51 / 109
本編
期待してもいいだろうか(2)
しおりを挟む
「なんだ」
「最近どうだ、調子のほうは。嫁さんとは上手くいっているのか?」
「…上手くいっている、とは思う」
アデリナに拒否されることなく、夜は口付けを交わし、体を重ね、共に眠る。それは夫婦として、侯爵家の血を継ぐ子を成す務めのためではあるが、ヴァルターには下心があった。
(アデリナは、務めを果たしたいと思っているだろう…)
ヴァルターはアデリナにとって、自分と体を重ねる理由は務めが全てだと思っていた。先日、女性特有の月のものがきて子が成せなかったと彼女は嘆いていたが、彼は残念に思う反面、少しほっとしていた。
彼は勿論、彼女に自分の子を産んで欲しいと思っている。けれども、まだ暫くはあの時間を共にできる、そんなことを考えてしまっていた。
ヴァルターは爵位を継いで貴族になったからこそアデリナと夫婦になれたが、貴族であるからこそ婚姻に愛は求められない、そう考えていた。貴族の婚姻とは、血の繋がりだ。その血を繋ぎさえすればあとはお互い自由にしていい、そんな夫婦が殆どだと聞く。伴侶に求められない愛を外に求める者も多いそうだ。けれど、ヴァルターは彼女とはそんな夫婦にはなりたくなかった。
「…妻に、好かれたい」
「なんだ、口説けなかったのか?まあ、ヴァルターには難しいよな」
何故なら、彼はアデリナに惚れているからだ。ヴァルターは彼女を愛している。本当の意味で、彼女と愛し合いたい。彼が務めなど関係なくアデリナを欲するように、彼女にも務めなど関係なく望まれたいと思っていた。
(アデリナ)
彼は、彼女が目に自分を映して微笑む姿を見ると、幸せな気持ちになる。彼女が自分の名を呼ぶと、胸が高鳴る。その小さくて柔らかな体を抱きしめると、嬉しくて、幸せで、そのまま一生離したくない気持ちになる。
「確か、嫁さんは…少し気の強そうな、綺麗な子だったな」
エドゥアルトは挙式でのアデリナの姿しか見た事ことがない。ヴァルターはあの時の彼女は、それはもう美しかったと思う。しかし、アデリナの魅力はそれだけではないことを、彼は知っている。
「アデリナは、可愛い」
「へえ。どんなところが?」
ヴァルターはアデリナを脳裏に浮かべながら、考えた。小さくて可愛い。笑った顔が可愛い。惚けている顔が可愛い。笑う声が可愛い。喘ぐ声が可愛い。抱いている時に、震えながら抱きついてくる様子が可愛い。何をとっても、全てが可愛い。
「お前には教えない」
「おいおい…」
エドゥアルトは呆れたように笑った。ヴァルターはアデリナの可愛いところは、自分だけが知っていればいい、こんなにも可愛いと自慢してまわりたい、相反する気持ちを抱いていた。口下手な彼には、その可愛さをうまく表現できそうにないが。
「お前が、そんなに惚れ込むなんてな」
「悪いか」
「いや、いいことだ」
エドゥアルトはそう言って、先程まで眺めていた窓の外に目を向けた。日は傾き、空は赤く染まり始めている。
「最近どうだ、調子のほうは。嫁さんとは上手くいっているのか?」
「…上手くいっている、とは思う」
アデリナに拒否されることなく、夜は口付けを交わし、体を重ね、共に眠る。それは夫婦として、侯爵家の血を継ぐ子を成す務めのためではあるが、ヴァルターには下心があった。
(アデリナは、務めを果たしたいと思っているだろう…)
ヴァルターはアデリナにとって、自分と体を重ねる理由は務めが全てだと思っていた。先日、女性特有の月のものがきて子が成せなかったと彼女は嘆いていたが、彼は残念に思う反面、少しほっとしていた。
彼は勿論、彼女に自分の子を産んで欲しいと思っている。けれども、まだ暫くはあの時間を共にできる、そんなことを考えてしまっていた。
ヴァルターは爵位を継いで貴族になったからこそアデリナと夫婦になれたが、貴族であるからこそ婚姻に愛は求められない、そう考えていた。貴族の婚姻とは、血の繋がりだ。その血を繋ぎさえすればあとはお互い自由にしていい、そんな夫婦が殆どだと聞く。伴侶に求められない愛を外に求める者も多いそうだ。けれど、ヴァルターは彼女とはそんな夫婦にはなりたくなかった。
「…妻に、好かれたい」
「なんだ、口説けなかったのか?まあ、ヴァルターには難しいよな」
