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本編
まずは抱いてください(3)
しおりを挟むしかし、結果はこの通り、アデリナは見事に選ばれてしまった。夜会の後日直ぐに書面が届き、アデリナは目を白黒させ、彼女の父であるローゼン侯爵は大いに喜んだ。
そのまま滞りなく話は纏められ、アデリナはヴランゲル侯爵の婚約者となり、今日、正式に婚姻を結んで侯爵夫人となった。婚約から今日という日まで二人は一度も会わなかったが、所詮は政略結婚なのだからこんなものだろうと、彼女は諦めていた。
とはいえ、アデリナにはこうなった以上、できる限り良好な関係を築くための努力をするつもりはある。ただ、無愛想で気の利かない、会話の続かない男とどこまで関係を深められるかはわからないが。
アデリナにとって幸いなのは、ヴァルターの表情とは裏腹に、侯爵夫人としては歓迎されていることだ。彼の寝室の隣に彼女の寝室が用意されており、部屋の中には隣の部屋と繋がっている扉がある。夫であるヴァルターが、妻の寝室に自由に出入りできるようになっている、ごく普通の、貴族の屋敷の作りだ。
(…もう。まだこないのかしら)
挙式を終え、来賓客をもてなし、腹の内をさぐり合うやり取りを交わして、アデリナは心身ともに疲れ切っているが、これからいよいよ初夜だと夫を待っていた。侯爵家の跡取りを産むこと、それは侯爵夫人としての最も大切な務めだが、やることをやらねばできるものもできない。
「いくらなんでも、遅いわ…」
アデリナが拷問のように隅々まで体を磨きあげられ、扇情的な下着を身にまとい、ベッドの上で一人待つこと数時間。一向に訪れる様子のない夫に、まさかこのまますっぽかすつもりなのかと彼女は不安になる。初夜に夫の訪れが無かった妻だなんて、笑いものにしかならない。そのつもりだというのなら、とんだ侮辱だ。
「…そんなこと、絶対に許さないわ…!」
本来、寝室の扉を開くのは夫のみで、妻が扉を開き誘うことははしたないと言われている。夫の寝室に入ることは更にだ。
だが、アデリナはここで泣き寝入りするつもりは全くなかった。はしたないと言われようが、きっちり話をつけねばならないと意気込む。彼女は決心すると、ベッドから下りてヴァルターの寝室へ続く扉を引き開いた。
そのまま扉を潜り、目じりを吊り上げながら、ベッドの縁に座っているヴァルターの元へと向かう。彼はその目を少し驚いたように見開いて、彼女を見た。
「アデリナ、何故ここに」
「旦那様がちっとも訪れようとなさらないからです」
アデリナが少し怒気を孕んだ声音でそう言うと、彼は時計に目を向けて更に少し目を見開く。この反応だけを見れば、わざとではなかったように見える。
「一体、どういったおつもりでしょう。私を旦那様の妻にする気はないとでも?」
「そんなことはない」
ヴァルターは立ち上がり、アデリナの目の前まで歩み寄った。ナイトガウンの下に隠された鍛え上げられた体が前の合せから少し覗いて、アデリナはついそれに目がいってしまい、慌てて俯いて誤魔化す。
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