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第十六章

風評被害

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 ミールは、状況を話し終えた。

 それにしても危ないところだったな。

 カルルが勘違いしてくれたおかげで助かったが……まあ、あいつの勘違いはいつもの事だけど……

「それで、ミール。君は今どこにいる? もう一体のスパイダーが、そっちへ向かっているのだが……」
『あたしとミクちゃんは、カルルが行ったすぐ後に小部屋に隠れました。キラも一緒です』

 イリーナが来る前に隠れられたようだな。

『え? キラ、どうしました? え! カイトさん。今、キラの分身体が、青いスパイダーと遭遇しました』
「どうなった?」
『少々お待ちください……どうやら、戦闘にはなりませんでした。カルルの行った方向を教えたら、あっさりとそっちへ行きましたよ』
「ちなみに、カルルの行った方向って、地雷原じゃないのかい?」
『そうですけど、天井を走って行ったから、地雷にはかからないと思います』

 地雷が仕掛けてある事は、分かっていたようだな。

『それと、傾斜路入り口の帝国軍陣地ですけど、あたしが分身体を自立モードにしている間に、ほぼ壊滅していたようです』
「全員殺したのか?」

 できれば捕虜を確保して、情報を聞き出したかったのだが……

『五人ほど逃げましたが、一人は地雷原の方へ逃げたので助からないでしょう』
「後の四人は?」
『二人は傾斜路へ入り、第七層へ逃げました。そして、残り二人はカイトさんがいる方向へ逃げたので、そろそろそっちへ現れると思います』

 え?

 通路の奥に視線を向けると、二人の帝国軍兵士がとぼとぼと歩いてくるところだった。

 二人の兵士も僕たちの姿に気が付く。

 二人は、とっさに自動小銃カラシニコフを構えた。

 戦意は喪失していないようだな。

 芽依ちゃんが前に進み出る。

「無駄な抵抗はやめて投降しなさい」

 答えは銃弾で返ってきた。

 だが、そんな抵抗は九九式の装甲に火花を散らすぐらいの効果しかない。

 程なくして弾切れになると、二人は銃を捨ててナイフを抜いた。

 ナイフの形状は、円筒形のを持つ先端の尖った諸刃もろはの直剣。

 まだ抵抗する気か。

 やれやれ。銃弾ですら通用しないロボットスーツ相手にナイフなんて……

 ん?

 一人の兵士がヘルメットを外した。

 ブロンドの長い髪がファサっとこぼれる。

 もう一人もヘルメットを外すと、長い栗色の髪があふれ出た。

 女性兵士か。

 二人とも二十歳ぐらいの美女……

 女たちは、ナイフを自分の首筋に当てる。

 自決する気か!

「よせ! 早まるな!」
「こっちへ来ないで!」
「あなたに陵辱されるぐらいなら、死を選ぶわ!」
「いや……そんな事はしないから……」
「嘘よ! カイト・キタムラは、ドスケベの変態だと聞いているわ!」

 おい……

「女性兵士だけ殺さないのは、基地へ連れ帰ってその身体をもてあそんで楽しむためでしょ!」

 とんでもない、風評被害だ。

「隊長。いつもそういう事をされていたのですか?」
「橋本君。君は、僕がそういう事をするような男に見えるというのか?」
「いえ、見えません。ただ、そういう事を言った時の隊長の反応が面白いので」

 悪趣味な……

 しかし、帝国軍の間でそういう噂が広まるのは困ったものだな。

「大丈夫ですよ。そんなのデマですから。北村さんは、女の子に酷い事はしませんから」

 芽依ちゃんが説得するが、彼女たちはナイフを手放さない。

「そんなの信用できないわ」
「スケベじゃないというなら、ヘルメットを取って顔を見せなさいよ。顔を見ればスケベかどうか分かるわ」
「どうしたの? 怖くてヘルメットを取れないの?」
「私たちは、飛び道具なんか持っていないわよ」

 飛び道具なんか持っていない? なるほどね、そういう魂胆か。

 僕は橋本晶の耳元にささやいた。

「芽衣ちゃんから聞いているが、君は刀剣マニアで世界中の刀剣に詳しいそうだね」
「ええ。そうですが、それが何か?」
「それなら、彼女たちの意図は分かったかい?」
「ああ! その事ですか。もちろん分かっています」
「では、落とす自信はあるかな?」
「それなら、お任せください」

 よし。

 僕はヘルメットを外した。

「どうだい? 僕の顔がドスケベの変態に見えるかい?」

 彼女たちは僕の顔を見て、にやっと笑みを浮かべる。

「あらあ! なかなかいい男ね。ドスケベの変態には見えないわ」
「ハンサムだわ。でも、もったいない」

 彼女たちはナイフを僕に向けた。距離にして五メートル。

 ナイフでどうにかできる距離じゃない。

 普通なら……

「もったいないわね。こんなハンサムを殺すなんて」
「あんた、スケベじゃないけど間抜けよ」

 二人は同時に、ナイフのつば元にあるロック解除ボタンを押した。
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