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第五話『 解 』 - 04 /05

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 例えばだが、このような文面の場合、雰囲気を出すなら――このメッセージを"回さなければ"エンマ様の罰が下り――とした方が、それらしい統一感が出せる。
 こういった事から、このメッセージもまた、そこまで凝って作られたものではないと判断したのだ。
 だがそこまで考えられても、三人には宮下がなぜこのような事をしたのかまでは理解できなかった。
「――それなんですが、俺らもまだそこは答えが見つかってないんです。先生の言う通り、宮下の回りには聞き手がいたし、宮下と違ってそいつらはネットの制限などはされてなかった。――だから、エンマ様の話を広めたいだけなら、そいつらにSNSでその話題を投稿させればいい。それに、そんなに話題になってるなら、他校の友達とかにも話したりするはずです。――だから、宮下が一回でもクラスメイトに話せばその話題は幾分かは広がるはずなんです。――一応、こんな季節ですし」
「うん、そうだね」
「それに、宮下もわざわざサイトなんか作る手間をかけないでも、そのパソコンルームに忍び込んだ時点でSNSに簡単に投稿して拡散を促せばそれで済んだはず。例えその投稿が拡散される割合が少なくとも、アドレスを知らなければアクセスもされないようなサイトを作るよりは効率は良かったはずです。――なもんで、サイトを作った理由はわかりませんが、宮下がやりたかった事はわかりました」
「なんだい?」
「はい、これもまた烏丸から聞いた話にあったんですが――」
 烏丸によると、宮下はずいぶんと烏丸の事を慕っていたらしく、ある時期からはすっかり懐いて、烏丸の授業の成績だけは何があっても落とさなくなるほどだったという。
 烏丸曰く、宮下は依存しやすい性格だが、奉仕的で努力家といった生徒で、好きなものに没頭しやすい分視野は狭いが、一切、不良というわけではなかったのだそうだ。
 そんな中、宮下が烏丸に懐き始めた理由は、彼の研究、つまりはオカルトの話題について、烏丸が馬鹿にしなかったからなのだそうだ。
 これは、宮下が烏丸自身にそう言ったのだそうで、嘘でも憶測でもない事実だ。
 一応の事、烏丸がそう言った非現実的な怪奇現象や心霊的存在について否定しなかったのは、この恵夢や綺刀あやとと親しかったせいで、そういった現象を嫌というほど体験したというのが理由の一つだ。
 当時の烏丸は、それについて毎日のように文句を言っていたが、今回はそれが功を奏したようだった。
 とはいえ、烏丸も無闇にそういった存在を肯定するのはよくないと判じ、宮下の話を聞く中で決して否定はしなかったが、そんな事もあるんだなぁと中立的な立場を貫きながら彼の話を聞いていたらしい。
 そうしている内に徐々に心を開いていった宮下は、自分の理解者であると感じた烏丸に、様々な胸の内を語るようになったのだそうだ。
「――で、その中で宮下は――"自分の研究における話を信じない、馬鹿にしてくる奴らを見返してやりたい――と何度も言っていたそうです」
「なるほど。――つまりその目的を果たす為、――きっかけ何かわからないけど――今回の事を実行した、って事かな」
「多分ですけど、そんな気がしてます」
「ま、なんつぅか……、オカルト好き研究好きにはよくある話だなとは思うけどな」
「まぁな」
「確かに、ありがちだね」
 恵夢と禰琥壱のやりとりを静かに訊いていた綺刀は、話の区切りで呆れながらそう感想を漏らした。
 それに対し同意するような一言を添え、禰琥壱と恵夢も溜め息を吐く。
 また、烏丸は宮下から様々な話を聞く中で、様々な時代における怪異や都市伝説に関する話を知った。
 そしてそんな宮下の知識量を目の当たりにした烏丸は、彼の研究意欲が生半可なものではないと感じ、その部分は素直に褒めていたのだそうだ。
 そんな烏丸はとある日、たまたま彼が学校に持って来ていたらしい学術書の一部を見せて貰った。
 だが文学科目はめっきりであった烏丸は、その学術書の目次を見ただけでも頭痛がしたそうだ。
 また、烏丸の話から、宮下はただ研究熱心なだけでなく、それを発表という形に仕上げたいタイプだったという事もわかった。
 大学生や教授などともなれば、そういったものは研究の成果として学会で発表するなりするのだが、まだそのような環境になかった彼の発表の場は、クラスやネット上が主だった。
