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金払え!!

金払え!!

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 果たして私のやっている事は正しいのだろうか?
 最初、この仕事を始めた時、私は人々に幸せを運ぶ仕事につけたと喜んだ。
 ところが実際にはどうだ。
 行く先々で私は疎ましい目で見られ、時には暴言を浴びせられる。
 暴力をふるわれた事だって一度や二度じゃない。
 私は世の中の人に役立つ事をしているのに、なぜこんな目に遭うのだろう?
 悩んでいる場合じゃない。
 次の仕事だ。
 私は一軒の家の前に立った。
 リストによるとこの家の家主、結田けちださんは一人暮らし。
 そして国民年金を二年も滞納している。
 それを納めてもらうのが私の仕事だ。
 ブザーを鳴らすと結田さんは出てきた。
 用件を告げると。
「断る! 帰れ!」
 またこれだ。
 わかっているのだろうか?
 若いうちは働けるからいい。
 歳をとったら、年金なしに暮らしていけなくなると言うのに。
「年金財政なんてもうすぐ破綻する。払うだけ無駄だ」 
 そんな事あるはずないというのに。年金はいざとなったら税金で補填される。もっとも杜撰な管理をしていたせいで、信用をなくしたのは我々の責任ではあるが……
「だったら最初から年金と税金を分けたりしないで、すべて税金として徴収すればいいだろ。なぜそうしない? どうせ税金という名目にすると国民に反対されるから「年金」という聞こえのいい名前を使っているだけだろう」
 この人はなにを勘違いしているのだ?
「年金だろうが税金だろうが、盗られることには変わらないんだよ」
 盗られる? なぜそういう風に考えるのか? 日本に住めて、安全で快適な暮らしができるのが無料だとでも……
警察に守られた治安、整備された道路、急病や怪我の時に時駆けつけてくれる救急車、これらは税金で支えられているのに。
「確かに税金は役に立っているな。だが、年金がなんの役に立つ」
 老後生活の安定のために……
「だからそれがよけいなお世話なんだよ。歳とってから、誰かの施しで生きながらえる気はない。俺は金がなくなったら、この家で孤独死するという綿密な計画を立ててるんだ」
 綿密なんですか?
「綿密だ」
 まあ、本人がそれで良いというなら……
「だいたい失業中で収入のない俺から、金を取り立てるなんてお前ら鬼かよ」
 え? 失業中? 
「大の男が昼間から家にいるんだぞ。失業中なのは見ればわかるだろ」
 たまたま休みかと思っていました。
「三年前に会社を解雇された。この先再就職なんてとうてい無理だ。だったら、今ある貯金を使い切って餓死するしかない」
 いや、日本で餓死はありませんよ。生活保護あるし……
「はあ? 生活保護だあ? この前も、生活保護が受けられないで、母子が餓死した事件があったばかりじゃないか。そんなもの、当てになるか!!」
 そういえば、そんな事件があったっけ。
 でも、キチンと申請して受理されれば……
「受理されなかったらどうしてくれる?」
 それは……
「生活保護も年金もいらん。俺は今ある貯金が続くだけ生きていくつもりだ。だというのに、そのなけなしの貯金まで取り立てようと言うのか? だいたい六十まで生きただけでも幸運だというのに、運の悪い俺がなんで年寄りの面倒見なきゃならん。こっちが援助してほしいぐらいだ」
 収入がないなら、なぜ免除申請しないのですか?
「免除? そんなことできるのか? 今までに何度も取り立てに来た奴がいたが、そんなこと一言も言わなかったぞ」
 なんて事だ。今までの担当者は肝心な事を説明しないで年金を納めさせようとしたのか。
 免除の事を黙っていれば、この人のなけなしの貯金から取り立てられるとでも考えたのだろうか? そういういい加減な仕事をするから、年金制度への信頼が失墜するのだ。
 私は、結田さんに免除を受けるための書類を出し記入の仕方を教えた。
「結田さんのお宅はこちらですか?」 
 突然、背後から声をかけられたのは、判子を取りに家に入っていった結田さんが、戻ってくるのを待っていた時のこと。
「税務署の者です。結田さんに所得税の申告漏れがありまして」 
 所得税? だって失業中…… 
「ええ。でも、去年FXで五億円の利益がありますね」 
 五億……!? 
「あの……結田さん」 
 どうやら、税務署の役人は私を結田さんと思っているようだ。
 ちょうどその時、結田さんは判子を持って戻ってきた。 
「この判子でいいかい?」 
 私は彼を睨みつけ、無言で書類をビリビリに破り投げつけた。
「ふざけんな!! 金払え!!」 
            
              了
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