27 / 126
9-1
しおりを挟む
エスタが紅茶を淹れてカップを差し出すと、レアケは上掛けに包まれたままそれを受け取る。少女の温かな気遣いに魔女は目元を弛め、穏やかに微笑んだ。
「…美味しいのう」
「ふふん、私も上手くなっただろ!」
「うむ、可愛い。エスタは可愛いのう」
「だろうっ…………え?」
腰に手を当て、得意げに胸を張るエスタを微笑ましく思いながら、レアケは紅茶をゆっくり飲む。一口、また一口と喉を通すたびに、体が、心が温まっていった。
「魔女様、寒くないか?服はどうする…あっ、どうしますか」
「私はこのままでよい。辻褄が合わなくなってしまうからのう」
王太子はレアケを入浴中に連れ出して暴行を働いた。レアケは幻の魔法を使って難を逃れたが、王太子はその幻の中で暴行を続けているのだろう。魔法を解いた際にレアケが幻から大きく乖離していては、不審に思われてしまう。
(…あんなヤツ)
エスタは先程見た光景を思い出し、顔を顰めて俯く。逆らわない、いや、逆らえない女性を力で押さえつけ、下半身をさらけ出していた醜悪な男の姿に、エスタではなくエスガとして、同じ男として嫌悪を感じていた。
「…そう気にせずとも良い。適当な頃合いを見て、お引き取り願うからのう」
エスタの反応を恐怖として受け取ったのか、レアケが優しげに声をかける。恐れも怯えもしていないが、エスタはうまく言葉を選べず黙り込むしかなかった。
(…俺じゃなくて、怖かったのは魔女様のほうじゃないのか)
魔女であっても、その得意とする魔法を使うことができず、抵抗することができなければ、普通の女性となんらかわらない。男であるエスタでも、力ずくでおさえつけられた時の恐怖を知っている。
「…魔女様。明日晴れたら、ちょっと外に出てみな…みませんか」
エスタの突然の提案に、レアケは目を丸くした。直ぐにそれがエスタなりの慰めなのだと理解し、彼女は小さく微笑む。
「…魅力的な提案だが、やめておこうかの。外に出るのは、少々億劫だ」
「…魔女様、塔に引きこもり過ぎなんだから、たまには外に出ればいいのに」
エスタの知る限り、レアケが塔の外に出たことは一度もなかった。断られて唇を尖らせたエスタに、レアケは困ったように眉尻を下げる。
「私はこの通り、色が白いだろう?日の下に出るのは…そう、疲れるのだよ」
「なんだ、それ」
「まあ、そういう体質でのう」
「ふうん、そっか。じゃあ、仕方ないな、…ないですね」
エスガはそれを理解できなかったが、そういうものかと納得した。
「…美味しいのう」
「ふふん、私も上手くなっただろ!」
「うむ、可愛い。エスタは可愛いのう」
「だろうっ…………え?」
腰に手を当て、得意げに胸を張るエスタを微笑ましく思いながら、レアケは紅茶をゆっくり飲む。一口、また一口と喉を通すたびに、体が、心が温まっていった。
「魔女様、寒くないか?服はどうする…あっ、どうしますか」
「私はこのままでよい。辻褄が合わなくなってしまうからのう」
王太子はレアケを入浴中に連れ出して暴行を働いた。レアケは幻の魔法を使って難を逃れたが、王太子はその幻の中で暴行を続けているのだろう。魔法を解いた際にレアケが幻から大きく乖離していては、不審に思われてしまう。
(…あんなヤツ)
エスタは先程見た光景を思い出し、顔を顰めて俯く。逆らわない、いや、逆らえない女性を力で押さえつけ、下半身をさらけ出していた醜悪な男の姿に、エスタではなくエスガとして、同じ男として嫌悪を感じていた。
「…そう気にせずとも良い。適当な頃合いを見て、お引き取り願うからのう」
エスタの反応を恐怖として受け取ったのか、レアケが優しげに声をかける。恐れも怯えもしていないが、エスタはうまく言葉を選べず黙り込むしかなかった。
(…俺じゃなくて、怖かったのは魔女様のほうじゃないのか)
魔女であっても、その得意とする魔法を使うことができず、抵抗することができなければ、普通の女性となんらかわらない。男であるエスタでも、力ずくでおさえつけられた時の恐怖を知っている。
「…魔女様。明日晴れたら、ちょっと外に出てみな…みませんか」
エスタの突然の提案に、レアケは目を丸くした。直ぐにそれがエスタなりの慰めなのだと理解し、彼女は小さく微笑む。
「…魅力的な提案だが、やめておこうかの。外に出るのは、少々億劫だ」
「…魔女様、塔に引きこもり過ぎなんだから、たまには外に出ればいいのに」
エスタの知る限り、レアケが塔の外に出たことは一度もなかった。断られて唇を尖らせたエスタに、レアケは困ったように眉尻を下げる。
「私はこの通り、色が白いだろう?日の下に出るのは…そう、疲れるのだよ」
「なんだ、それ」
「まあ、そういう体質でのう」
「ふうん、そっか。じゃあ、仕方ないな、…ないですね」
エスガはそれを理解できなかったが、そういうものかと納得した。
10
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
殿下!婚姻を無かった事にして下さい
ねむ太朗
恋愛
ミレリアが第一王子クロヴィスと結婚をして半年が経った。
最後に会ったのは二月前。今だに白い結婚のまま。
とうとうミレリアは婚姻の無効が成立するように奮闘することにした。
しかし、婚姻の無効が成立してから真実が明らかになり、ミレリアは後悔するのだった。
残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください
mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。
「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」
大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です!
男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。
どこに、捻じ込めると言うのですか!
※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18】俺様CEOの子どもを出産したのは極秘です
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※2024/7/7本編完結
※7/20後日談連載開始。数話完結予定。→総悟が執拗なため長引いてます……
(昼夜問わずに桃花と一緒に過ごせて幸せな総悟だったけど、獅童が最近夜グズるようになったので、夜の時間が削られてしまい…強硬手段に出る話)
※獅童も一緒に竹芝夫婦と遊園地に遊びに行く後日談も後日投稿予定です。
二年前に一度だけ身体の関係になった二階堂総悟。二階堂財閥の御曹司であり、新進気鋭のCEOとなっている彼とは、梅小路桃花は一生会うつもりがなかった。けれども、彼の部下が現れて、多額の報酬を渡す代わりに、すっかりやさぐれてしまった総悟の専属秘書に戻ってほしいと依頼される。お金に困っていた桃花は、総悟との間に出来た子どもを産んで育てているという秘密を隠したまま、彼の専属秘書として再び働くことになり……?
俺様御曹司・二階堂総悟(27) × 生真面目な専属秘書・梅小路桃花(22)
とある事情で離れざるを得なかったワケありな2人が再会して、子どもと一緒に家族皆で幸せになるまでの物語。
※R18には※
※アルファポリス先行作品。
(ムーンライトノベルズには7月以降に投稿)
目が覚めたらあと一年で離縁される王妃になっていた件。
蜜柑マル
恋愛
鏡に映っていたのは、肉感的美女だった。見た目に反し中身は残念な悪役ポジのオパール王妃…『後宮の美しき薔薇』に出てくる、夫に見向きもされない粘着質な王妃…三年後に離縁され、最後は服毒自殺する王妃。
いやさ、離縁されるのは構わないけど、自殺はねー。そもそも誠意のない夫がどうなのよ。
設定は緩いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる