769 / 842
第十六章
ワームホール突入
しおりを挟む
最初に紫雲一号が送ってきた映像は、手榴弾がもたらした惨状。
たった一発の手榴弾にしては被害が大きい。
どうやら、かなり多くの兵士がワームホール前に集結していて、その密集状態の中で手榴弾が爆発したらしい。
負傷者の救助で、ワームホール前は大忙しのようだ。
飛び交っている怒号を、翻訳ディバイスに通してみた。
『遺体はほっておけ! 負傷者の手当が先だ』
『包帯を持ってきてくれ!』
『ワームホールを閉じろ! 急げ』
『ダメです。時空管が動きません』
なに?
『マニュピレーターが、今の爆発で……』
『治せるか?』
『なにぶんタウリ族のメカですので……ただ、我々が何もしなくても自動修復機構があるので、しばらくすれば使用可能になります』
今なら、ワームホールを閉じることはできない。
しかし、ミールを抱き抱えたまま突入するのは危険過ぎるな。
「ミール。《海龍》に上がってきた敵は、どのくらい残っている?」
「七人ほどです。ミクちゃんのオボロが加勢してくれたので、まもなく殲滅できます」
それなら、大丈夫だな。
「今から君を、キラとミクが隠れている主砲の影に下ろす」
「カイトさんは、どうするのです?」
「ワームホールに突入する」
「危険です。一人で行くなんて……」
「大丈夫。時空穿孔機を破壊したら、すぐに戻ってくる」
「でも……」
「心配しないで……」
「でも、カイトさんだって弾薬とエネルギーが乏しいのでは? メイさんたちが戻ってくるのを待ってからでも……」
「いつ、ワームホールが閉じるか分からないんだ。今は機器の故障で閉じないようだが、あまり時間をかけられない」
もしかするとずっと閉じないかもしれないが、タウリ族の自動修復機構がどの程度の性能なのかが分からないので判断がつかない。
今すぐ行けば確実にワームホールを越えられるが、時間が経つほど機会は遠のく。
それに……
「それにさっきから気になっていたのだが、なぜ奴らは接続者を送り込んで来ないのかと思ってね」
「どういう事ですか?」
「カルルとか、接続者を送り込んでくれば、こっちでわざわざミーチャを確保する必要はないはずだ」
「確かにそうですね」
「ミーチャを押さえつけなくても、カルルを送り込んでミクのいる方を見れば、その背後にワームホールを開くことができるはず。なぜ、そうしないのか?」
「動かせる接続者が、もうほとんど残っていないのでは?」
「確かに、かなり多くの接続者がこの戦いで死んでいるな。解放した接続者もいるし……しかし、地下施設にメッセンジャーとして残っていた奴と、カルルの二人は確実に残っている。そのうち一人は時空穿孔機を操作する要員として必要だとしても、一人はこっちへ送り込めるはず……」
それならなぜ、今までレム神はワームホールを使わなかったのだろう?
ミクとミーチャが二人切りの時に、ワームホールを開けば容易に拉致できただろうに……
いや、それは今考えても意味がない。
レム神が今まで使わなかったのは、使えない事情があったからと考えるべきだろう。
そして今はワームホールが使える状態にある。
それが使える以上は……
「イリーナは自分たちを『橋頭堡を確保する要員』と言っていた。それはミーチャを確保して、ワームホールを開くという意味だと思うが、そのワームホールから別の接続者を送り込めばよかったはず。そうしなかったのは、地下施設にいる接続者がすでにカルル一人しかいないからでは……」
「カイトさん。地下施設には、まだ一人接続者がいますよ」
「え?」
そうだった! まだ古淵がいたな。
とにかく、敵は機器の故障が治ったら、ほぼ間違えなくカルルか古淵を送り込んでくるだろう。
その前に時空穿孔機を破壊できれば何も問題はない。
だが、僕のエネルギー残量では難しいかもしれない。
それなら……
「ミール。僕の作戦が上手く行かなかった時の保険だ」
そう言って僕は、ミールに作戦を耳打ちした。
「じゃあ頼んだよ。ミール」
「任せて下さい。カイトさんも危なくなったら、無理しないで戻ってきて下さいね」
「分かっている」
続いて僕は《水龍》にいるメンバーに指示を出してから、ミールを《海龍》主砲の影に降ろした。
「では、行ってくる」
ミール、ミク、キラに見送られながら、僕は《海龍》の後甲板へと向かって駆けだした。
たった一発の手榴弾にしては被害が大きい。
どうやら、かなり多くの兵士がワームホール前に集結していて、その密集状態の中で手榴弾が爆発したらしい。
負傷者の救助で、ワームホール前は大忙しのようだ。
飛び交っている怒号を、翻訳ディバイスに通してみた。
『遺体はほっておけ! 負傷者の手当が先だ』
『包帯を持ってきてくれ!』
『ワームホールを閉じろ! 急げ』
『ダメです。時空管が動きません』
なに?
