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第十七章
ハイブリット作戦
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「出よ! 式神!」
と、叫びながらミクが憑代を叩きつけたのは、《はくげい》の甲板上。
僕達が《はくげい》に到着してから三時間後の事だ。
周囲はまだ夜の帳に包まれているが、三つの月の明かりで甲板上はかなり明るい。
その月明かりに照らされる甲板上で、人型に切り抜かれた白い憑代がみるみるうちにウサギの姿に変化していく。
ウサギは、後ろ足で立ち上がるとミクに向かって恭しく頭を下げた。
「赤目。任務は分かっているわね?」
ん? 式神って、思念で操るのだろう。
任務内容を口頭で確認する必要あるのか?
「分かっているよ、ミクちゃん。この機会にカルル・エステスに恩を売りつけて、ミクちゃんを子供扱いする態度を改めさせるのだろ」
「そうそう。カルルの奴、いつもあたしをちっちゃい子供扱いして、頭を撫でたりするから……ちっがーう! 要塞に閉じこめられているカルルを、探し出すのがあんたの任務よ!」
こいつら、何をやっているのだ?
「そうは言っても、僕とミクちゃんは思念でやりとりしているから、本音もダダ漏れになるし……」
「なあ、ミール」
僕は胸ポケットから様子を見ているミールの分身体に声をかけた。
「式神とミクが思念でやりとりしているなら、そもそも任務内容を口に出して確認する必要あるのか?」
「ないと思います。少なくとも、あたしの分身体なら必要ありません」
「ないのか? じゃあなんでミクは、一々口に出して言うのだ?」
「さあ? 分身体を自律モードにしている時は、思念が伝わりませんので声で指示する事もありますが、今のミクちゃんは自律モードにしていませんよね」
僕達の声が聞こえたのか、赤目が僕の前に寄ってきた。
「それはですね。声に出して言った方が、周囲から格好良く見られるとミクちゃんが考えていまして……」
なんだ。格好を付けたいだけか。
「だああ! ばらしちゃダメ!」
ミクは慌てて赤目の口を押さえつける。
「違うんだからね! そりゃあたしと赤目は思念でつながっているけど、こういう時は声に出した方が、気が引き締まると思ってやっただけだからね」
はいはい、そういう事にしておこう。
「それはそうとミク……」
ミクは振り向いた。
「今回の作戦、式神なら敵に探知されないという前提で始めたのだが、ジジイの話では敵がプシトロンパルスを観測する手段を持っていれば、式神といえども探知される危険があるそうだ」
「うん。知っているよ」
「知っていたのか?」
「だって、おじいさんの実験には、あたしが協力したのだから」
「そうだったのか。それなら、自律モードにしていれば、探知されないことも知っているか?」
「うん、知っている。でもさ、プシトロンパルス観測機器っておじいさんにしか作れないのでしょ。マトリョーシカ号のコンピューターにあったおじいさんのデータも削除したから、帝国側には観測手段はないのでしょ」
「僕も最初はそう思っていた」
「え? 帝国側にもあるの?」
「無いとは言い切れないんだ。タウリ族の技術を手に入れた帝国は、プシトロンパルスの観測手段も持っていてもおかしくない。ミールの分身魔法やミクの式神に手を焼いた帝国軍が、それを使う可能性は十分にある」
「そっか。じゃあどうしよう?」
「だから、ドローンと式神のハイブリット作戦で行く」
三十分後。《はくげい》のカタパルトから、一機のドローンが飛び立った。
北ベイス島攻撃の時に使ったプロペラ推進式のゼロだ。
本来は無人機なので操縦室などないのだが、この機体には一見コックピットを思わせる風防が取り付けてある。
その風防の中に、ミクの式神が入っていた。
一見すると、ウサギのパイロットが戦闘機を操縦しているように見えるが、これは決して趣味に走ったわけではない。
式神の弱点である憑代が、風圧で飛ばされないための対策だ。
と、叫びながらミクが憑代を叩きつけたのは、《はくげい》の甲板上。
僕達が《はくげい》に到着してから三時間後の事だ。
周囲はまだ夜の帳に包まれているが、三つの月の明かりで甲板上はかなり明るい。
その月明かりに照らされる甲板上で、人型に切り抜かれた白い憑代がみるみるうちにウサギの姿に変化していく。
ウサギは、後ろ足で立ち上がるとミクに向かって恭しく頭を下げた。
「赤目。任務は分かっているわね?」
ん? 式神って、思念で操るのだろう。
任務内容を口頭で確認する必要あるのか?
「分かっているよ、ミクちゃん。この機会にカルル・エステスに恩を売りつけて、ミクちゃんを子供扱いする態度を改めさせるのだろ」
「そうそう。カルルの奴、いつもあたしをちっちゃい子供扱いして、頭を撫でたりするから……ちっがーう! 要塞に閉じこめられているカルルを、探し出すのがあんたの任務よ!」
こいつら、何をやっているのだ?
「そうは言っても、僕とミクちゃんは思念でやりとりしているから、本音もダダ漏れになるし……」
「なあ、ミール」
僕は胸ポケットから様子を見ているミールの分身体に声をかけた。
「式神とミクが思念でやりとりしているなら、そもそも任務内容を口に出して確認する必要あるのか?」
「ないと思います。少なくとも、あたしの分身体なら必要ありません」
「ないのか? じゃあなんでミクは、一々口に出して言うのだ?」
「さあ? 分身体を自律モードにしている時は、思念が伝わりませんので声で指示する事もありますが、今のミクちゃんは自律モードにしていませんよね」
僕達の声が聞こえたのか、赤目が僕の前に寄ってきた。
「それはですね。声に出して言った方が、周囲から格好良く見られるとミクちゃんが考えていまして……」
なんだ。格好を付けたいだけか。
「だああ! ばらしちゃダメ!」
ミクは慌てて赤目の口を押さえつける。
「違うんだからね! そりゃあたしと赤目は思念でつながっているけど、こういう時は声に出した方が、気が引き締まると思ってやっただけだからね」
はいはい、そういう事にしておこう。
「それはそうとミク……」
ミクは振り向いた。
「今回の作戦、式神なら敵に探知されないという前提で始めたのだが、ジジイの話では敵がプシトロンパルスを観測する手段を持っていれば、式神といえども探知される危険があるそうだ」
「うん。知っているよ」
「知っていたのか?」
「だって、おじいさんの実験には、あたしが協力したのだから」
「そうだったのか。それなら、自律モードにしていれば、探知されないことも知っているか?」
「うん、知っている。でもさ、プシトロンパルス観測機器っておじいさんにしか作れないのでしょ。マトリョーシカ号のコンピューターにあったおじいさんのデータも削除したから、帝国側には観測手段はないのでしょ」
「僕も最初はそう思っていた」
「え? 帝国側にもあるの?」
「無いとは言い切れないんだ。タウリ族の技術を手に入れた帝国は、プシトロンパルスの観測手段も持っていてもおかしくない。ミールの分身魔法やミクの式神に手を焼いた帝国軍が、それを使う可能性は十分にある」
「そっか。じゃあどうしよう?」
「だから、ドローンと式神のハイブリット作戦で行く」
三十分後。《はくげい》のカタパルトから、一機のドローンが飛び立った。
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本来は無人機なので操縦室などないのだが、この機体には一見コックピットを思わせる風防が取り付けてある。
その風防の中に、ミクの式神が入っていた。
一見すると、ウサギのパイロットが戦闘機を操縦しているように見えるが、これは決して趣味に走ったわけではない。
式神の弱点である憑代が、風圧で飛ばされないための対策だ。
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