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第十六章
ただいま充電中
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バイザーの端に『電源に接続。充電しています。充電状況八%』と表示されている。
最低限この数字が三十%を越えないと、九九式を再起動できない。
と言っても、使えないのは増力機能と重力制御機能だけで、普通に動く事はできるし、カメラや集音機も使うことができるので、今はその機能を使って二百メートル先に浮かぶ《海龍》の様子を見ていた。
向こうでは、後甲板に現れた赤いスパイダーのハッチから顔を出したカルル・エステスが、司令塔の上にいるイリーナ達を見上げている。
「エステス様」
イリーナ達は、一斉に敬礼した。
「スパイダーの修理は、終わったのですね?」
修理中だったのか? だから、出撃してこなかったのか?
「イリーナ。残念だが、君の機体のパーツを使ったので、動かせるのは俺の機体と姫の機体だけだ」
一瞬、イリーナは不満気な表情を浮かべる。
だろうな。どうせ共食い整備するなら、無能な姫の機体からパーツを取ればいいのに。とでも思ったのだろう。
「イリーナ。ミクはどこにいる?」
「は! 主砲の影に隠れています」
「そうか。では、それに対して向こうの守りは?」
「司令塔の向こうで、カ・モ・ミールの分身体六体が待ちかまえています」
「六体? 十二体ではないのか? それとも、すでに六体倒したのか?」
「いえ。最初は七体でした。一体はワームホールの向こうへ行って自爆しましたので」
カルルはしばし考えこんだ。
「そうか。憑代がそれしか残っていないのだな。そして、予備の憑代は艦内に入らないと取りにいけない」
気がつきやがった。
「ロボットスーツ隊が《水龍》に行ったのも、そっちへ行かないと補給を受けられないからだな」
「ええ。艦内侵入には失敗しましたが、司令塔の上を占拠しておいて良かったです」
そんなのちっとも良くないよ。
こっちにとっては……
「エステス様。それと主砲の影にはキラ・ガルキナもいます。奴の分身体は一体だけですが、かなり手強いかと」
「なるほど。キラ・ガルキナを、ミクのそばから引き離せばいいのだな。簡単だ」
簡単? キラがそんな簡単に持ち場を離れるわけがないだろう。
ないとは思うが……
しかし、奴は何か企んでいるようだ。
まずいな。まだ、こちらの準備が整っていないのに仕掛けられると……
ちらっと、僕の横で充電中の芽依ちゃんと橋本晶の機体に視線をやった。
「チャージ ステータス」
二人の充電状況がバイザーに表示される。
これによると、芽依ちゃんが二十九%、橋本晶が二十五%。
芽依ちゃんがまもなく再起動できるな。
視線を《海龍》に戻すと、カルルがスパイダーのハッチを閉じたところだった。
そのままスパイダーは司令塔の向こうに顔を出す。
「聞け。カ・モ・ミール。そしてキラ・ガルキナ。今すぐミクを引き渡すなら、ミーチャ・アリエフ君を解放しよう」
そんな取引にミールたちが応じるはずがない。
ただ、それに対して、ミールは返事をしない。
しばしの間沈黙が続いた。
なぜ、カルルはすぐに仕掛けてこないのだろう?
時計を見た。
そうか! ミールが分身体を戦闘モードにしてから、すでに二十分以上経過している。
そして、ミールが予備の憑代を持っていない事も奴は知ってしまった。
ミールの分身体が、時間切れになるのを待ってから仕掛ける気だな。
「北村さん」
充電中だった芽依ちゃんが声をかけてきたのはその時。
「私の機体、三十%を越えました。再起動できます」
間に合った!
