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第一話『 観 』 - 01 /06
しおりを挟む人は、機能している肉体の中に霊魂をもつ者を"生者"と称し、霊魂が抜け、肉体が機能しなくなった者を"死者”と称する事で、それぞれを区別している。
霊魂を体に宿しているとされる生き物たちは皆、死者となった時点でその生者の仲間から外される。
そして、生者であった者が死者となった後、どうなるのかといえば、多くの場合は生者たちの想像に任されるのみである。
だが、そんな生者たちの中には、死者となった彼らのその後を知ることが出来る者たちがいる。
そのように、死者たちを認知できる者たちを、現代社会では"霊能者"などと称したりする。
この世には、そんな、霊能者が生まれやすい一族が少なからず存在している。
そして、その年に高校二年生となった少年、香我美梓颯もまた、そんな霊能者の家系に生まれたうちの一人だ。
更に、そんな梓颯の同級生である、豪阪彰悟もまた、同じく霊能者の家系の生まれた一人であった。
そんな二人が高校一年次の春に出会い、様々な経験を共にしたのが昨年のことだ。
梓颯はその一年間で、いわゆる“普通の高校生がしないような経験”をいくつもした。
その経験の中では、梓颯が自分の無力さを痛感するような経験も多かった。
そしてそのような経験を経た梓颯は、自分も彰悟のように強い力をもつ霊能者になりたいと思うようになったのだった。
ただ、梓颯の思う力とは物理的な破壊力の事ではない。彼が欲したのは霊能者として必要な知識や精神力というようなものだ。
梓颯は、それらを十分に得ることで、この家系に生まれた者として恥じぬような人間になりたいと思うようになったのだった。
そして梓颯は先日、そんな気持ちを彰悟に打ち明けた。
すると彰悟は、梓颯を連れてとある人物の元へと向かった。彰悟曰く、その人物がそんな梓颯の助けになってくれるだろうから、との事だった。
そうして彰悟に連れられて訪れた喫茶店で梓颯が出会ったのは、穏やかな表情をした大学生だった。
梓颯は、そんな彼を見るなり――優しそうな人だ――と思ったのだが、彰悟の話に寄れば、彼は随分と変わっているらしい。
そんな彼はその日、梓颯が――霊能者として必要な知識を得たいと思っている――という話を聞くと、快く教授役を引き受けてくれた。
梓颯はそれに喜び、頭を下げながら彼に礼を言うと、それを受けた彼はにこりと笑み、次いでこんな提案をした。
「そうだ、梓颯君。実は今度、挨拶がてら、ある廃墟に行こうかなと思っているんだけど、よかったら一緒に来るかい? そこは、色んな子たちが居る所だから、具体例を示すのにもちょうどいいかなと思うんだけど」
梓颯は、そんな彼の提案を受け、少し驚きつつもすぐに――お願いします――と頭を下げた。
まさか、座学の前に"実習"になるとは思ってもおらず、それで梓颯は少し驚いたのだった。
だが、廃墟といえば、確かに見えざる者たちが棲みつきやすい場所だ。
彼の云う“挨拶”というのがどういうものか、梓颯には見当がつかなかったが、学びの場がそこにあるならば逃すわけにはいかなかった。
だから梓颯は、迷わずその提案を受ける事にしたのだった。
そしてその後、学校での期末試験を終えた週の土曜日。
梓颯と彰悟は、例の大学生の愛車に乗り、とある廃墟へと向かったのであった。
それが、2018年7月7日の、七夕のことである。
― 言ノ葉ノ綿-想人の聲❖第一話『観』 ―
人間は、自らのように、肉体に霊魂を宿した者を生者とし、そうでないものを死者とした。
だが、この世には、そのどちらの分類にも当てはまらない者たちが存在する。
それが、神、仏、仙人、あるいは妖怪、物の怪などとされる者たちだ。
生者が彼らをどう扱いどう思うかについては、団体や個人単位などで様々ある。
また、彼らの存在を信じるか信じないかも人それぞれだ。
だが、霊能者と称される者たちにとって、彼らはあまりにも身近な存在である場合が多い。それゆえに霊能者は、彼らの存在を信じないわけにはいかない事がほとんどだ。
もし、その存在を信じたくないという霊能者がいたとしても、その目で見てしまえば存在を認める以外に選択肢はない。
ただ、そんな霊能者の中でも、その能力には個人差がある。
また、その個人差によってどのような違いが出てくるのかというと、まず見る事のできる存在の幅が違う。
例えば、ある程度の力を有した霊能者であれば、元生者である死者の存在を感じ取り、五感で知覚する事が可能だ。
だが、死者以外の見えざる者とされる神仙や妖怪などまで知覚できるかは、霊能者の力次第で変わってくる。
それがまず、能力の個人差によって発生する違いだ。
このように、一概に霊能者といってもそれぞれの能力に個人差があったりする。
そして、そんな霊能者という部類に属する梓颯や彰悟はというと、彼らは"すべての見えざる者を知覚できる霊能者"に属する。
なぜそのような能力をもつのかといえば、それは彼らの血筋が由来している。
彼らはそれぞれ"退魔師"や"憑物憑き"といわれる一族の血を引いており、それゆえに死者以外の見えざる者も知覚できるのだ。
例えば、梓颯が属する香我美一族は退魔の家系で、その呼称の通り、見えざる者たちと対峙する力をもつ一族である。
そして彰悟が属する豪阪一族は、憑物憑きの中でも犬神憑きの家系となっている。こちらはその呼称通り、その一族のほとんどの者が生まれながらにして犬神をその体に宿している。またもちろんのこと、退魔と同じく見えざる者と対峙する力も有している。
このように、退魔と憑物憑きの血筋ではやや細かな部分が異なるものの、これらの一族に属する者は見えざる者と対峙する力を有しているのである。
それゆえに、梓颯と彰悟は、すべての見えざる者を見、彼らと対峙する事が出来るのであった。
また、そんな一族に属する霊能者は、その血筋ゆえ、見えざる者たちとの関わりが非常に多い。
だだ、だからといって、すべての見えざる者を祓い散らす事を生業としているわけではない。むしろ、祓わない者たちの方が多いくらいだ。
実のところ、霊能者たちの中には、見えざる者たちと協力関係にある者も多いのだ。更には、彼らと友人や恋人といったような、親密な関係を築く者たちも少なくはない。
つまり、見えざる者たちは彼ら霊能者にとって、それほどまでに身近な存在であったりもするのだ。
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