何故なら、彼はアデリナに惚れているからだ。ヴァルターは彼女を愛している。本当の意味で、彼女と愛し合いたい。彼が務めなど関係なくアデリナを欲するように、彼女にも務めなど関係なく望まれたいと思っていた。
(アデリナ)
彼は、彼女が目に自分を映して微笑む姿を見ると、幸せな気持ちになる。彼女が自分の名を呼ぶと、胸が高鳴る。その小さくて柔らかな体を抱きしめると、嬉しくて、幸せで、そのまま一生離したくない気持ちになる。
「確か、嫁さんは…少し気の強そうな、綺麗な子だったな」
エドゥアルトは挙式でのアデリナの姿しか見た事ことがない。ヴァルターはあの時の彼女は、それはもう美しかったと思う。しかし、アデリナの魅力はそれだけではないことを、彼は知っている。
「アデリナは、可愛い」
「へえ。どんなところが?」
ヴァルターはアデリナを脳裏に浮かべながら、考えた。小さくて可愛い。笑った顔が可愛い。惚けている顔が可愛い。笑う声が可愛い。喘ぐ声が可愛い。抱いている時に、震えながら抱きついてくる様子が可愛い。何をとっても、全てが可愛い。
「お前には教えない」
「おいおい…」
エドゥアルトは呆れたように笑った。ヴァルターはアデリナの可愛いところは、自分だけが知っていればいい、こんなにも可愛いと自慢してまわりたい、相反する気持ちを抱いていた。口下手な彼には、その可愛さをうまく表現できそうにないが。
「お前が、そんなに惚れ込むなんてな」
「悪いか」
「いや、いいことだ」
エドゥアルトはそう言って、先程まで眺めていた窓の外に目を向けた。日は傾き、空は赤く染まり始めている。
2
お気に入りに追加
1,081
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
離縁前提で嫁いだのにいつの間にか旦那様に愛されていました
Karamimi
恋愛
ぬいぐるみ作家として活躍している伯爵令嬢のローラ。今年18歳になるローラは、もちろん結婚など興味が無い。両親も既にローラの結婚を諦めていたはずなのだが…
「ローラ、お前に結婚の話が来た。相手は公爵令息だ!」
父親が突如持ってきたお見合い話。話を聞けば、相手はバーエンス公爵家の嫡男、アーサーだった。ただ、彼は美しい見た目とは裏腹に、極度の女嫌い。既に7回の結婚&離縁を繰り返している男だ。
そんな男と結婚なんてしたくない!そう訴えるローラだったが、結局父親に丸め込まれ嫁ぐ事に。
まあ、どうせすぐに追い出されるだろう。軽い気持ちで嫁いで行ったはずが…
恋愛初心者の2人が、本当の夫婦になるまでのお話です!
【追記】
いつもお読みいただきありがとうございます。
皆様のおかげで、書籍化する事が出来ました(*^-^*)
今後番外編や、引き下げになった第2章のお話を修正しながら、ゆっくりと投稿していこうと考えております。
引き続き、お付き合いいただけますと嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
帝国最強(最凶)の(ヤンデレ)魔導師は私の父さまです
波月玲音
恋愛
私はディアナ・アウローラ・グンダハール。オストマルク帝国の北方を守るバーベンベルク辺境伯家の末っ子です。
母さまは女辺境伯、父さまは帝国魔導師団長。三人の兄がいて、愛情いっぱいに伸び伸び育ってるんだけど。その愛情が、ちょっと問題な人たちがいてね、、、。
いや、うれしいんだけどね、重いなんて言ってないよ。母さまだって頑張ってるんだから、私だって頑張る、、、?愛情って頑張って受けるものだっけ?
これは愛する父親がヤンデレ最凶魔導師と知ってしまった娘が、(はた迷惑な)溺愛を受けながら、それでも頑張って勉強したり恋愛したりするお話、の予定。
ヤンデレの解釈がこれで合ってるのか疑問ですが、、、。R15は保険です。
本人が主役を張る前に、大人たちが動き出してしまいましたが、一部の兄も暴走気味ですが、主役はあくまでディー、の予定です。ただ、アルとエレオノーレにも色々言いたいことがあるようなので、ひと段落ごとに、番外編を入れたいと思ってます。
7月29日、章名を『本編に関係ありません』、で投稿した番外編ですが、多少関係してくるかも、と思い、番外編に変更しました。紛らわしくて申し訳ありません。
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる