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 日が暮れ始める前に満足げな王が塔を後にし、エスタは隠れてその後をつけた。王族が塔を訪れるときも、去るときも、必ず転移の魔法を使う。魔法使いでない彼らが転移魔法を使えるのは、魔女の力によるものだ。

 転移魔法には、必ず道標となる転移先の座標が必要になる。魔法使いでない王族が自力で座標を指定することなどできるはずもない。であれば、座標を特定するための魔法道具が存在しているはずだとエスタは考えた。

 エスタはそれが知りたかった。転移で指定される塔の座標、王族らの居場所の座標を。王が転移魔法を使うとき、必ず座標のもとに向かうはずとエスタが目論見通り、王は塔の座標となる魔法道具のもとに向かっていた。

(…あんなところにあったのか)

 塔の近くにある木の根元にそれが埋め込まれているのを、エスタは感じ取った。レアケから魔法を学ばなければ、感じ取ることなど一生なかっただろう。王がその場で右の中指にはめた指輪を撫でると、まばゆい光が王と騎士を包み、光と共に姿が消えた。

 エスタはそれから目をそらさず、目を見開いて魔力の残滓を感じ取る。それが向かう先、憎き王族らの転移座標を見つけると、エスタはほくそ笑んだ。

(…腐った王族どもめ。いまにみていろ)

 エスタは内に秘めた決意とともに、王が去っていった方角を睨みつける。暫くその方角を睨みつけていたが、時間が勿体ないと思い直して塔に戻った。

 塔に戻ると、エスタの鼻に香ばしい香りが届く。エスタがすんすんと鼻を鳴らしながら階段を上ると、テーブルの上には湯気の立つ料理が並べられ、レアケが腰に手を当て仁王立ちしていた。

「…何してんだ…いるのですか、魔女様」

「帰ってきたか、エスタ!ほれ、今晩はご馳走だ」

 見覚えのある料理にエスタは目を見開く。それはエスタがこの塔にやってきた初日、レアケが彼に食べさせた料理の数々だった。その日以降、料理は侍女であるエスタが担当していたため、随分と懐かしい。

(…作りすぎたって言っていたけど、多分…俺のために用意していたんだろうな)

 その日のことを思い出し、エスタは鼻の奥がつんとして目が潤む。それにレアケもつられそうになったが、堪えて笑ってエスタの手を引いた。

「冷める前に、食べてしまおうぞ」

「…作り過ぎじゃないですか?」

「足りぬより良い!」

 エスタをソファに座らせると、レアケはその隣りに座った。フォークを手にとって切り分けた肉をとると、エスタの口元に運ぶ。


「…は?」

「ほれ、あーん」

 魔女の突然の行動に度肝を抜かれたエスタは顔を真っ赤にする。にこにこと微笑みながらフォークを差し出すレアケを睨みつけ、エスタはそれをぱくりと一口で食べた。
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