上 下
194 / 846
第七章

ボラーゾフ屋敷崩壊

しおりを挟む
「こいつらを捕えろ。殺してもいい」
「え? は……はい」
 小男に指示されて、門番は呼子を鳴らした。
 たちまち、門内からいかつい男たちがワラワラと出てくる。
 考える間もなく、僕は懐から二丁の拳銃を抜いていた。

「ミール! 戦闘モード!」
「はーい」
 ミールは薬を飲んだ。
「やっちまえ!」
 刀を抜いた男たちが、かかってくる。
 男たちが近づく前に、僕は拳銃を連射して次々と倒していった。
 しかし、数が多すぎる。
 一人が銃撃を掻い潜り、刀の間合いに入ってきた。
「アチョー!」
 男が刀を振り下ろす前に、レイホーのヌンチャクが顔面に食い込む。
 男はそのまま昏倒した。
「私に触るんじゃありません!」
 Pちゃんを捕まえようとした男が、電撃を浴びせられて倒れた。
 そんな機能もあったのか。
「ああ! ご主人様に買ってもらった服に汚れが! この! この! この!」
 倒れた男に、Pちゃんはゲシゲシと蹴りを入れ続ける。
「何をやっている! 早く片付けろ」
 小男の号令で、さらに門の中から男たちが出てくるが……
「うぎゃあ!」
 先頭の男の眉間に、矢が刺さった。
「お待たせしました!」
「援軍到着!」
 R18指定ギリギリの露出度高い鎧をまとった十二人の美少女軍団ミールズが戦闘に介入して、形成は一気に逆転した。
「な……なんだ? このエロい姉ちゃんたちは?」「どわわ!」「許してくれ」
 不死身の美少女軍団ミールズに抵抗する術もなく、男たちはたちまち制圧される。
 僕は小男の傍に歩み寄った。
「ひいい! く……来るな!」
 小男は後退ったが、すぐ背後の塀にぶつかり退路がなくなった。
「おい! お前、ドロノフの手下だったな。なぜ、ここにいる?」
「おまえの知った事ではない!」
「僕の仲間をさらっておいて、それで済むとでも思っているのか?」
「殺すなら殺せ。何も喋らんぞ」
「じゃあ、そうしようか」
 僕は拳銃を小男に向けた。
 安全装置を解除する。
 小男の顔が恐怖に歪む。
「だ……誰が言わないと言った。言う! 言うから、撃つな!」
「いや、おまえさっき『喋らんぞ』と言ったやん」
「喋ります。喋りますから、命だけは……」
「別にいいよ。どうせ、二重スパイか何かだろ。僕はドロノフの友達でもなんでもないから、おまえが二重スパイだろうと三重スパイだろうとどうでもいい。それより、なぜ僕の仲間を誘拐した?」
「仲間って……お前たちと一緒にいた娘の事か?」
「そうだ。僕らに、いったいなんの恨みがあってやった?」
「いや、おまえらに恨みはないが、あの娘は、ドロノフに対する人質にしようと……」

 何を言ってるんだ? こいつ…… 

「おまえ、あの娘を誰だと思っているんだ?」
「誰って? あの娘はドロノフの隠し子だろ? お前たちが、ドロノフに会わせるために連れてきたと……」

「はあ!?」

「ち……違うんで?」

 あ! 昨夜、ドロノフは、こいつに何かを囁いていたな。

「ドロノフが、そう言ったのか?」
「そうだが……」

 そういう事か。
 ドロノフは、この男が裏切っている事に薄々感づいていたんだな。
 昨夜、この男にミクを自分の娘だと偽情報を囁いた。
 それをまんまとと信じ込んだこいつは、僕らの後をつけて宿を見張っていたんだろう。
 そしたら、ミクが一人で散歩に出てきた。
 好機とばかりに、ミクを誘拐したんだな。
 ドロノフとしては、僕たちとライバル組織をぶつけて、潰し合わせようという魂胆だったのだろう。
 
