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第八章
洗脳
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「ははははは」
笑い声を上げた僕を、エラが睨みつけた。
「何がおかしい!?」
「回復薬は、残り二つ。次にミールが来たら、もう防ぎ切れないぞ」
「黙れ!」
怒り狂ったエラは、むき出しになっている僕の胸に電撃を浴びせてきた。
また、意識が暗転。
次に目覚めた時、僕はエラに襟首を掴まれて地面を引きずられていた。
分厚い防弾服のおかげで、地面との摩擦は大丈夫だが、手はロープで縛られている。
「どこへ行く気だ?」
「知れた事。次にミールが来る前に、逃げるのだよ」
ミールは回復薬を飲めば、すぐに次の分身体を作れるはずだが……
「さっき、君が気絶している間に、ミールの分身二体が怪我をしたカ・ル・ダモンを回収してどこかへ行った。残り十体が私にかかってきたが、蹴散らしてやったさ。まったく厄介な奴だ。本体を潰さない限り、いくらでも湧いてくる」
そうだとすると、今頃Pちゃんがダモンさんの手術をしているはず。
だが、手術をする時は、Pちゃんはメモリーを最大に使うのでドローンをコントロールする余裕はない。
ミールも薬の調合で、手が離せない。
キラの分身なら……ダメだ。
僕の作ったチタニウムの短剣は二つだけ。
ドームを偵察に行った時に、一つを落としてきたから次の分身は作れない。
しかし、その事情はエラには分かっていないはずだ。
「僕を置いて行った方がよくないか? ミールは、すぐにでも来るぞ」
「ダメだ。君は連れて行く。君は私のものだ」
「なんで、そんなに僕に拘る?」
「言っただろ」
突然エラは立ち止まると、僕に顔を近づけてきた。
「君に一目惚れしたからさ」
頬を舐められた。
「それ、やめろ! 気持ち悪……うぐ!」
強引に口づけされた。
歯を食いしばって、舌の侵入だけは防ぐ。
しばらくして、エラは諦めて口を離した。
「どうあっても、私を受け入れないのか?」
「当たり前だ」
「言っておくが、電撃で君を気絶させている間に、いくらでもできるのだぞ。痛い思いをするぐらいなら、大人しくキスぐらいさせたらどうだ?」
「おまえはいつも、そうなのか?」
「なにがだ?」
「そうやって、好きになった相手に、力ずくでいう事を聞かせているのか?」
「そうだ。それがどうかしたか?」
「人を好きになったのなら、なぜその人に自分を好きになってもらおうと努力しない?」
「そんな必要はないからだ。私には力がある。どんな物も捻じ伏せる力がな」
「力ずくで人を従わせたって、おまえの力はいつか尽きる。そうなれば、誰もおまえの周りからいなくなる。それどころか、さっき部下に撃たれたように復讐されるぞ」
「うるさい!」
「部下だけじゃない。お前は、上司からも疎まれているだろ」
「うるさい! そんな事は知っている! 私が僅かな部隊だけで、こんなところへ派遣されたのは、私の戦死を望む奴がいるからだろうというぐらい分かっているさ!」
知っていたのか?
「だが、私は死なない。必ず帝都に戻る。その時は、おまえも連れて行ってやる。私のペットとしてな」
エラの行く手に馬がいた。
あれで逃げる気か?
そこへ一台のバギー駆けつけてくる。
降りてきたのは成瀬真須美。
「アレンスキーさん。北村君を捕まえたそうね」
「ナルセか。丁度いい。こいつをお前の車に乗せてくれ。私は馬で帰る」
成瀬真須美は僕の姿を見て、驚愕の表情を浮かべる。
「酷い傷! アレンスキーさん。彼に何をやったのよ!?」
「うるさいな。戦闘の末に捕えたのだ。傷の一つや二つできるだろう」
「嘘おっしゃい! この胸の火傷は、どう見てもあなたの電撃によるものよ。どうせ、捕まえた後で、抵抗できない彼を拷問したのでしょ!」
「だったらなんだ? 戦場で捕まえた敵をいたぶるのは兵士の義務だろう」
「そんな義務があるか! 確かに戦場でそういう事やる奴は後を絶たないけど、捕虜虐待は、軍規で禁止されているのよ」
「ん? そうだったっけ? しかしみんなやっているぞ」
「単にばれなかっただけよ。ばれた奴は、みんな軍法会議にかけられているわ」
「捕虜虐待で、軍法会議にかけられるような間抜けもいたのか?」
「いるわよ。ついで言うと、あなたも今からその間抜けの仲間入りね」
「なぜだ?」
「私がこの事を上に報告するからよ。決まっているでしょ」
「まて! この傷はだな……」
エラはしゃがみ込んで僕の胸にある、空っぽのホルスターを掴んだ。
「見ろ。こいつは、ここに小型の銃を隠し持っていた。こいつは隙を見てこの銃を使って抵抗しようとした。だから、仕方なく私は電撃で拷問……いや、制圧した。どうだ、これを否定できるか?」
「否定はできないわね。でも、困るのよね。こんな傷をつけられたら。これから彼をブレインレターで洗脳すると言っていたでしょ」
「そんな傷が、洗脳の支障になるのか?」
「ブレインレターは身体中にマイクロマシンを貼りつかせて、身体中の神経にパルスを送り込むのだけど、不衛生なマイクロマシンが、こんな傷の上に乗っかったら感染症の危険があるのよ」
「そうなのか?」
ブレインレターにそんな危険が?
ミクが僕に使った時、そんな事なにも言ってなかったが……
「とにかく、急ぐ必要があるので、ここでブレインレターを使うわ」
なに? じゃあ僕との約束は?
