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 感動しているレアケの前を、小さな机と椅子が通った。エスガの魔法により塔の中から引っ張り出されたそれらは、そのまま木陰に設置される。

(一度見ただけなのに…本当にすごい子ね)

 以前、レアケがエスガの前で使った魔法だ。エスガは彼女から教わることなく独自で使いこなせるようになったらしい。レアケがエスガの魔法に感心しているうちに、彼は簡素なテーブルクロスをかけ、ティーセットを用意し終えた。

「レアケ、こちらに」

 エスガは名を呼び、椅子を引いてレアケを誘う。レアケは目を瞬かせたが、直ぐに笑顔になって椅子に腰掛けた。エスガはポットからカップに紅茶を注ぐ。そのカップを手に取ったレアケは、一口口に含んでうっそりと微笑んだ。

「…美味しいのう」

 優しい魔女に、晴れた空の下でティータイムを。以前にエスガが願い、かなわなかった一時を、六年の時を経て共に過ごすことができた。

「そなたの淹れる紅茶、随分久しぶりに感じるのう」

「貴女の口にあえばよいのですが」

「勿論、あうとも」

 魔女と侍女の関係であった二人は、一人の男と女へと関係が変化していた。魔女の姿は変わらないが、少女、ではなく少女を装っていた少年は成長し、今では立派な青年だ。

(見違えたわ)

 レアケはエスガを見上げ、その顔をじっと見つめる。初めて出会った頃、エスガがエスタと名乗っていた頃から随分と面変りした。傷んでくすみ、伸び放題だった金髪は艶がでて短く整えられており、凹んで暗い色を映した新緑の目は英気に満ち溢れている。痩せこけた頬にもしっかりと肉がついており、そこに幼さはない。

「…私の顔に、なにかついていますか?」

「顔がついておるのう」

「そりゃ当然だろ…んん、当然でしょう」

 思わず素に戻ったエスガは一つ咳払いをし、努めて紳士らしく振る舞いなおす。

「エスガは随分と男前になったのう」

「…レアケの好みですか?」

「え?そうね、好みだわ」

「ほっ、本当か?」

 目を輝かせて身を乗り出したエスガに、レアケは目を瞬かせた。顔でもなんでもよいから好かれたい、その心が見えてレアケはくすりと笑う。

「…ほう、エスガ。よほど私のことが好きと見える」

「そうだ、好きだ。大好きだ。愛している」

「…わかった、わかったわ。私の負けだわ!」

 少しからかおうとしたレアケだが、思わぬ反撃を受けて顔を赤くし、エスガから目をそらした。

「…レアケ」

 先に見つめていたのはレアケだったが、今は見つめられる側だ。エスガはただまっすぐに、情熱的な想いを込めてレアケを見つめている。
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