に落とされた。彼女がヴァルターの胸に顔を寄せると、ひゅうっと誰かが口笛を吹いたのが聞こえる。そこで漸く、彼女はここが街中だということを思いだした。
「好きだ、アデリナ」
「旦那様、あの…」
「好きだ。…好きだ」
(嬉しいのだけれど…恥ずかしいわ)
道行く人々はちらちらと二人を見ていて、ヴァルターの後ろにいる花屋の店員も微笑ましそうな目で二人を見ている。アデリナの後ろ、少し離れた場所に侍女が控えているが、アデリナは彼女がどんな表情をしているのか簡単に予想がついた。
「アデリナ…」
「…旦那様、続きは帰ってからに…」
「そう…………いや、そうだな」
ヴァルターは頷くと、彼女を抱きしめる腕を離した。アデリナはそれにほっとしたような、残念なような、相反する二つの気持ちだ。そんな彼女の気持ちを知ってか知らないでか、ヴァルターは離れる前に彼女の頬に手を添える。その意図を察して少し顔を上げて目を閉じると、唇に唇が重ねられた。
軽い音をたてた口付けに、アデリナの胸は高鳴った。もっと深く、抱きしめあって口づけたい、止めたはずの彼女の方がそんなことを思ってしまい、慌てて首を横に振る。
「旦那様、またあとで…」
「ああ」
ヴァルターはアデリナから離れると、花屋の店員に声をかけてから馬留に繋いでいる馬の元へと向かう。一刻でも早く戻って続きがしたいのか、素早い行動だ。アデリナも急いで馬車へと戻り、屋敷へ戻ることにした。
アデリナは馬車の中で自分の唇を指で撫でながら、先程のやり取りを思い出していた。好きだと、明確なその言葉をヴァルターから貰った。欲しいと思っていた言葉が、気持ちが、ヴァルターから自分に向けられた。彼に伝えたいと思っていたその言葉を、気持ちを、ちゃんと伝えられた。
「…私たちは相思相愛、なのね」
言葉にすると、その喜びが更に膨れ上がっていく。アデリナは腕に抱えた薔薇の花束をうっとりと眺め、その心は今日感じていた寂しさも、悲しさも、何もかもが吹き飛んで、喜びに満ち溢れていた。
「私も…好きです、旦那様」
ヴァルターのその想いに応えるように、彼女もその想いを口にする。漸く二人は、本当の意味で、想いを通じあわせることができた。
「本当か」
「本当です」
「もう一度言ってくれ」
アデリナは強請られて、顔を上げ真っ直ぐにヴァルターを見つめる。彼は喜びと期待を含んでか、いつもより口元が緩んでいて、それが彼女にはたまらなく可愛く見えた。
「…好きです、ヴァルター」
アデリナの告白にヴァルターの眉間の皺は消え去って、代わりに口角が目に見えて上がる。いつも凛々しくつり上がっている目まで緩み、アデリナは彼がこんな風に笑うのかと驚くと同時に、その笑顔にまた恋に落とされた。彼女がヴァルターの胸に顔を寄せると、ひゅうっと誰かが口笛を吹いたのが聞こえる。そこで漸く、彼女はここが街中だということを思いだした。
「好きだ、アデリナ」
「旦那様、あの…」
「好きだ。…好きだ」
(嬉しいのだけれど…恥ずかしいわ)
道行く人々はちらちらと二人を見ていて、ヴァルターの後ろにいる花屋の店員も微笑ましそうな目で二人を見ている。アデリナの後ろ、少し離れた場所に侍女が控えているが、アデリナは彼女がどんな表情をしているのか簡単に予想がついた。
「アデリナ…」
「…旦那様、続きは帰ってからに…」
「そう…………いや、そうだな」
ヴァルターは頷くと、彼女を抱きしめる腕を離した。アデリナはそれにほっとしたような、残念なような、相反する二つの気持ちだ。そんな彼女の気持ちを知ってか知らないでか、ヴァルターは離れる前に彼女の頬に手を添える。その意図を察して少し顔を上げて目を閉じると、唇に唇が重ねられた。
軽い音をたてた口付けに、アデリナの胸は高鳴った。もっと深く、抱きしめあって口づけたい、止めたはずの彼女の方がそんなことを思ってしまい、慌てて首を横に振る。
「旦那様、またあとで…」
「ああ」
ヴァルターはアデリナから離れると、花屋の店員に声をかけてから馬留に繋いでいる馬の元へと向かう。一刻でも早く戻って続きがしたいのか、素早い行動だ。アデリナも急いで馬車へと戻り、屋敷へ戻ることにした。
アデリナは馬車の中で自分の唇を指で撫でながら、先程のやり取りを思い出していた。好きだと、明確なその言葉をヴァルターから貰った。欲しいと思っていた言葉が、気持ちが、ヴァルターから自分に向けられた。彼に伝えたいと思っていたその言葉を、気持ちを、ちゃんと伝えられた。
「…私たちは相思相愛、なのね」
言葉にすると、その喜びが更に膨れ上がっていく。アデリナは腕に抱えた薔薇の花束をうっとりと眺め、その心は今日感じていた寂しさも、悲しさも、何もかもが吹き飛んで、喜びに満ち溢れていた。
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