29 / 60
脱走! 脱走! 大脱走!!
*ネフェリット*〈ショコラ〉2
しおりを挟む
バカ! バカ! バカ! ミルのバカ!
いいわよ! あたしに隠し事するなら、こっちで探り出してやるわ。
あたしは個室に入るなり、ドアをロックした。
気密ボックスを床に置き、ベッドに俯せになる。
考え事をする時いつもそうする。
ミルはいったい何を企んでるのか? ううん。さっぱり、分かんない。
分からないまま、時間だけが過ぎる。
だいたい、こんな彗星にミルはなんの用があるんだろう?
こっそり人と待ち合わせるのに、いい場所かもしれないけど、それなら他にいくらでもある。
こんな彗星に用があるのは、彗星の氷を切り出しに来るコメット・ハンターぐらいだし。いや、コメット・ハンターだって小惑星帯の内側に入った彗星では仕事をしないものだ。彼らにとって一番有望なのは、火星の近くを通る奴。うまい具合に彗星の軌道を変えて、火星の周回軌道に乗せれば、火星諸国が、彗星をまるごと買い取ってくれる。
あいにく、この彗星は火星の側は通らない。
金星の側は通るらしいが……
ん? 金星? あああ! まさか!?
あたしはガバッ! と跳ね起き、ディスクに向かった。
パソコンの電源を入れる。
顔に眼鏡型ディスプレーのフェイス・マウンテッド・ディスプレーを装着し、両手にデータグローブを着けた。
この彗星のデータを呼び出す。
やっぱし!
この彗星、最初の軌道より少しずれてる。
爆薬かなにかで、軌道が変えられたんだ。
金星をかすめる軌道に……偶然だろうか?
いや、こんな偶然あるはずがない。でも、何のためにこんな事を……それに、軌道を変えたのはミルじゃない。軌道が変わった時期は、あたし達がまだ第二太陽系にいた頃だ。
「ショコラ。入って良いか?」
インターホンからミルの声が聞こえたのは、その時だった。
「だめ!」
「全部、話す」
「本当に?」
「ほんまや」
あたしはドアロックを解除し、ミルを部屋に入れた。
「なあ、ショコラ。うちがこれから言う事聞くからには、それなりの覚悟してもらうで。うちらが、これからやるのは……」
「脱獄幇助でしょ」ミルは絶句した。「その様子じゃ図星ね」
「何で……分かった?」
「この彗星は金星の側を通るわ。でも、そうなるように誰かが細工した」
「そうや」ミルはあっさりと認めた。もう少し、とぼけるかと思ったけど……「まあ、そうでもせんと、金星に近付けんからな」
そりゃそうでしょう。
金星は惑星まるごと監獄になっている。当然、警戒も厳しい。
無許可で近付く船には、無数のキラー衛星が待ち構えている。
地表に降りる手段は唯一つ。軌道上の要塞衛星〈太白〉と、マックスウエル山の宙港を結ぶスペースシャトル。ただし、地球や火星やタイタンで使うようなシャトルでは駄目だ。
硫酸雲を抜ける前に圧壊してしまう。
潜水艦並の耐圧殻に耐蝕コーティングを施した特製のシャトルでなければ、金星には降りられない。
「ミル。こんな事やめて! あたしとの約束を破る気?」
「約束?」
「忘れたの!?」
「忘れてへんで」
「それじゃあ……」……はっ! 確かに、ミルは約束を破ってはいない。ミルは泥棒はやらないと言った。だけど、脱獄幇助はやらないと言っていない。
言ってはいないけど、ふつうやるかよ!
「今回は名乗りを上げへんから、怪盗ミルフィーユはやってへんし、ショコラとの約束通り、盗みはやらんから問題ないやろ」
「大ありよ!! 泥棒の方がまだましだわ」
「じゃあ、これを止めたら、泥棒は再開していいんやな」
「どっちも駄目!!」
「わがままな、やっちゃなあ」
「どっちが、わがままよ!? とにかく、なんのつもりか知らないけど、脱獄幇助なんて、やったら、只じゃ済まないわ」
「只じゃ済まないのは承知の上や」
「ミル!」
「でも、これはやめられん」
「なぜなの!?」
「実はな……」
不意にミルは深刻な顔になった。
「な……なんなの?」
どうしたんだろう?