 それゆえに、彼が中学生の頃などは、そんな彼の高度な知識に称賛の声をあげる同級生たちも多かったらしい。
 そしてそんな彼は、毎日のように同級生たちに怪談や都市伝説を披露していたのだそうだ。
 だが高校に入ると、彼を取り巻く環境は大きく変化していった。
 入学当初こそ、皆宮下の話を楽しそうに聞いていたのだが、少しずつ大人になっていくクラスメイトたちは、徐々にその発表内容を馬鹿にするようになっていった。
 幼い子供たちが成長と共にサンタクロースの存在を信じなくなってゆくように、怪異たちの存在もまた、徐々に少年たちに否定され、嘘偽りのない霊媒師なども、"インチキ"という言葉と隣り合わせの存在になってゆく。
 だが、宮下はそういった逆境にさらされて落ち込むタイプではなく、むしろ闘争心を燃やしてしまうタイプだった。
 それゆえに彼はめげずに研究を続け、クラスやネット上など様々な場を利用し、自身の研究に関する発表を行い続けた。
 一部の生徒からはその異常な執念に対し中傷的な言葉を受けていたようで、それに宮下が反論したことから口論になり、クラス内で殴り合いの喧嘩が起こった事もあったらしい。
 結果として、このような事からわかったのは、宮下は決して、最近になって突然そのような執念を抱くようになったわけではなく、昨年からずっとそうであったという事だ。
「じゃあ、何かに憑りつかれているという可能性もまた、なくなったわけだね」
「はい」
「梓颯も、二年間、宮下とクラス被ってるらしいけど、周りの奴が宮下に対しての態度を変えた事はあっても、宮下はずっと変わらずだったって言ってた」
「そうなんだね。――なら、呪力をもっているのは彼自身ではなく――」
 そう言った禰琥壱に、恵夢と綺刀は同時に頷き、恵夢が言葉を引き継ぐ。
「――呪物です。――宮下は、何か強力な呪物を持ってるんだと思います」
「うん。そしてそれが、彼の言の葉に力を与え、彼の紡いだ言葉を信じない者には不幸が起こるよう、発言と同時に呪いをかけている、と」
「憶測ではありますけど、俺らはそうだと思ってます」
「ふむ。――とすると、今回の宮下君の失踪は、その呪物に宿った何者かに体を取られたか、あるいは何かしらの理由で呪物を廃棄しようとして反撃を食らったか、といったところかな」
「宮下の失踪理由が犯罪や家出ではなく、呪物が原因なら、やっぱそこらへんですかね」
 これまでの考察を呑み込むようにして頷いた禰琥壱は、新しい煙草に火を点ける。
 するとそこで、綺刀が一つ思い出したように言った。
「あ、そうだ。それとな、なんであの時期に突然あのエンマ様が話題になったのかってのも、なんとなくわかったんだ」
「おや、そうなのかい」
「うん。俺としては、単純にこういう夏場はホラーの時季だからっていう、安直な考えからかと思ったんだけど、――あのサイトに載ってた廃墟さ、今年の6月くらいに"気の早い心霊番組"って銘打ってやってる番組で取り上げられてたんだよ」
「あぁ、そういう」
「ん。――だから宮下は、意外とそれで話題になる事を予測してあの廃墟をもってきたのかなってさ。――でもま、あの廃墟は霊がめっちゃ集まるっていう曰くがあるだけで、エンマ様の話題は一切出てこないんだけどな」
「おや、出てこないんだね」
「うん。――だから多分、閻魔なら認知度も高いから、それをモチーフにすればわかりやすいし、"罰があたる"とかいっとけば強力な神様っぽいってんで、エンマって名前と、それっぽい設定つけて、怪談話にしたんだろうなと思う」
「――かもな。エンマ様なんて怪談聞いた事もねぇし」
 これまで以上に胡散臭そうな顔で煙を吐いた恵夢に、禰琥壱も綺刀も同意するように少し笑う。
「――あ、これだ、ホラ。放送時期も丁度、宮下がそのエンマ様の話出し始めた時期と被ってるから、狙ってやったってのは可能性高いと思う」
 綺刀は先ほど取り出したノートパソコンを操作しながら話をしていたのだが、どうやらお目当てのものが出たらしく、禰琥壱と恵夢にその画面を向ける。
 画面には世間でも有名な動画投稿サイトに投稿されたとある動画が表示されていた。
 その動画は、どうやら綺刀が話していた心霊番組が、公式のアーカイブとして投稿したもののようだった。
 そこで三人は、これが何かヒントになるかもしれないと、普段ならまず見ないような心霊番組というものを久方ぶりに鑑賞する事になった。
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