「おまえ、裏切り者だって事、ドロノフにばれているよ」
「え? なぜ?」

 鈍い男だな。
 
「あの娘は、コピー人間だ。この惑星に、親なんかいない。お前はドロノフに騙されたんだよ」
「な……なぜ?」
「決まっているだろ」
 僕は小男の襟首を掴み、周囲を見せた。
 ボラーゾフの部下たちが、血まみれになって倒れている。
 新たに門から出てくる者もいるが、出てくる傍から分身達ミールズに倒されていた。
「お前たちに、あの娘を誘拐された僕達が、頭にきてこういう事をすることを期待したんだろうな」
「ええ!?」
「たぶん、ドロノフは、どっかで見張っていたんだろう。おまえがあの娘に手を出すかどうかを。手を出した時点で、おまえが裏切り者と確信しただろうな。もう、ドロノフの前に現れない方が身のためだぞ」
「そんなあ……」
「さて、どうする?」
「すみません! 娘さんはお返しします。なので、一つここは穏便に……」
「ふざけないで下さい」
 ミール(本体)が、小男の胸倉を掴んだ。
「騙されたとはいえ、あたし達に喧嘩を売ったのですよ。ただで許して貰えるとでも、思っているのですか?」
「ど……どうしろと?」
「誠意を見せなさい」
「誠意とは?」
「そのぐらい自分で考えなさい」
 小男の顔が恐怖で歪む。
「ミールさん。まるでヤーさんですね」
「ありがとう。もっと誉めて」
 いや、Pちゃんは誉めてないぞ。
 
 ドゴーン!

 突然、轟音が鳴り響いた。
 さらに塀の向こうから、悲鳴が沸き起こる。

 何があったんだ?

「あ! そういえば、あたし」
「どうしたんだ? ミール」
「ミクちゃんに、魔力回復薬を一粒渡しておきました」
「え?」
 Pちゃんの方を向いた。
「ミールの魔力回復薬って、地球人の体質に合うの?」
「先日分析しましたが、問題はありませんでした」

 という事は……

「使ったな」
「使いましたね」

 塀の中に入ると、中は瓦礫の山と化していた。
 ボラーゾフの部下たちが大勢倒れている。
 それをやった巨大な鬼は、まだ暴れていた。
 まだ、残っているボラーゾフの手下たちが、銃撃したり矢を射かけたりしているが、もちろんそんな物が通じるはずがない。

「きゃははは! 行けぇ! アクロ! もっと、やっちゃえ!」

 暴れさせている本人は、瓦礫の山の上で大笑いしていた。

「わしが、悪かった! 許してくれ」

 ミクの前で、でっぷりと太ったおっさんが土下座して詫びていた。
 どうやら、このおっさんがボラーゾフらしい。

「ん~どうしようかな? そうだ! オジさんの財産、全部くれたら許してあげる」
 
「そんなあ」
 ボラーゾフの背後に僕達が立った。
 僕達の姿に気が付いたミクはビクっと硬直する。
「お……お兄ちゃん!?  どうしてここに?」
「ミク、なぜ、朝ごはんまでに、帰ってこなかった?」
「ええっとね……」
 ミクは少し考えてから、ミールが捕まえている小男をビシ! と指差した。
「こいつが悪いんだよ! こいつが、あたしをヒモでグルグル巻きに縛って、無理やり連れてきたんだよ」
 僕は小男に視線を向けた。
「ああ言ってるが、そうなのか?」
 小男は、慌てて否定する。
「め……滅相もない! お菓子をやると言ったら、ホイホイと着いてきました」
「そうか」
 僕はミクに視線を向けた。
「後で、お仕置きだな」
「ちょっと! お仕置きって何するの? お尻叩くの? お兄ちゃんのエッチ」
「大丈夫。それはPちゃんとミールにやってもらう」