ミルはそのまま悲壮な顔で黙り込んでしまった。
そうか。いくらミルが非常識でも、脱走幇助なんて、よほどの理由がなければやらないはず。
そりゃあ、ミルは酒乱だし、がさつだし、泥棒もやるけど、けっして根っからの悪人ではない。
きっと、これには、なにか深い事情があるんだ。
「一月前の事や。うちらは太陽系に入って真っ先に地球に行った。モンブランに留守を頼んで、うちとタルトだけで教授の家に行こうとしたんや」
「あたしが冷凍睡眠している間ね」
「そや。ところが船を出た途端に、待ち構えていた賞金稼ぎが、タルトを逮捕して行ったんや」
「なんだってえ!? ……だから……だから、あたしは泥棒なんて嫌だったのよ! いつかはこんな事になると……」
「落ち着き、ショコラ。別に怪盗ミルフィーユの事がばれた分けやない」
「じゃあ、なんでタルトが、逮捕されるのよ!? なんで?」
「すべて教授が仕組んだことなんや」
「教授が!?」
「タルトが逮捕されたのは冤罪や。別の指名手配犯のデータと、タ
ルトの個人データが入れ替えられたんや。教授の手によってな」
「でも、なんで自分の息子にそんなひどい事するの?」
「ショコラには話してなかったけど、あのカードの中に、プロテクトの掛けられたメッセージが入っていてな、そこに『オフィーリアの船』の調査結果が入っとったんや」
「何が、書いてあったの?」
「『オフィーリアの船』を盗み出したのは、CFCに雇われた宇宙海賊だと言う事まではこの前話したな。海賊が発掘隊の人達を皆殺しにした後、CFCの技術者がやって来て、ワープ機関だけを外して持って行ったんや。ところが、ワープ機関を積んだCFCの船は、木星付近で事故に遭い消息を断った。ただ、その船の船員が一人生き残っておる事を、教授は突きとめたんや。船員本人はもうお亡くなりになっとったが、死ぬ前に船の在処を一人の男に話しとる。それが現在金星刑務所に服役中のゴーダはんや。さっそく、先生は差し入れをぎょうさん持って金星に行ったんや。そして、ゴーダに尋ねたんや。だがゴーダは情報の見返りに、出所できるよう要求して来た」
「そんなの無理よ」
「でもな、先生は諦めんと地球連邦の偉いさんに掛け合って、なんとか仮出所させようとしたんや。その偉いさんが誰かは知らんが、いろいろ手を尽くしてくれたらしい。しかし、やっぱり仮出所なんて前例は作れんのや。しかたないので、警察には黙認させるから、脱獄させろと言われたそうや。まあ、司法取引みたいなもんやな」
「そんな、無茶な司法取引があるか!」
「うちに言うたってしゃあない。やったのは教授と偉いさんや。その偉いさんも、条件付きで認めたんや」
「条件て?」
「金星の刑務所では、囚人を使ってレア・メタルの採掘をやっとる。だけど、刑務所の誰かが、レア・メタルを横流ししとるらしいんや。その調査に協力するのが条件や。それで、交渉成立して、教授はいろいろと準備をしたんや。まずは金星仕様のシャトルを手に入れ、それから人を雇って、適当な彗星の軌道を変えて、金星をかすめるようにした。それが、今うちらのいる彗星や。後は、教授が刑務所へ行ってゴーダと繋ぎを取るついでに、横流しの犯人を探すだけやったが、その矢先に先生は病気になってしもて、お亡くなりになった」
「それで、代わりにタルトを、行かせようと仕組んだのね」
「そうや」
「あんまりだわ! それじゃあ、タルトがかわいそうよ。刑務所なんかに入れられたら、どんな目に会うか……」
「だから、うちもゴーダのおっちゃんには別の手で繋ぎを取る事にして、タルトの冤罪は先に晴らしてやるつもりやった。ところが、手を打つ前に、先走った賞金稼ぎにタルトが捕まってもうたんや」
「そんなあ、助けられなかったの!?」
「不覚やった。とにかく、これで分かったやろ。この計画、やめたらタルトを見殺しにする事になる」
あたし、ミルを誤解していたわ。ミルが脱走幇助なんて大それた事するのは、タルトを助けるためなのね。
そうよ、金が欲しいとか、面白いとか、浮ついた理由でミルがそんな事するはずないわ。でも……
「ミル、事情は分かったけど、やめて。危険すぎるわ。タルトだって冤罪で捕まったんだから、正規の手段でも助けられるはずよ」
「ええんかい。そんな、まどろっこしい事してて。刑務所って言ったら同性愛者の巣窟やで。そない所にタルトを長いこと置いといて、変や趣味でもうつったりしたら……」
「う……それは、イヤ。そういう漫画は好きだけど、身近な男の子にそういう趣味を持って欲しくない」
「そやろ。それに」ミルは少し勿体を付けた。「こんな面白い事、今更やめられるかい! それに、このお宝を手に入れれば、お金が一杯儲かるんやあぁぁ!!」
あたしは床に突っ伏した!
