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街を歩いてめぐり、少し疲れてしまったレアケを気遣い、二人は早めに侯爵邸へと戻っていた。馬車の中では行きとは違い、エスガは口数少なく、よく黙り込んでは何かを考え込んでいる。
「エスガ?」
「…えっ、あ、ごめん。なんだっけ」
その様子を見かねてレアケが声をかけると、はっとしたエスガは顔を上げた。その表情は明るいとは言えず、レアケは心配になる。
「どうしたの?なにかあったの?」
「いや…別に」
「別にって雰囲気じゃないわよ…私には言えないことが、なにかあるの?」
「そんなわけじゃ…」
エスガは慌てて否定するが、レアケはそれを言葉通りには信じられなかった。どう見てもなにかあるはずなのに、それ隠そうとしているエスガにレアケが少し不満に眉を顰める。エスガは更に慌て、何かを言おうと口を開くものの、そこから言葉が続かなかった。
「…そう。誰でも人には言いたくないことのひとつやふたつ、あるものね」
レアケは落胆し、肩を落とす。必ずしも、互いのすべてを知っていなければ結婚できないわけでもない。
「そっ、そうじゃないんだ!」
エスガは馬車の中で立ち上がろうとして、頭をぶつける。両手で頭を頭を抱えて痛みに耐える彼の手に、レアケは慌てて手を添えた。
「だっ、…大丈夫?」
「うぅ…ごめん…」
「ごめんね、エスガ。まさかそんなに慌てるなんて思っていなくて…」
「いや、俺の態度が悪かったんだ…」
逆に申し訳なくなったレアケに、エスガは首を横に振る。元はと言えば自分がレアケに不安を覚えさせる態度を取ってしまったことが問題だと、エスガは自覚していた。
「…引かれるからと思って、言えなくて」
「何を言っているの。私がエスガに引くことなんてないわ」
「でも…」
「引くなら、あなたが男だって知ったときに引いていたわよ」
「…っ…それもそうか…」
レアケが答えると、エスガは眉尻を下げて小さく笑った。そう言われても、彼にはまだ不安に思うことがあるのだろう。それでも、レアケをこれ以上不安にさせまいと、エスガは目をそらしつつも重い口を開く。
「何かあったわけじゃなくて、言えないことがあるわけじゃなくて…」
「うん」
「…おばあさんがいただろ」
「ええ。もしかして、領主のことでなにか嫌な…」
「いや、そのことはいいんだ。気にしていない」
レアケは前領主や彼の父親に対して不満を覚えていた老婆の言葉になにかあったのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。エスガはまだ躊躇があるようで、口を開くも言葉を出さずに閉じ、また口を開いては閉じるを繰り返す。
「エスガ?」
「…えっ、あ、ごめん。なんだっけ」
その様子を見かねてレアケが声をかけると、はっとしたエスガは顔を上げた。その表情は明るいとは言えず、レアケは心配になる。
「どうしたの?なにかあったの?」
「いや…別に」
「別にって雰囲気じゃないわよ…私には言えないことが、なにかあるの?」
「そんなわけじゃ…」
エスガは慌てて否定するが、レアケはそれを言葉通りには信じられなかった。どう見てもなにかあるはずなのに、それ隠そうとしているエスガにレアケが少し不満に眉を顰める。エスガは更に慌て、何かを言おうと口を開くものの、そこから言葉が続かなかった。
「…そう。誰でも人には言いたくないことのひとつやふたつ、あるものね」
レアケは落胆し、肩を落とす。必ずしも、互いのすべてを知っていなければ結婚できないわけでもない。
「そっ、そうじゃないんだ!」
エスガは馬車の中で立ち上がろうとして、頭をぶつける。両手で頭を頭を抱えて痛みに耐える彼の手に、レアケは慌てて手を添えた。
「だっ、…大丈夫?」
「うぅ…ごめん…」
「ごめんね、エスガ。まさかそんなに慌てるなんて思っていなくて…」
「いや、俺の態度が悪かったんだ…」
逆に申し訳なくなったレアケに、エスガは首を横に振る。元はと言えば自分がレアケに不安を覚えさせる態度を取ってしまったことが問題だと、エスガは自覚していた。
「…引かれるからと思って、言えなくて」
「何を言っているの。私がエスガに引くことなんてないわ」
「でも…」
「引くなら、あなたが男だって知ったときに引いていたわよ」
「…っ…それもそうか…」
レアケが答えると、エスガは眉尻を下げて小さく笑った。そう言われても、彼にはまだ不安に思うことがあるのだろう。それでも、レアケをこれ以上不安にさせまいと、エスガは目をそらしつつも重い口を開く。
「何かあったわけじゃなくて、言えないことがあるわけじゃなくて…」
「うん」
「…おばあさんがいただろ」
「ええ。もしかして、領主のことでなにか嫌な…」
「いや、そのことはいいんだ。気にしていない」
レアケは前領主や彼の父親に対して不満を覚えていた老婆の言葉になにかあったのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。エスガはまだ躊躇があるようで、口を開くも言葉を出さずに閉じ、また口を開いては閉じるを繰り返す。
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