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最終話『 想 』 - 04 /04
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恵夢や綺刀たちは、そうして祠の前で何か話している様子の二人を眺めながら、改めて安堵したように微かに笑んだ。
そしてその後、無事に花を供え、祈願を終えたらしい宮下は、禰琥壱と共に皆の元まで戻ってきた。
それから宮下は、そこで一度丁寧に頭を下げると、帰路を辿って行った。
恵夢は、他の皆と共にそれを見送りながら言った。
「顔色も良いし、今は無理してる感じでもないみたいだな」
「だな。安心した」
「そうだね。彼もちゃんと、前に進めているんだろうね」
恵夢と綺刀の言葉に、禰琥壱も安心したように言う。
すると、三人と同じように彼の後姿を見送っていた刻斉も、伸びをしながら言った。
「良い事良い事~――コッチの世界が好きなのは結構だけど、火遊び厳禁ってねぇ。お焚き上げも、慎重にやらないと」
そして京弥は、そんな刻斉のわかりにくい比喩に対し、素直な感想を述べた。
「うまい事言ってるけどわかりにくいね、刻斉」
更にその少し後ろで、梓颯は心配そうに言った。
「宮下、本当に大丈夫かな。来年は受験とかもあるけど」
すると、そんな彼を安心させるように彰悟が言う。
「大丈夫だろ。いざって時は俺らがいる」
「そっか、うん。そうだね」
梓颯はそんな言葉に頷き、彰悟を見上げるようにして笑んだ。
そうして、一同がそれぞれに言葉を交わしながら宮下を見届けた後、禰琥壱が思い出したように言った。
「あぁ、そういえば――宮下君、うちの大学を目指すらしいよ」
「えっ、マジで!?」
「うん。しかもうちの学部って言ってたよ」
禰琥壱が所属するのは民俗学を専攻する学科なのだが、確かに、宮下が興味をもつオカルト的な事物も、民俗学では研究対象となっている。
だからこそ、宮下が目指してもおかしくはないのだが――。
「こんな事があってもオカルト嫌いにならないなんて、本当にこの手の研究が好きなんだな」
「そうかもね。後は、今回の事を経て、より大切にしていきたいものになったんじゃないのかな」
「"こんな事があっても"、宮下にとっては大切な人と巡り合わせてくれたものでもあるって事ですかね」
「そうなんだと思う」
「ほ~んと、健気だねぇ」
「幸せになってくれるといいね」
京弥が改めて宮下の歩いていった方向を見据えそう言い添えたところで、再び少しの沈黙が流れ、ヒグラシの声が徐々にその場を満たしてゆく。
「あ! そういえば~、ネコさん、今年もアレやるの?」
「ん?」
思い出したようにそう言った刻斉に問われ、禰琥壱は首を傾げる。
「アレだよアレ! ネコさんの"夏纏"!」
「あぁ、そういえば今年は色々あってまだやってないねぇ」
「マジで! じゃあ、今日やろうよ~――俺も一回参加してみたかったんだよねぇ」
刻斉の言う”夏纏”というのは、とある時期から禰琥壱がそう名付けた怪談会の事だ。
内容としては大したものではないのだが、主には禰琥壱から披露される怪談話を聞く集まりといったところである。
夏によく行われる百物語のようなものだ。
ただその“夏纏”は、百物語のようにスリルがあるわけでも、ルールがあるわけでもない。
それはただ、禰琥壱の怪談を楽しむだけというシンプルな会だ。
「それにさ、今日って近くの神社の方でお祭りあるでしょ。そこで色々買って酒盛りしながらさぁ。――良くない? どう? ネコさん」
「あぁ、それはいいねぇ。――じゃあそうしようか」
「やったぁ~!」
禰琥壱や京弥と同じく、その中では最年長だというのに、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら刻斉は少年のようにはしゃぐ。
そんな刻斉と共に、なんだかんだ禰琥壱の怪談が好きな恵夢や綺刀も、彼に続いて歩き出す。
そして、京弥もまたその後に続く中、禰琥壱は梓颯と彰悟に向き直る。
「君たちはどうする? もし帰るようなら送っていくよ?」
「あ、え、えと……お邪魔じゃなければ、ぼ、僕もご一緒したいです」
「おや、それは嬉しいな。もちろん構わないよ。――彰悟君はどうする?」
「えと、梓颯の足がめちゃくちゃ震えてるんで、俺も行きます」
「彰悟!」
「ふふ、分かった。じゃあ行こうか」
顔を赤くした梓颯にばしりと叩かれても、涼しい顔をしている彰悟は、はい、と返事をした。
そんな様子を微笑ましく見守りながら、二人と禰琥壱は前を歩く恵夢たちの後に続いて歩き始めた。
「ねぇねぇネコさん、今回はどんな話してくれんの?」
後ろからついてきた禰琥壱に振り返り、刻斉は言った。
「う~ん、そうだな。じゃあ今回は、神隠しに纏わる話でもしようか」
禰琥壱はそう言って真っ赤に焼けた空を見上げる。
時刻は逢魔時。