前言撤回。
そうだった。こういう、女だったんだ。
「ミルゥゥゥ!」
「なんや?」
「念ため聞くけど、タルトを助けるためじゃないの!?」
「それもある。お金が儲かって、ついでにタルトも助けられる。まさに一挙両得」
ついでにって……あんた!! 一瞬でも、こいつを尊敬したあたしが馬鹿だったわ。
「とにかく、やめて! お金と命と、どっちが大切なのよお!」
「どっちも」
「どっちか選んで! お願いだから」
「究極の選択ってやつやなあ」
「なぜ、命ってすぐに言えないの」
「まあ、心配せんでもええ。うちかて命は惜しい。いざとなったら、降伏する」
「やっぱり、やめようとか思わないわけ」
「思わん」
「降伏したって、逮捕されるわよ!」
「大丈夫。ショコラだけは逮捕されん」
「どうしてよ?」
「最初は、ショコラを地球に残していくつもりやったけど、冷凍睡眠装置の故障でできんかった。だから、このまま眠らしておいて罪を免れさせよ思た。だが、よりによって今のこの時期に、なぜか装置が直ってショコラが目覚めてしもうた。こうなった以上は……」 ミルは突然あたしに襲いかかってきた。
「なにすんのよう!?」
抗議する間もなく、ロープでグルグルに縛られる。
「ショコラは、うちへの協力を拒んだという設定や。万が一降伏した場合は、警官にそう言っとく」
「解いてよ!」
「我慢し。縛られとった方が説得力あるやろ。ほな、行ってくるでえ」
いいわよ! あたしに隠し事するなら、こっちで探り出してやるわ。
あたしは個室に入るなり、ドアをロックした。
気密ボックスを床に置き、ベッドに俯せになる。
考え事をする時いつもそうする。
ミルはいったい何を企んでるのか? ううん。さっぱり、分かんない。
分からないまま、時間だけが過ぎる。
だいたい、こんな彗星にミルはなんの用があるんだろう?
こっそり人と待ち合わせるのに、いい場所かもしれないけど、それなら他にいくらでもある。
こんな彗星に用があるのは、彗星の氷を切り出しに来るコメット・ハンターぐらいだし。いや、コメット・ハンターだって小惑星帯の内側に入った彗星では仕事をしないものだ。彼らにとって一番有望なのは、火星の近くを通る奴。うまい具合に彗星の軌道を変えて、火星の周回軌道に乗せれば、火星諸国が、彗星をまるごと買い取ってくれる。
あいにく、この彗星は火星の側は通らない。
金星の側は通るらしいが……
ん? 金星? あああ! まさか!?
あたしはガバッ! と跳ね起き、ディスクに向かった。
パソコンの電源を入れる。
顔に眼鏡型ディスプレーのフェイス・マウンテッド・ディスプレーを装着し、両手にデータグローブを着けた。
この彗星のデータを呼び出す。
やっぱし!
この彗星、最初の軌道より少しずれてる。
爆薬かなにかで、軌道が変えられたんだ。
金星をかすめる軌道に……偶然だろうか?
