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第十七章

知らないはずの事

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 芽依ちゃん、どういうつもりだ?

 いや、芽依ちゃんの僕への気持ちは知っていたし、以前にミールから僕を奪うとか宣言していたし、今ここでそれを実行しようとでもいうのか?

 しかし、慌てている僕の姿を、芽依ちゃんはキョトンとした顔で見ているだけ。

 程なくして、何かを納得したような表情を顔に浮かべた。

「え? ……あ! ごめんなさい! そういう意味ではないのです」

 そうだよね。芽依ちゃんがそんな大胆な事をするとは思えないし……

「私はただ、北村さんと、相談したい事があったもので……」
「そ……そうなの? で、相談って何?」 
「はい。実は今朝、香子さんから妙な事を聞いたのですが……」
「香子から?」
「はい。香子さんはキラさんから聞いたのですが、ミーチャ君が昨夜、妙な夢を見たそうなのです」
「夢?」

 夢ぐらいで一々……いや、たかが夢とあなどる事はできないな。

 昔チャン白竜パイロンとアーニャ・マレンコフが直接出会う前に夢の中で出会っていたという事があった。

 後になってその原因は、脳間通信機構だと分かったわけだし……

「ミーチャは、どんな夢を見たというのだ?」
「それが、ミーチャ君は夢の中でレム・ベルキナになっていたというのです」

 ううむ、これってどうなのだろう?

 ミーチャは確かにレム・ベルキナのクローンだ。

 しかし、クローンはオリジナル体の遺伝情報は引き継いでも記憶まで引き継ぐはずがない。

 ただ、ミーチャがレム・ベルキナのクローンである事は《海龍》を離れる前に僕の口から伝えてある。
 
 話を聞いてからミーチャはすごく悩んでいたようだが、そのストレスからそんな夢を見てしまったのではないのだろうか?

 と、その考えを芽依ちゃんに話してみた。

「私も最初はそう思いました。私だけでなく、香子さんもキラさんもそう思っていました。しかし、話を聞いているうちに私は気が付いてしまったのです。ミーチャ君は、レム・ベルキナ本人しか知らない事を知っていた事に」

 レム・ベルキナしか知らないこと?

「正確には、レム・ベルキナと私と北村さんしか知らない事です」

 ん? レム・ベルキナ本人以外に僕と芽依ちゃんしか知らない事?

 そんなのあったっけ?

「北村さん。ベイス島でフーファイターと戦った後、レム・ベルキナの疑似人格を宿した男の子と会った事を覚えていますか?」
「ああ、覚えているよ」

 矢納さんを殺した後、僕たちにメッセージを伝えてから自決した少年だな。

「あの時に私達が聞かされたあの事を、ミーチャ君が知っていたのです」
「あの事って? いったい、ミーチャは何を知っていたというのだ?」
「それが……私と北村さんのオリジナル体が、地球で夫婦だったことを……」
「なにい!?」
「そして日本留学中のレム・ベルキナは、私たちの家にホームスティしていたと」

 そういえばそんな事が……いや、忘れていたわけではないのだが、その後が忙しすぎてその事について考える暇もなかった。

 もちろん、あれが事実なのか確認なんてしていないが……

「私は、もちろんその事を誰にも話していません。北村さんも、誰にも話していませんよね?」
「当然だ」
「だとすると、ミーチャ君は本当にレム・ベルキナの記憶を受け継いでいるのでは?」
「そんなバカな。クローン人間が、オリジナルの記憶を受け継ぐわけが……」
「でも、この事は私と北村さんしか知らないはずですよ。もう一度聞きますが、北村さんはこの事を誰にも話していませんよね?」
「もちろん。……いや、待てよ」

 リトル東京に着いてから、記憶を無くすほど酒を飲んだ事が一回だけあったが、その時に一緒に飲んでいたのは……

「もしかすると、カルルに話したかもしれない」

 記憶を無くすほど飲んだのは、その時一回限りなので話したとしたらその時しかないわけだが……

「カルルさんに? じゃあ、カルルさんからミーチャ君に話が伝わって、そのせいでミーチャ君はあんな夢を……」
「そうかもしれない。基地に着くまでまだ時間があるな。ちょっとカルルに聞いてみるか」

 携帯電話を取り出してカルルを呼び出してみたが……

「あれ?」
「どうしました?」
「カルルの奴全然出ない」
「仕事中じゃないのですか?」
「そうなのかな?」

 だが、カルルが電話に出なかった理由を、僕は程なくして知ることになる。
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