その日のその刻もまた、ヒグラシたちの声が心地よく時を満たしていた。
そんな声で音を消し、ひっそりと隙間で開かれるは――。
そしてその後、無事に花を供え、祈願を終えたらしい宮下は、禰琥壱と共に皆の元まで戻ってきた。
それから宮下は、そこで一度丁寧に頭を下げると、帰路を辿って行った。
恵夢は、他の皆と共にそれを見送りながら言った。
「顔色も良いし、今は無理してる感じでもないみたいだな」
「だな。安心した」
「そうだね。彼もちゃんと、前に進めているんだろうね」
恵夢と綺刀の言葉に、禰琥壱も安心したように言う。
すると、三人と同じように彼の後姿を見送っていた刻斉も、伸びをしながら言った。
「良い事良い事~――コッチの世界が好きなのは結構だけど、火遊び厳禁ってねぇ。お焚き上げも、慎重にやらないと」
そして京弥は、そんな刻斉のわかりにくい比喩に対し、素直な感想を述べた。
「うまい事言ってるけどわかりにくいね、刻斉」
更にその少し後ろで、梓颯は心配そうに言った。
「宮下、本当に大丈夫かな。来年は受験とかもあるけど」
すると、そんな彼を安心させるように彰悟が言う。
「大丈夫だろ。いざって時は俺らがいる」
「そっか、うん。そうだね」
梓颯はそんな言葉に頷き、彰悟を見上げるようにして笑んだ。
そうして、一同がそれぞれに言葉を交わしながら宮下を見届けた後、禰琥壱が思い出したように言った。
「あぁ、そういえば――宮下君、うちの大学を目指すらしいよ」
「えっ、マジで!?」
「うん。しかもうちの学部って言ってたよ」
禰琥壱が所属するのは民俗学を専攻する学科なのだが、確かに、宮下が興味をもつオカルト的な事物も、民俗学では研究対象となっている。
だからこそ、宮下が目指してもおかしくはないのだが――。
「こんな事があってもオカルト嫌いにならないなんて、本当にこの手の研究が好きなんだな」
「そうかもね。後は、今回の事を経て、より大切にしていきたいものになったんじゃないのかな」
「"こんな事があっても"、宮下にとっては大切な人と巡り合わせてくれたものでもあるって事ですかね」
「そうなんだと思う」
「ほ~んと、健気だねぇ」
「幸せになってくれるといいね」
京弥が改めて宮下の歩いていった方向を見据えそう言い添えたところで、再び少しの沈黙が流れ、ヒグラシの声が徐々にその場を満たしてゆく。
「あ! そういえば~、ネコさん、今年もアレやるの?」
「ん?」
思い出したようにそう言った刻斉に問われ、禰琥壱は首を傾げる。
「アレだよアレ! ネコさんの"夏纏"!」
「あぁ、そういえば今年は色々あってまだやってないねぇ」
「マジで! じゃあ、今日やろうよ~――俺も一回参加してみたかったんだよねぇ」
刻斉の言う”夏纏”というのは、とある時期から禰琥壱がそう名付けた怪談会の事だ。
内容としては大したものではないのだが、主には禰琥壱から披露される怪談話を聞く集まりといったところである。
夏によく行われる百物語のようなものだ。
ただその“夏纏”は、百物語のようにスリルがあるわけでも、ルールがあるわけでもない。
それはただ、禰琥壱の怪談を楽しむだけというシンプルな会だ。
「それにさ、今日って近くの神社の方でお祭りあるでしょ。そこで色々買って酒盛りしながらさぁ。――良くない? どう? ネコさん」
「あぁ、それはいいねぇ。――じゃあそうしようか」
「やったぁ~!」
禰琥壱や京弥と同じく、その中では最年長だというのに、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら刻斉は少年のようにはしゃぐ。
そんな刻斉と共に、なんだかんだ禰琥壱の怪談が好きな恵夢や綺刀も、彼に続いて歩き出す。
そして、京弥もまたその後に続く中、禰琥壱は梓颯と彰悟に向き直る。
「君たちはどうする? もし帰るようなら送っていくよ?」
「あ、え、えと……お邪魔じゃなければ、ぼ、僕もご一緒したいです」
「おや、それは嬉しいな。もちろん構わないよ。――彰悟君はどうする?」
「えと、梓颯の足がめちゃくちゃ震えてるんで、俺も行きます」
「彰悟!」
「ふふ、分かった。じゃあ行こうか」
顔を赤くした梓颯にばしりと叩かれても、涼しい顔をしている彰悟は、はい、と返事をした。
そんな様子を微笑ましく見守りながら、二人と禰琥壱は前を歩く恵夢たちの後に続いて歩き始めた。
「ねぇねぇネコさん、今回はどんな話してくれんの?」
後ろからついてきた禰琥壱に振り返り、刻斉は言った。
「う~ん、そうだな。じゃあ今回は、神隠しに纏わる話でもしようか」
禰琥壱はそう言って真っ赤に焼けた空を見上げる。
時刻は逢魔時。
その日のその刻もまた、ヒグラシたちの声が心地よく時を満たしていた。
そんな声で音を消し、ひっそりと隙間で開かれるは――。
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