『マニュピレーターが、今の爆発で……』
『治せるか?』
『なにぶんタウリ族のメカですので……ただ、我々が何もしなくても自動修復機構があるので、しばらくすれば使用可能になります』
今なら、ワームホールを閉じることはできない。
しかし、ミールを抱き抱えたまま突入するのは危険過ぎるな。
「ミール。《海龍》に上がってきた敵は、どのくらい残っている?」
「七人ほどです。ミクちゃんのオボロが加勢してくれたので、まもなく殲滅できます」
それなら、大丈夫だな。
「今から君を、キラとミクが隠れている主砲の影に下ろす」
「カイトさんは、どうするのです?」
「ワームホールに突入する」
「危険です。一人で行くなんて……」
「大丈夫。時空穿孔機を破壊したら、すぐに戻ってくる」
「でも……」
「心配しないで……」
「でも、カイトさんだって弾薬とエネルギーが乏しいのでは? メイさんたちが戻ってくるのを待ってからでも……」
「いつ、ワームホールが閉じるか分からないんだ。今は機器の故障で閉じないようだが、あまり時間をかけられない」
もしかするとずっと閉じないかもしれないが、タウリ族の自動修復機構がどの程度の性能なのかが分からないので判断がつかない。
今すぐ行けば確実にワームホールを越えられるが、時間が経つほど機会は遠のく。
それに……
「それにさっきから気になっていたのだが、なぜ奴らは接続者を送り込んで来ないのかと思ってね」
「どういう事ですか?」
「カルルとか、接続者を送り込んでくれば、こっちでわざわざミーチャを確保する必要はないはずだ」
「確かにそうですね」
「ミーチャを押さえつけなくても、カルルを送り込んでミクのいる方を見れば、その背後にワームホールを開くことができるはず。なぜ、そうしないのか?」
「動かせる接続者が、もうほとんど残っていないのでは?」
「確かに、かなり多くの接続者がこの戦いで死んでいるな。解放した接続者もいるし……しかし、地下施設にメッセンジャーとして残っていた奴と、カルルの二人は確実に残っている。そのうち一人は時空穿孔機を操作する要員として必要だとしても、一人はこっちへ送り込めるはず……」
それならなぜ、今までレム神はワームホールを使わなかったのだろう?
ミクとミーチャが二人切りの時に、ワームホールを開けば容易に拉致できただろうに……
いや、それは今考えても意味がない。
レム神が今まで使わなかったのは、使えない事情があったからと考えるべきだろう。
そして今はワームホールが使える状態にある。
それが使える以上は……
「イリーナは自分たちを『橋頭堡を確保する要員』と言っていた。それはミーチャを確保して、ワームホールを開くという意味だと思うが、そのワームホールから別の接続者を送り込めばよかったはず。そうしなかったのは、地下施設にいる接続者がすでにカルル一人しかいないからでは……」
「カイトさん。地下施設には、まだ一人接続者がいますよ」
「え?」
そうだった! まだ古淵がいたな。
とにかく、敵は機器の故障が治ったら、ほぼ間違えなくカルルか古淵を送り込んでくるだろう。
その前に時空穿孔機を破壊できれば何も問題はない。
だが、僕のエネルギー残量では難しいかもしれない。
それなら……
「ミール。僕の作戦が上手く行かなかった時の保険だ」
そう言って僕は、ミールに作戦を耳打ちした。
「じゃあ頼んだよ。ミール」
「任せて下さい。カイトさんも危なくなったら、無理しないで戻ってきて下さいね」
「分かっている」
続いて僕は《水龍》にいるメンバーに指示を出してから、ミールを《海龍》主砲の影に降ろした。
「では、行ってくる」
ミール、ミク、キラに見送られながら、僕は《海龍》の後甲板へと向かって駆けだした。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる