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第十六章

天才でも不可能だと思うが、変態なら可能なような気がする。

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「やはり、ダメだったか」

 と、僕がつぶやくように言ったのは、マテリアル・カートリッジが入っている倉庫の前まで移動してきた時のこと。

 倉庫の扉には、張り紙が貼ってあった。

 それには日本語でこう書かれている。

『北村海斗殿

 この扉の向こうに貴殿の欲するカートリッジがある。この扉はエラ・アレンスキーNo.3(以後エラ)の体内に打ち込んだチップが、心臓停止を感知すると開く。エラが逃亡した場合でも、地下施設内部で補足して始末すれば開くが、施設外まで逃亡した場合は、お手数だが遺体をこの扉の前まで運んで来てもらいたい。なお、エラが取引を持ちかけて来ても話には乗らないように。もしエラを逃がしてから、扉を無理矢理こじ開けた場合、内部に仕掛けた爆薬が爆発する』

 やはりね。こういう事になっていたか。しかし、レム神はなぜ、ここまでしてエラを始末したいのだろうか?

「北村さん。仕方ありませんね。エラを追いかけましょう」

 芽依ちゃんの方を振り向く。

「ああ。では、傾斜路に戻ろう」
「しかし、そうなると中央広場を通らなければなりませんね。そうすると帝国軍兵士と戦闘になって、エラ・アレンスキーが私たちの接近に気が付いて逃げられるかもしれません」
「ううむ……そうなると、中央広場を通らず迂回してエラの背後を突くか……」

 テントウムシのガルウイングが開いてミクが顔を出したのはその時。

「お兄ちゃん。もっといい方法があるよ」
「どんな?」
「あたし達も、エレベーターで第六層へ行くのよ」
「しかし、僕達に動かせるのか?」
「あの子達が、使い方を知っているって」

 あの子達? どうやら少年兵達の事らしいな。

 よし!

 芽依ちゃんの方を振り向く。

 芽依ちゃんは、意識を失った子ヤギを抱き抱えていた。

 この子ヤギも、エラが中継機を破壊した時にレム神との接続が切れて倒れてしまっていたのだ。

 傾斜路に一頭だけで残してはかわいそうと言って、芽依ちゃんがここまで抱き抱えてきたのだが……

「芽依ちゃん。僕達はこれからエラを追いかけて第六層へ向かう。その子ヤギは、ここに置いて行こう」
「どうしてですか? せっかくレム神とユキちゃんの接続が切れたのに……」
「だからだよ。このまま第六層に連れて行ったら、再接続されてしまうだろう。後で迎えにくればいい」
「そうでした。でも……目を覚ました時に近くに誰もいなかったら……」

 芽依ちゃん、すっかり子ヤギに情が移ってしまったようだな。

 ん? ジジイが芽依ちゃんの前に進み出た。

「メガネっ娘や。その子ヤギは、わしがここで面倒見ていてやるから、安心して第六層へ行ってこい」
「博士。よろしいのですか?」
「ああ。どうせわしが第六層に行ってもやる事はないし、ここで倉庫が開くのを待っておった方がよいじゃろう」
「でも……」
「遠慮することはないぞ」
「いいえ、遠慮しているのではなくて不安なのです」
「何が不安なのじゃ?」
「博士が、ユキちゃんにおかしな事を教えるのではないかと……」
「なんじゃと! わしが子ヤギに、女の子の下着を食べるように調教するような事をするとでも思っているのか!?」
「はい。思っています」

 実は僕も思っていた。

「ぐぬぬ……鋭い読みじゃ」

 図星かい!

「じゃが安心しろ。いくらわしが天才でも、そんな事は不可能じゃ」

 確かに天才でも不可能だと思うが、変態なら可能なような気がする。

「安心して第六層へ行ってこい」

 あまり、安心はできないがこれ以上時間はかけられない。

 一抹の不安を残しつつ、僕達はジジイと子ヤギを残してエレベーターホールへ向かった。
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