いや、こんな偶然あるはずがない。でも、何のためにこんな事を……それに、軌道を変えたのはミルじゃない。軌道が変わった時期は、あたし達がまだ第二太陽系にいた頃だ。
「ショコラ。入って良いか?」
インターホンからミルの声が聞こえたのは、その時だった。
「だめ!」
「全部、話す」
「本当に?」
「ほんまや」
あたしはドアロックを解除し、ミルを部屋に入れた。
「なあ、ショコラ。うちがこれから言う事聞くからには、それなりの覚悟してもらうで。うちらが、これからやるのは……」
「脱獄幇助でしょ」ミルは絶句した。「その様子じゃ図星ね」
「何で……分かった?」
「この彗星は金星の側を通るわ。でも、そうなるように誰かが細工した」
「そうや」ミルはあっさりと認めた。もう少し、とぼけるかと思ったけど……「まあ、そうでもせんと、金星に近付けんからな」
そりゃそうでしょう。
金星は惑星まるごと監獄になっている。当然、警戒も厳しい。
無許可で近付く船には、無数のキラー衛星が待ち構えている。
地表に降りる手段は唯一つ。軌道上の要塞衛星〈太白〉と、マックスウエル山の宙港を結ぶスペースシャトル。ただし、地球や火星やタイタンで使うようなシャトルでは駄目だ。
硫酸雲を抜ける前に圧壊してしまう。
潜水艦並の耐圧殻に耐蝕コーティングを施した特製のシャトルでなければ、金星には降りられない。
「ミル。こんな事やめて! あたしとの約束を破る気?」
「約束?」
「忘れたの!?」
「忘れてへんで」
「それじゃあ……」……はっ! 確かに、ミルは約束を破ってはいない。ミルは泥棒はやらないと言った。だけど、脱獄幇助はやらないと言っていない。
言ってはいないけど、ふつうやるかよ!
「今回は名乗りを上げへんから、怪盗ミルフィーユはやってへんし、ショコラとの約束通り、盗みはやらんから問題ないやろ」
「大ありよ!! 泥棒の方がまだましだわ」
「じゃあ、これを止めたら、泥棒は再開していいんやな」
「どっちも駄目!!」
「わがままな、やっちゃなあ」
「どっちが、わがままよ!? とにかく、なんのつもりか知らないけど、脱獄幇助なんて、やったら、只じゃ済まないわ」
「只じゃ済まないのは承知の上や」
「ミル!」
「でも、これはやめられん」
「なぜなの!?」
「実はな……」
不意にミルは深刻な顔になった。
「な……なんなの?」
どうしたんだろう?
ミルはそのまま悲壮な顔で黙り込んでしまった。
そうか。いくらミルが非常識でも、脱走幇助なんて、よほどの理由がなければやらないはず。
そりゃあ、ミルは酒乱だし、がさつだし、泥棒もやるけど、けっして根っからの悪人ではない。
きっと、これには、なにか深い事情があるんだ。
「一月前の事や。うちらは太陽系に入って真っ先に地球に行った。モンブランに留守を頼んで、うちとタルトだけで教授の家に行こうとしたんや」
「あたしが冷凍睡眠している間ね」
「そや。ところが船を出た途端に、待ち構えていた賞金稼ぎが、タルトを逮捕して行ったんや」
「なんだってえ!? ……だから……だから、あたしは泥棒なんて嫌だったのよ! いつかはこんな事になると……」
「落ち着き、ショコラ。別に怪盗ミルフィーユの事がばれた分けやない」
「じゃあ、なんでタルトが、逮捕されるのよ!? なんで?」
「すべて教授が仕組んだことなんや」
「教授が!?」
「タルトが逮捕されたのは冤罪や。別の指名手配犯のデータと、タ
ルトの個人データが入れ替えられたんや。教授の手によってな」
「でも、なんで自分の息子にそんなひどい事するの?」
「ショコラには話してなかったけど、あのカードの中に、プロテクトの掛けられたメッセージが入っていてな、そこに『オフィーリアの船』の調査結果が入っとったんや」
「何が、書いてあったの?」
「『オフィーリアの船』を盗み出したのは、CFCに雇われた宇宙海賊だと言う事まではこの前話したな。海賊が発掘隊の人達を皆殺しにした後、CFCの技術者がやって来て、ワープ機関だけを外して持って行ったんや。ところが、ワープ機関を積んだCFCの船は、木星付近で事故に遭い消息を断った。ただ、その船の船員が一人生き残っておる事を、教授は突きとめたんや。船員本人はもうお亡くなりになっとったが、死ぬ前に船の在処を一人の男に話しとる。それが現在金星刑務所に服役中のゴーダはんや。さっそく、先生は差し入れをぎょうさん持って金星に行ったんや。そして、ゴーダに尋ねたんや。だがゴーダは情報の見返りに、出所できるよう要求して来た」
