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(…そうね。これ以上、未来のある子をこんなところに縛り付ける訳にはいかないわ)
レイフはレアケが侍女を逃していることなど、とっくに気づいている。気づいていながら放置しているのは、レアケの精神が削られていくさまを眺めて楽しんでいるからだ。魔女を従属させている限り、逃げ出した侍女程度が何をしようとも、どうすることもできないと侮っている。実際に、この四十年何事も起きていなかったのだから。
「そう膨れるでない。まったく、そなたはまだまだお子様だの」
「…もう子供じゃない。ただ魔女様が歳食ってるだけで…いでええええええっ」
「だ、れ、が、ババアだと?!」
「いでででっ、て、言ってないっ、今の、言ってないだろっ!」
「同じことよ!」
頭を鷲掴みにされたエスタは悲鳴を上げる。エスタは痛いことが好きな訳ではないが、このやりとりがあると何も変わっていないと安心できた。
「ふん。私からすれば、そなたなんぞ何時まで経っても子供だ」
この不平等な世界で、時間だけが全てに平等だ。誰も未来には進めないし、過去には戻れず、続いていく今を生きるしかない。エスタが一つ歳をとれば、レアケも同じように歳を取る。エスタはレアケの実年齢を知らないが、歳の差は決して縮まらないことだけは知っていた。その歳の差がある限り、いつまでも子供に見られる。それが不服でたまらなかった。
「うっせえ、ババア!年の差なんて、どうやっても埋まらないだろっ!…ひっ」
故に、エスタは決して言ってはならぬ言葉を、ついぽろりとこぼしてしまった。魔女に据わった目で見つめられ、エスタは恐怖に体を震わせる。魔女レアケはエスタの粗相をなんでも許したが、年齢のことだけは決して許さなかった。
「…はあ。やれやれ、お口は本当に心配だの…」
蛇に睨まれた蛙のごとく、冷や汗をかきながら身動きが取れずにいたエスタだが、レアケが腰に手をあててため息をついたことで漸く体の力が抜けた。
「…別に、ずっとここにいるんだからいいだろ」
エスタは問題を抱えているとわかっていても、この塔から、レアケから離れるつもりがなかった。故に、エスタが立派な淑女としての言葉遣いや立ち振舞いを覚えても、それを見せる相手は殆どレアケだ。時折訪れる王族や塔の近くまで荷物を運ぶ使用人らもいるが、顔を合わせる頻度は少なく時間も短い。だからそこまで深刻に考える必要なんてない、そう思っていた。
「…いや、そなたはここにいてはいけない」
「…え?」
「エスタ。今夜、この塔から去りなさい」
思ってもみなかったレアケの言葉に、エスタは言葉を失い、その場に立ち尽くした。
レイフはレアケが侍女を逃していることなど、とっくに気づいている。気づいていながら放置しているのは、レアケの精神が削られていくさまを眺めて楽しんでいるからだ。魔女を従属させている限り、逃げ出した侍女程度が何をしようとも、どうすることもできないと侮っている。実際に、この四十年何事も起きていなかったのだから。
「そう膨れるでない。まったく、そなたはまだまだお子様だの」
「…もう子供じゃない。ただ魔女様が歳食ってるだけで…いでええええええっ」
「だ、れ、が、ババアだと?!」
「いでででっ、て、言ってないっ、今の、言ってないだろっ!」
「同じことよ!」
頭を鷲掴みにされたエスタは悲鳴を上げる。エスタは痛いことが好きな訳ではないが、このやりとりがあると何も変わっていないと安心できた。
「ふん。私からすれば、そなたなんぞ何時まで経っても子供だ」
この不平等な世界で、時間だけが全てに平等だ。誰も未来には進めないし、過去には戻れず、続いていく今を生きるしかない。エスタが一つ歳をとれば、レアケも同じように歳を取る。エスタはレアケの実年齢を知らないが、歳の差は決して縮まらないことだけは知っていた。その歳の差がある限り、いつまでも子供に見られる。それが不服でたまらなかった。
「うっせえ、ババア!年の差なんて、どうやっても埋まらないだろっ!…ひっ」
故に、エスタは決して言ってはならぬ言葉を、ついぽろりとこぼしてしまった。魔女に据わった目で見つめられ、エスタは恐怖に体を震わせる。魔女レアケはエスタの粗相をなんでも許したが、年齢のことだけは決して許さなかった。
「…はあ。やれやれ、お口は本当に心配だの…」
蛇に睨まれた蛙のごとく、冷や汗をかきながら身動きが取れずにいたエスタだが、レアケが腰に手をあててため息をついたことで漸く体の力が抜けた。
「…別に、ずっとここにいるんだからいいだろ」
エスタは問題を抱えているとわかっていても、この塔から、レアケから離れるつもりがなかった。故に、エスタが立派な淑女としての言葉遣いや立ち振舞いを覚えても、それを見せる相手は殆どレアケだ。時折訪れる王族や塔の近くまで荷物を運ぶ使用人らもいるが、顔を合わせる頻度は少なく時間も短い。だからそこまで深刻に考える必要なんてない、そう思っていた。
「…いや、そなたはここにいてはいけない」
「…え?」
「エスタ。今夜、この塔から去りなさい」
思ってもみなかったレアケの言葉に、エスタは言葉を失い、その場に立ち尽くした。
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