「芽依ちゃん。甲板上にあるコンテナが見えるね」
一片一・八メートルほどの強化プラスチックコンテナを、僕は指さした。
「ええ」
「あれを《海龍》に届けてほしい。その後は無理のない程度に、カルルを牽制してくれればいい」
「分かりました」
芽依ちゃんはコンテナを抱えて《水龍》を飛び立つと、水面スレスレの高度で《海龍》へ向かって行った。
最低限この数字が三十%を越えないと、九九式を再起動できない。
と言っても、使えないのは増力機能と重力制御機能だけで、普通に動く事はできるし、カメラや集音機も使うことができるので、今はその機能を使って二百メートル先に浮かぶ《海龍》の様子を見ていた。
向こうでは、後甲板に現れた赤いスパイダーのハッチから顔を出したカルル・エステスが、司令塔の上にいるイリーナ達を見上げている。
「エステス様」
イリーナ達は、一斉に敬礼した。
「スパイダーの修理は、終わったのですね?」
修理中だったのか? だから、出撃してこなかったのか?
「イリーナ。残念だが、君の機体のパーツを使ったので、動かせるのは俺の機体と姫の機体だけだ」
一瞬、イリーナは不満気な表情を浮かべる。
だろうな。どうせ共食い整備するなら、無能な姫の機体からパーツを取ればいいのに。とでも思ったのだろう。
「イリーナ。ミクはどこにいる?」
「は! 主砲の影に隠れています」
「そうか。では、それに対して向こうの守りは?」
「司令塔の向こうで、カ・モ・ミールの分身体六体が待ちかまえています」
「六体? 十二体ではないのか? それとも、すでに六体倒したのか?」
「いえ。最初は七体でした。一体はワームホールの向こうへ行って自爆しましたので」
カルルはしばし考えこんだ。
「そうか。憑代がそれしか残っていないのだな。そして、予備の憑代は艦内に入らないと取りにいけない」
気がつきやがった。
「ロボットスーツ隊が《水龍》に行ったのも、そっちへ行かないと補給を受けられないからだな」
「ええ。艦内侵入には失敗しましたが、司令塔の上を占拠しておいて良かったです」
そんなのちっとも良くないよ。
こっちにとっては……
「エステス様。それと主砲の影にはキラ・ガルキナもいます。奴の分身体は一体だけですが、かなり手強いかと」
「なるほど。キラ・ガルキナを、ミクのそばから引き離せばいいのだな。簡単だ」
簡単? キラがそんな簡単に持ち場を離れるわけがないだろう。
ないとは思うが……
しかし、奴は何か企んでいるようだ。
まずいな。まだ、こちらの準備が整っていないのに仕掛けられると……
ちらっと、僕の横で充電中の芽依ちゃんと橋本晶の機体に視線をやった。
「チャージ ステータス」
二人の充電状況がバイザーに表示される。
これによると、芽依ちゃんが二十九%、橋本晶が二十五%。
芽依ちゃんがまもなく再起動できるな。
視線を《海龍》に戻すと、カルルがスパイダーのハッチを閉じたところだった。
そのままスパイダーは司令塔の向こうに顔を出す。
「聞け。カ・モ・ミール。そしてキラ・ガルキナ。今すぐミクを引き渡すなら、ミーチャ・アリエフ君を解放しよう」
そんな取引にミールたちが応じるはずがない。
ただ、それに対して、ミールは返事をしない。
しばしの間沈黙が続いた。
なぜ、カルルはすぐに仕掛けてこないのだろう?
時計を見た。
そうか! ミールが分身体を戦闘モードにしてから、すでに二十分以上経過している。
そして、ミールが予備の憑代を持っていない事も奴は知ってしまった。
ミールの分身体が、時間切れになるのを待ってから仕掛ける気だな。
「北村さん」
充電中だった芽依ちゃんが声をかけてきたのはその時。
「私の機体、三十%を越えました。再起動できます」
間に合った!
「芽依ちゃん。甲板上にあるコンテナが見えるね」
一片一・八メートルほどの強化プラスチックコンテナを、僕は指さした。
「ええ」
「あれを《海龍》に届けてほしい。その後は無理のない程度に、カルルを牽制してくれればいい」
「分かりました」
芽依ちゃんはコンテナを抱えて《水龍》を飛び立つと、水面スレスレの高度で《海龍》へ向かって行った。
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