 僕はミールとPちゃんの方を向いた。

「いいよね?」
「はい。ご主人様の命令とあらば」「あたしも喜んで協力しますわ」
「ああ! やめて! 喜んで協力なんかしないで!」
「じゃあ、なんでホイホイ着いて行ったりした? 小さな子供じゃないなら、誘拐だって分かるだろ」
「あたしだって、そのくらい分かるわよ。分かった上で着いていったのだから」
「なんで着いて行った?」
「だってさあ。ここであたしが助かっても、今度は他の子が狙われるじゃない。だったら、あたしが騙されたフリして着いていって、こいつらのアジトを突き止めて、アクロを呼び出して、こいつらまとめて成敗しちゃえば、もう子供が誘拐されるなんて事はなくなるじゃない」

 こいつらの目的はミクを人質にするつもりであって、営利誘拐ではないのだが、ミクはそう思っているようだな。

「なるほど。一理あるな」
「でしょ」
「でも、問題がある」
「なによ?」
「僕達が、どれだけ心配したと思っているんだ?」
「え? 心配していたの? あたしの事」
「当たり前だろ」
「ごめんなさい」

 意外と素直だな。

「でもさ、こいつらをやっつける事は、いいことでしょ?」
「いい事だけど、僕たちに連絡ぐらいできただろ」
「通信機、忘れてきちゃったもん」
「赤目は?」
 そう言った途端に、ミクは明後日の方を向いた。
 そのミクの背後にミールが回り込み、ミクのリュックの蓋を開く。 
 リュックの中から赤目が飛び出してきた。
「酷いよ! ミクちゃん。僕を閉じ込めるなんて」
「やだ。赤目。閉じ込めてなんかいないわよ。あんたが中にいるなんて気が付かなくて、蓋を閉めちゃっただけだから」
 赤目は僕の方を向いた。
「嘘ですよ。僕はミクちゃんに、こんな奴らに着いて言っちゃダメだって言ったのです。どうしても着いていくなら、僕は宿に戻って北村海斗様に報告すると。そしたら、僕をリュックに閉じ込めて……」
「ほう」

 この娘、虚言癖があるな。

「なぜ、僕らに黙ってやろうとした?」
「と……止められると思って……」
「止めたりしないから、今度からは一言いってからにしてくれ」
「うん。今度からはそうする」

 瓦礫の上に、へたり込んでいるボラーゾフの方を向いた。
 
「この娘が、ドロノフの娘というのは真っ赤な嘘だ。それは理解してもらえたかな?」
「り……理解しました。わしも騙されて……」
「だけど、僕らに意趣返ししようとか考えているだろう?」
「か……考えていません」

 こりゃあ、考えているな。

「Pちゃん。注射器持ってる?」
「はい。持っていますよ」
「じゃあ、こいつの首に注射して」
「はい」
「な……何をする?」
 分身達ミールズに押さえつけられたボラーゾフの首筋にPちゃんが注射した。
「な……わしに何をした!?」
「これが見えるかい?」
 ボラーゾフに、小さなカプセルを見せた。
 そのカプセルを空中に放り投げ、手元のスイッチを押す。
 カプセルは空中で爆発した。
「これと同じ物を、あんたの首に入れた」
「なんだと!?」

 嘘だけどね。
 注射器でこんな物は入らない。
 あの注射も、ただのビタミン剤だ。

「この惑星のどこにいても、僕はあんたを殺せる。次に僕らにちょっかいを出したら、容赦なくスイッチを押す。わかったかい?」

 ボラーゾフはコクコクと頷いた。

「ご主人様。ここで殺しておいた方がいいのでは」
「こいつを殺したら、どこかで生き残っているこいつの部下に狙われる。それなら、こいつを生かしておいて、報復を止めさせた方が安全だ」
「なるほど。確かにそうですね」
 時計に目をやる。
 分身達が消えるまで、あと十分ほど……
「よし、引き上げよう」
 僕たちは瓦礫の山を後にした。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

乾坤一擲

響 恭也
SF
織田信長には片腕と頼む弟がいた。喜六郎秀隆である。事故死したはずの弟が目覚めたとき、この世にありえぬ知識も同時によみがえっていたのである。 これは兄弟二人が手を取り合って戦国の世を綱渡りのように歩いてゆく物語である。 思い付きのため不定期連載です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...