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4 総理会見
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ホームセンター「クラフトマン」の休憩室。
弔木はスマホ片手に、静かに興奮していた。
ダンジョンが出現するようになったこの世界で、政府が探索者を募集しようとしているのだ。
訳が分からないのと同時に心臓が高鳴る。
もしや、異世界での経験が生かされる時が来るのではないか?
そうなれば、このバイト生活に終止符が打たれるのではないか?
そんな希望を抱きながら、弔木は公共放送のライブ配信サイトを開いた。
記者会見はすでに始まっていて、総理がマイクに向かって喋っているところだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「えー、昨年から発生している、いわゆるダンジョン化現象について、わが国の基本方針と対策を説明します。
本邦におきましても半年前に、北海道の宗谷岬周辺でダンジョンの発生が確認されているところであります。
この度、有識者の意見を踏まえ、「宗谷ダンジョン」の一部を解放し、ダンジョン攻略と研究の人材を募集することとしました」
会場がどよめいた。
当然のように、記者が質問を投げかける。
「総理! それは一般人の中から、ダンジョン攻略の人材を募集する、ということですか? 海外ではダンジョン攻略に伴う事故や犠牲者が多数報告されています。先に自衛隊の特殊部隊などに偵察させるべきではないのですか?」
「……公表が遅れましたが、実は半年前から陸上自衛隊の先遣隊を派遣しているところであります。その結果、自衛隊の装備ではダンジョン攻略が難しいことが判明しました」
「それはなぜですか?」
「ダンジョン内の魔物は、目に見えない力、いわゆる魔力の壁によって守られています。すなわち、我が国を含めた先進国が保有する各種兵器は、ダンジョン内の魔物に効果はないのです。
しかしながら、全くダンジョン攻略ができないという訳ではありません。ダンジョンに入った隊員のうち〝魔力〟に目覚める者が現れました。
現在、陸上自衛隊において、魔力に目覚めた者を中心としてダンジョン攻略が進められているところで、あります」
会場がさらにどよめいた。
画面が白く光る。マスコミ各社が大量のフラッシュを焚いているのだ。
「海外では、いわゆる〝覚醒者〟と呼ばれる、魔力に目覚めた人間が魔法を使い、ダンジョンを攻略しているとの情報があります。
一部では、そうした情報は生成AIによるガセネタであるとの見解もあります。……総理! 今の発言は、政府として魔法、あるいは魔力の存在を公式に認めるということでよろしいですか?」
総理は、額に汗を滲ませながら、回答した。
「ご指摘のとおりです。魔力及び魔法は、存在します。
また、ダンジョン攻略は政府としても喫緊の課題となっております。
ダンジョンから採れるエネルギー資源、通称「魔石」の獲得、各種魔法アイテム、迷宮異形生命体通称「モンスター」の研究は、国の命運を左右するものと確信しているところです。
そこで政府では〝魔力〟保有者を選抜し、国直轄のダンジョン探索隊を編成することを、決定しました」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「来たっ……!!」
ホームセンター「クラフトマン」の休憩室で、弔木は小さく喝采をあげた。
弔木は、声を大にして言いたい。いや、叫びたいくらいだ。
総理、最適な人材がここにいますよ――と。
未来への光が見えた気がした。
だが次の瞬間、希望の光は黒く染まる。
「弔木! いつまで休憩してるんだ!」
臨時の上司となった、アルバイトの井桐だ。
「まだ休憩時間内だけど、何が問題なんだよ」
「大ありだろ! 休憩に入ったとしても、通常は五分前には持ち場についているものだろう!」
通常って何だよ。
これには弔木も反論せざるを得ない。
例え相手が超高学歴で内定持ちで輝かしい未来が約束されているスーパーエリート(本人談)でも、違うものは違うのだ。
そもそも弔木は店長から直々に「休憩時間はフルに使って構わないよ」と言われていた。
店長の三浦は、小言は多いがそのあたりは寛容なのだ。
「そんなルール聞いたことないが。それにここに入る時、店長からも――」
「黙れ! 今は俺がルールだ! この俺が店長から直々に頼まれているんだぞ! 反論するな!」
「分かったよ。従ってやるよ。今だけはな」
「何だその反抗的な態度は……まあ良い。何をどうあがいても、所詮お前はフリーターのままなのだからな」
年齢も大した差がなく、同じバイトをしている。しかもここは東京の外れにある、国道沿いのホームセンターだ。
言っては何だが、「エリート様」が来るようなところか? とさえ思う。
弔木としては井桐がどうしてそこまで人を見下せるのか、不思議でならない。
だが今の弔木にとっては、井桐の存在は心の底からどうでも良いものになっていた。
弔木の頭の中は、ダンジョンのことでいっぱいになっていた。
その夜から弔木は、寝食も忘れてダンジョン関連の情報を漁っていた。
弔木はスマホ片手に、静かに興奮していた。
ダンジョンが出現するようになったこの世界で、政府が探索者を募集しようとしているのだ。
訳が分からないのと同時に心臓が高鳴る。
もしや、異世界での経験が生かされる時が来るのではないか?