「そんなの無理よ」
「でもな、先生は諦めんと地球連邦の偉いさんに掛け合って、なんとか仮出所させようとしたんや。その偉いさんが誰かは知らんが、いろいろ手を尽くしてくれたらしい。しかし、やっぱり仮出所なんて前例は作れんのや。しかたないので、警察には黙認させるから、脱獄させろと言われたそうや。まあ、司法取引みたいなもんやな」
「そんな、無茶な司法取引があるか!」
「うちに言うたってしゃあない。やったのは教授と偉いさんや。その偉いさんも、条件付きで認めたんや」
「条件て?」
「金星の刑務所では、囚人を使ってレア・メタルの採掘をやっとる。だけど、刑務所の誰かが、レア・メタルを横流ししとるらしいんや。その調査に協力するのが条件や。それで、交渉成立して、教授はいろいろと準備をしたんや。まずは金星仕様のシャトルを手に入れ、それから人を雇って、適当な彗星の軌道を変えて、金星をかすめるようにした。それが、今うちらのいる彗星や。後は、教授が刑務所へ行ってゴーダと繋ぎを取るついでに、横流しの犯人を探すだけやったが、その矢先に先生は病気になってしもて、お亡くなりになった」
「それで、代わりにタルトを、行かせようと仕組んだのね」
「そうや」
「あんまりだわ! それじゃあ、タルトがかわいそうよ。刑務所なんかに入れられたら、どんな目に会うか……」
「だから、うちもゴーダのおっちゃんには別の手で繋ぎを取る事にして、タルトの冤罪は先に晴らしてやるつもりやった。ところが、手を打つ前に、先走った賞金稼ぎにタルトが捕まってもうたんや」
「そんなあ、助けられなかったの!?」
「不覚やった。とにかく、これで分かったやろ。この計画、やめたらタルトを見殺しにする事になる」
あたし、ミルを誤解していたわ。ミルが脱走幇助なんて大それた事するのは、タルトを助けるためなのね。
そうよ、金が欲しいとか、面白いとか、浮ついた理由でミルがそんな事するはずないわ。でも……
「ミル、事情は分かったけど、やめて。危険すぎるわ。タルトだって冤罪で捕まったんだから、正規の手段でも助けられるはずよ」
「ええんかい。そんな、まどろっこしい事してて。刑務所って言ったら同性愛者の巣窟やで。そない所にタルトを長いこと置いといて、変や趣味でもうつったりしたら……」
「う……それは、イヤ。そういう漫画は好きだけど、身近な男の子にそういう趣味を持って欲しくない」
「そやろ。それに」ミルは少し勿体を付けた。「こんな面白い事、今更やめられるかい! それに、このお宝を手に入れれば、お金が一杯儲かるんやあぁぁ!!」
あたしは床に突っ伏した!
前言撤回。
そうだった。こういう、女だったんだ。
「ミルゥゥゥ!」
「なんや?」
「念ため聞くけど、タルトを助けるためじゃないの!?」
「それもある。お金が儲かって、ついでにタルトも助けられる。まさに一挙両得」
ついでにって……あんた!! 一瞬でも、こいつを尊敬したあたしが馬鹿だったわ。
「とにかく、やめて! お金と命と、どっちが大切なのよお!」
「どっちも」
「どっちか選んで! お願いだから」
「究極の選択ってやつやなあ」
「なぜ、命ってすぐに言えないの」
「まあ、心配せんでもええ。うちかて命は惜しい。いざとなったら、降伏する」
「やっぱり、やめようとか思わないわけ」
「思わん」
「降伏したって、逮捕されるわよ!」
「大丈夫。ショコラだけは逮捕されん」
「どうしてよ?」
「最初は、ショコラを地球に残していくつもりやったけど、冷凍睡眠装置の故障でできんかった。だから、このまま眠らしておいて罪を免れさせよ思た。だが、よりによって今のこの時期に、なぜか装置が直ってショコラが目覚めてしもうた。こうなった以上は……」 ミルは突然あたしに襲いかかってきた。
「なにすんのよう!?」
抗議する間もなく、ロープでグルグルに縛られる。
「ショコラは、うちへの協力を拒んだという設定や。万が一降伏した場合は、警官にそう言っとく」
「解いてよ!」
「我慢し。縛られとった方が説得力あるやろ。ほな、行ってくるでえ」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
