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第十七章

バーチャル彼氏

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 罰って何を……

「うわ!」

 いきなりミールは、僕に抱きついてくると唇を重ねた。

「これが罰です」

 これは罰どころかご褒美……

 横を向くと、芽依ちゃんがメガネをギラリと光らせていた。

 人前でされるのは、確かに罰かもしれないな。 

「ミールさん」

 芽依ちゃんの口調には、やや怒気が感じられた。

「なんでしょうか? 芽依さん」
「今のキスは、私に見せつけているつもりですか?」
「ですから、罰を受けてもらいますと言いましたよね」
「なるほど。そうですか。ふふふふふふ」

 ヤバイ! 芽依ちゃんが不気味な笑い声を……

「芽依ちゃん……落ち着いて」
「大丈夫です。今の私は、これ以上ないくらい落ち着いています」
「そ……そうなの?」
「芽依さん、負け惜しみを……」
「ミールさん。負け惜しみではありません。なぜなら、私はもう……」

 芽依ちゃんは僕を指さす。

「この北村さんには、手を出しませんので」

 え? それって……

「メイさん。カイトさんの事は、諦めたという事ですか?」
「諦めてなんかいませんよ。なぜなら、私はすでに北村さんと付き合っていますので」

 は? いや、待て! 僕は芽依ちゃんと付き合ってなんかいないぞ!

「カイトさん」

 うわわわ! ミールが睨んでいる!

「今、メイさんが言った事、どういう事ですか?」
「知らん! 僕はそんな事はしていない」
「本当ですかあ?」
「本当だって! 芽依ちゃん! 嘘はやめてくれ!」
「嘘ではありません。私は確かに北村さんと交際しております。ただし……」

 芽依ちゃんは、タブレット端末を取り出して僕達の方へかざした。

 その画面には、どこかの家のリビングルームが映っている。

 そのソファでは、一人の男がブランデーグラスを片手にくつろいでいた。

 後ろ姿なので顔は見えないが……

「私が付き合っているのは、こちらの北村さんです」

 え? どういう事?

 首を傾げている僕を余所に、芽依ちゃんが画面の男に話しかける。

「ちょっとこっちを向いて下さい」
『ん? どうしたんだい? 芽依ちゃん』

 そう言って男が振り向いた。その顔は……う!

「芽依ちゃん……これは……?」
「北村さんです」

 男の顔は、まさに僕だった。

「まあ、今のところは仮想バーチャル彼氏ですけど」

 虫除けプログラムからミールを除外する代償に、芽依ちゃんに僕のデータを取らせたけど、こんな事に使っていたのか。

 芽依ちゃんは、ミールの方を向いてニヤって笑みを浮かべた。

「ですからミールさん。私は負け惜しみなど言っておりません」
「で……でも、その仮想バーチャルカイトさんではキスなんかできませんよね?」
「できますよ」
「画面に、唇を当てるだけでしょ?」
「いいえ。BMIを使って私が仮想バーチャル空間スペースに入ればキスだってそれ以上の事だってできます」
「で……でもしょせんは仮想バーチャルだし……」
「今は仮想バーチャルですが、母船の許可が出たら、このデータを送ってプリンターで出力して地上へ送ってもらいます。そうしたら、私達は仮想バーチャルではなく本物の恋人となるのです」
「そ……そうですか。まあ、そのカイトさんはこのカイトさんとは別人ですし、浮気ではないですから……」
「ちょっと待ってくれ。芽依ちゃん。そういう目的で人間をプリンターで出力する事は禁止じゃなかったのか?」
「確かに今までは禁止されていました。でも禁止されていた本当の理由がレイラ・ソコロフさんによって明かされたので、限定的に許可される事になりそうです」
「なりそう? という事はまだって事?」
「はい。でも、明後日のリトル東京市議会でほぼ決定する……は!」

 不意に芽依ちゃんは押し黙った。

「いけない。このことはまだ口外しないように、お父様から言われていたのでした。皆さんご内密に」

 芽依ちゃん。意外と口が軽いな……

「分かった、黙っているよ。みんなもいいね」

 と言って見回したが、橋本晶もミクもシートの上で眠っている。

 二人ともイビキもかいている程の爆睡状態。

 寝たふりではなさそうだ。

 ミールとPちゃんなら口が固いから大丈夫だろう。

 キャビン内に、警報が鳴り響いたのはその時だった。
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