笑い声を上げた僕を、エラが睨みつけた。
「何がおかしい!?」
「回復薬は、残り二つ。次にミールが来たら、もう防ぎ切れないぞ」
「黙れ!」
怒り狂ったエラは、むき出しになっている僕の胸に電撃を浴びせてきた。
また、意識が暗転。
次に目覚めた時、僕はエラに襟首を掴まれて地面を引きずられていた。
分厚い防弾服のおかげで、地面との摩擦は大丈夫だが、手はロープで縛られている。
「どこへ行く気だ?」
「知れた事。次にミールが来る前に、逃げるのだよ」
ミールは回復薬を飲めば、すぐに次の分身体を作れるはずだが……
「さっき、君が気絶している間に、ミールの分身二体が怪我をしたカ・ル・ダモンを回収してどこかへ行った。残り十体が私にかかってきたが、蹴散らしてやったさ。まったく厄介な奴だ。本体を潰さない限り、いくらでも湧いてくる」
そうだとすると、今頃Pちゃんがダモンさんの手術をしているはず。
だが、手術をする時は、Pちゃんはメモリーを最大に使うのでドローンをコントロールする余裕はない。
ミールも薬の調合で、手が離せない。
キラの分身なら……ダメだ。
僕の作ったチタニウムの短剣は二つだけ。
ドームを偵察に行った時に、一つを落としてきたから次の分身は作れない。
しかし、その事情はエラには分かっていないはずだ。
「僕を置いて行った方がよくないか? ミールは、すぐにでも来るぞ」
「ダメだ。君は連れて行く。君は私のものだ」
「なんで、そんなに僕に拘る?」
「言っただろ」
突然エラは立ち止まると、僕に顔を近づけてきた。
「君に一目惚れしたからさ」
頬を舐められた。
「それ、やめろ! 気持ち悪……うぐ!」
強引に口づけされた。
歯を食いしばって、舌の侵入だけは防ぐ。
しばらくして、エラは諦めて口を離した。
「どうあっても、私を受け入れないのか?」
「当たり前だ」
「言っておくが、電撃で君を気絶させている間に、いくらでもできるのだぞ。痛い思いをするぐらいなら、大人しくキスぐらいさせたらどうだ?」
「おまえはいつも、そうなのか?」
「なにがだ?」
「そうやって、好きになった相手に、力ずくでいう事を聞かせているのか?」
「そうだ。それがどうかしたか?」
「人を好きになったのなら、なぜその人に自分を好きになってもらおうと努力しない?」
「そんな必要はないからだ。私には力がある。どんな物も捻じ伏せる力がな」
「力ずくで人を従わせたって、おまえの力はいつか尽きる。そうなれば、誰もおまえの周りからいなくなる。それどころか、さっき部下に撃たれたように復讐されるぞ」
「うるさい!」
「部下だけじゃない。お前は、上司からも疎まれているだろ」
「うるさい! そんな事は知っている! 私が僅かな部隊だけで、こんなところへ派遣されたのは、私の戦死を望む奴がいるからだろうというぐらい分かっているさ!」
知っていたのか?
「だが、私は死なない。必ず帝都に戻る。その時は、おまえも連れて行ってやる。私のペットとしてな」
エラの行く手に馬がいた。
あれで逃げる気か?
そこへ一台のバギー駆けつけてくる。
降りてきたのは成瀬真須美。
「アレンスキーさん。北村君を捕まえたそうね」
「ナルセか。丁度いい。こいつをお前の車に乗せてくれ。私は馬で帰る」
成瀬真須美は僕の姿を見て、驚愕の表情を浮かべる。
「酷い傷! アレンスキーさん。彼に何をやったのよ!?」
「うるさいな。戦闘の末に捕えたのだ。傷の一つや二つできるだろう」
「嘘おっしゃい! この胸の火傷は、どう見てもあなたの電撃によるものよ。どうせ、捕まえた後で、抵抗できない彼を拷問したのでしょ!」
「だったらなんだ? 戦場で捕まえた敵をいたぶるのは兵士の義務だろう」
「そんな義務があるか! 確かに戦場でそういう事やる奴は後を絶たないけど、捕虜虐待は、軍規で禁止されているのよ」
「ん? そうだったっけ? しかしみんなやっているぞ」
「単にばれなかっただけよ。ばれた奴は、みんな軍法会議にかけられているわ」
「捕虜虐待で、軍法会議にかけられるような間抜けもいたのか?」
「いるわよ。ついで言うと、あなたも今からその間抜けの仲間入りね」
「なぜだ?」
「私がこの事を上に報告するからよ。決まっているでしょ」
「まて! この傷はだな……」
エラはしゃがみ込んで僕の胸にある、空っぽのホルスターを掴んだ。
「見ろ。こいつは、ここに小型の銃を隠し持っていた。こいつは隙を見てこの銃を使って抵抗しようとした。だから、仕方なく私は電撃で拷問……いや、制圧した。どうだ、これを否定できるか?」
「否定はできないわね。でも、困るのよね。こんな傷をつけられたら。これから彼をブレインレターで洗脳すると言っていたでしょ」
「そんな傷が、洗脳の支障になるのか?」
「ブレインレターは身体中にマイクロマシンを貼りつかせて、身体中の神経にパルスを送り込むのだけど、不衛生なマイクロマシンが、こんな傷の上に乗っかったら感染症の危険があるのよ」
「そうなのか?」
ブレインレターにそんな危険が?
ミクが僕に使った時、そんな事なにも言ってなかったが……
「とにかく、急ぐ必要があるので、ここでブレインレターを使うわ」
なに? じゃあ僕との約束は?
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