瞼が閉じる前に
幽々
SF
帳倶楽部。それは、夜を求める者達が集う世界。
夜を愛する者、陽光を避ける者、隠居生活に選ぶ者、インドアの空気を愛する者……。
夜はどんな者も受け入れ、そして離れ難い欲求を、住む者に植え付ける。
まるで巨大な生き物の胃袋の中にいるかのように、その温もりに安心し、そして、……気が付けば何かを失っているのだ。
ーーーー
『帳倶楽部』 巨大な夜に包まれた国に住む、ある人々の小さな物語。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
神の種《レイズアレイク》 〜 剣聖と5人の超人 〜
南祥太郎
ファンタジー
生まれながらに2つの特性を備え、幼少の頃に出会った「神さま」から2つの能力を授かり、努力に努力を重ねて、剣と魔法の超絶技能『修羅剣技』を習得し、『剣聖』の称号を得た、ちょっと女好きな青年マッツ・オーウェン。
ランディア王国の守備隊長である彼は、片田舎のラシカ地区で起きた『モンスター発生』という小さな事件に取り組んでいた。
やがてその事件をきっかけに、彼を密かに慕う高位魔術師リディア・ベルネット、彼を公に慕う大弓使いアデリナ・ズーハーなどの仲間達と共に数多の国を旅する事になる。
ランディア国王直々の任務を遂行するため、個人、家族、集団、時には国家レベルの問題を解決し、更に心身共に強く成長していく。
何故か老化が止まった美女や美少年、東方の凄腕暗殺者達、未知のモンスター、伝説の魔神、そして全ての次元を超越する『超人』達と出会い、助け合い、戦い、笑い、そして、鼻の下を伸ばしながら ―――
※「小説家になろう」で掲載したものを全話加筆、修正、時々《おまけ》話を追加していきます。
落ちこぼれ聖女と、眠れない伯爵。
椎名さえら
恋愛
お前なんていらない
と放り出された落ちこぼれ聖女候補、フィオナ。
生き延びるために【ちから】を隠していた彼女は
顔も見たことがない父がいるはずの隣国で【占い師】となった。
貴族の夜会で占いをして日銭を稼いでいる彼女は
とある影のある美青年に出会う。
彼に触れると、今まで見たことのない【記憶】が浮かび上がる。
訳あり聖女候補が、これまた訳あり伯爵と出会って、
二人の運命が大きく変わる話。
現実主義な元聖女候補✕不憫イケメン不眠症伯爵
※5月30日から二章を連載開始します(7時&19時)が
私生活多忙のため、感想欄は閉じたままにさせていただきます
TS聖女は因果を操る〜陰ながら「運命操作」で仲間を守ってきた僕。無能と罵られた挙句、幼馴染を寝取られて追放されました。お前らなどもう知らん〜
アキ・スマイリー
ファンタジー
戦闘力は最弱だが善人な青年マルコは、勇者パーティーのお荷物的存在(と思われている)。勇者の狙いはマルコの幼馴染、美少女にしてSランク冒険者のユティファだった。
目論見通りにユティファを寝とった勇者は、マルコをパーティーから追放する。
しかし彼には秘めたる力があった。人々の暮らしを見守り、時には運命を操作して手助けする「時の聖女」マルファ。その正体はTS変身したマルコだったのだ。陰ながら仲間を守って来たマルコが居なくなった事で、勇者パーティーは悲惨な末路を辿る事となる。
一方マルコは、聖女マルファを慕う龍の化身タラスクと共に悠々自適な生活を始めようとする。だが、根っからの善人であるマルコは、困っている人を放って置けないタチ。ついつい人助けに乗り出してしまうのであった。
An endless & sweet dream 醒めない夢 2024年5月見直し完了 5/19
設樂理沙
ライト文芸
息をするように嘘をつき・・って言葉があるけれど
息をするように浮気を繰り返す夫を持つ果歩。
そしてそんな夫なのに、なかなか見限ることが出来ず
グルグル苦しむ妻。
いつか果歩の望むような理想の家庭を作ることが
できるでしょうか?!
-------------------------------------
加筆修正版として再up
2022年7月7日より不定期更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる