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本編
少し寂しかったのです(11)
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「今後も、こういったことはある」
歩みを進め、前を向いたまま、ヴァルターは静かにアデリナに告げる。彼女はそれに顔を上げて、彼の横顔を眺めた。彼の、その表情に変化は見えない。
ヴァルターの立場上、何かがあれば、急遽出なければならないことがあるし、そのまま暫く戻れなくなることもある。アデリナは彼の妻として知っておかなければならないこともあるし、妻であってもその仔細を知ることは許されないものもある。
「はい。承知の上で、私は旦那様の妻となりました」
「…そうか」
ヴァルターがそれ以上を彼女に語らないということは、今回は彼女が知ることのできないことが起きているようだ。アデリナは知りたいと思う気持ちも、寂しいと思う気持ちもあるが、それらはちゃんと自制しなければならない。自国のためにその身を尽くしている彼のことを妻として誇りに思うし、その事について、彼女個人の感情で何かを言うつもりもなかった。
(お気をつけて…と、言ってもいいものなのかしら)
アデリナが何も言えずにいると、あっという間に寝室の前にたどり着いてしまった。ちっともヴァルターを口説けなかったと少し後悔するが、彼を引き止めるわけにもいかない。
「…アデリナ」
「どうなさいました?」
しかし、ヴァルターは直ぐには戻らずに扉の前で彼女に声をかけた。アデリナはその続きの言葉を待つものの、彼は中々口を開かず彼女は首を傾げたが、直ぐにはっとする。
(…まさか、私で口説く練習を?)
今まで女性との付き合いがなかった上に、元々会話が苦手なヴァルターには、口説くことは難しい。アデリナは事前に妻である自分で練習してから本番に望むつもりなのかもしれない、十分に考えられると思った。
しかし、ヴァルターはなかなか言葉が思い浮かばないのか黙ったままだ。ならば、それを逆手にとってこの機会を利用させてもらおうと、彼女は意気込む。
「旦那様、行かれる前に…ひとつ、お願いをしてもよいでしょうか」
「…なんだ」
アデリナの言葉に、ヴァルターは漸く口を開いた。彼女は彼を口説くのだと意気込んだものの、恥ずかしくなって少し俯く。彼女は顔が熱くなっている自覚があり、頬に手を当てた。
「…旦那様。私に…口付けて、くださいませんか」
アデリナがちらりと上を見上げると、ヴァルターが驚いたように目を見開き、固まっていた。
「その、えっと…昨夜は、少し寂しかったのです。ほら、致しませんでしたでしょう?」
二人が口付けを交わすのは、相変わらず殆どが閨だけだった。昨夜は寝室を別にしたので、一度も口付けていない。それに、これから暫くは戻ってこられないのだから、その間は当然。口付けることができなくなってしまう。
「…致しませんか?」
少し上目遣いで、甘えるように。旦那様をその気にさせるあれこれ、という本で学んだ手法を使って、アデリナはお願いした。彼女が効果はどうだろうかと少し不安になりつつ反応を待っていると、突然、ヴァルターが彼女の両肩を掴む。
歩みを進め、前を向いたまま、ヴァルターは静かにアデリナに告げる。彼女はそれに顔を上げて、彼の横顔を眺めた。彼の、その表情に変化は見えない。
ヴァルターの立場上、何かがあれば、急遽出なければならないことがあるし、そのまま暫く戻れなくなることもある。アデリナは彼の妻として知っておかなければならないこともあるし、妻であってもその仔細を知ることは許されないものもある。
「はい。承知の上で、私は旦那様の妻となりました」
「…そうか」
ヴァルターがそれ以上を彼女に語らないということは、今回は彼女が知ることのできないことが起きているようだ。アデリナは知りたいと思う気持ちも、寂しいと思う気持ちもあるが、それらはちゃんと自制しなければならない。自国のためにその身を尽くしている彼のことを妻として誇りに思うし、その事について、彼女個人の感情で何かを言うつもりもなかった。
(お気をつけて…と、言ってもいいものなのかしら)
アデリナが何も言えずにいると、あっという間に寝室の前にたどり着いてしまった。ちっともヴァルターを口説けなかったと少し後悔するが、彼を引き止めるわけにもいかない。
「…アデリナ」
「どうなさいました?」
しかし、ヴァルターは直ぐには戻らずに扉の前で彼女に声をかけた。アデリナはその続きの言葉を待つものの、彼は中々口を開かず彼女は首を傾げたが、直ぐにはっとする。
(…まさか、私で口説く練習を?)
今まで女性との付き合いがなかった上に、元々会話が苦手なヴァルターには、口説くことは難しい。アデリナは事前に妻である自分で練習してから本番に望むつもりなのかもしれない、十分に考えられると思った。
しかし、ヴァルターはなかなか言葉が思い浮かばないのか黙ったままだ。ならば、それを逆手にとってこの機会を利用させてもらおうと、彼女は意気込む。
「旦那様、行かれる前に…ひとつ、お願いをしてもよいでしょうか」
「…なんだ」
アデリナの言葉に、ヴァルターは漸く口を開いた。彼女は彼を口説くのだと意気込んだものの、恥ずかしくなって少し俯く。彼女は顔が熱くなっている自覚があり、頬に手を当てた。
「…旦那様。私に…口付けて、くださいませんか」
アデリナがちらりと上を見上げると、ヴァルターが驚いたように目を見開き、固まっていた。
「その、えっと…昨夜は、少し寂しかったのです。ほら、致しませんでしたでしょう?」
二人が口付けを交わすのは、相変わらず殆どが閨だけだった。昨夜は寝室を別にしたので、一度も口付けていない。それに、これから暫くは戻ってこられないのだから、その間は当然。口付けることができなくなってしまう。
「…致しませんか?」
少し上目遣いで、甘えるように。旦那様をその気にさせるあれこれ、という本で学んだ手法を使って、アデリナはお願いした。彼女が効果はどうだろうかと少し不安になりつつ反応を待っていると、突然、ヴァルターが彼女の両肩を掴む。
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