そうなれば、このバイト生活に終止符が打たれるのではないか?
そんな希望を抱きながら、弔木は公共放送のライブ配信サイトを開いた。
記者会見はすでに始まっていて、総理がマイクに向かって喋っているところだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「えー、昨年から発生している、いわゆるダンジョン化現象について、わが国の基本方針と対策を説明します。
本邦におきましても半年前に、北海道の宗谷岬周辺でダンジョンの発生が確認されているところであります。
この度、有識者の意見を踏まえ、「宗谷ダンジョン」の一部を解放し、ダンジョン攻略と研究の人材を募集することとしました」
会場がどよめいた。
当然のように、記者が質問を投げかける。
「総理! それは一般人の中から、ダンジョン攻略の人材を募集する、ということですか? 海外ではダンジョン攻略に伴う事故や犠牲者が多数報告されています。先に自衛隊の特殊部隊などに偵察させるべきではないのですか?」
「……公表が遅れましたが、実は半年前から陸上自衛隊の先遣隊を派遣しているところであります。その結果、自衛隊の装備ではダンジョン攻略が難しいことが判明しました」
「それはなぜですか?」
「ダンジョン内の魔物は、目に見えない力、いわゆる魔力の壁によって守られています。すなわち、我が国を含めた先進国が保有する各種兵器は、ダンジョン内の魔物に効果はないのです。
しかしながら、全くダンジョン攻略ができないという訳ではありません。ダンジョンに入った隊員のうち〝魔力〟に目覚める者が現れました。
現在、陸上自衛隊において、魔力に目覚めた者を中心としてダンジョン攻略が進められているところで、あります」
会場がさらにどよめいた。
画面が白く光る。マスコミ各社が大量のフラッシュを焚いているのだ。
「海外では、いわゆる〝覚醒者〟と呼ばれる、魔力に目覚めた人間が魔法を使い、ダンジョンを攻略しているとの情報があります。
一部では、そうした情報は生成AIによるガセネタであるとの見解もあります。……総理! 今の発言は、政府として魔法、あるいは魔力の存在を公式に認めるということでよろしいですか?」
総理は、額に汗を滲ませながら、回答した。
「ご指摘のとおりです。魔力及び魔法は、存在します。
また、ダンジョン攻略は政府としても喫緊の課題となっております。
ダンジョンから採れるエネルギー資源、通称「魔石」の獲得、各種魔法アイテム、迷宮異形生命体通称「モンスター」の研究は、国の命運を左右するものと確信しているところです。
そこで政府では〝魔力〟保有者を選抜し、国直轄のダンジョン探索隊を編成することを、決定しました」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「来たっ……!!」
ホームセンター「クラフトマン」の休憩室で、弔木は小さく喝采をあげた。
弔木は、声を大にして言いたい。いや、叫びたいくらいだ。
総理、最適な人材がここにいますよ――と。
未来への光が見えた気がした。
だが次の瞬間、希望の光は黒く染まる。
「弔木! いつまで休憩してるんだ!」
臨時の上司となった、アルバイトの井桐だ。
「まだ休憩時間内だけど、何が問題なんだよ」
「大ありだろ! 休憩に入ったとしても、通常は五分前には持ち場についているものだろう!」
通常って何だよ。
これには弔木も反論せざるを得ない。
例え相手が超高学歴で内定持ちで輝かしい未来が約束されているスーパーエリート(本人談)でも、違うものは違うのだ。
そもそも弔木は店長から直々に「休憩時間はフルに使って構わないよ」と言われていた。
店長の三浦は、小言は多いがそのあたりは寛容なのだ。
「そんなルール聞いたことないが。それにここに入る時、店長からも――」
「黙れ! 今は俺がルールだ! この俺が店長から直々に頼まれているんだぞ! 反論するな!」
「分かったよ。従ってやるよ。今だけはな」
「何だその反抗的な態度は……まあ良い。何をどうあがいても、所詮お前はフリーターのままなのだからな」
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だが今の弔木にとっては、井桐の存在は心の底からどうでも良いものになっていた。
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