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第十六章
武士の情け
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予想通り、ジジイがミールの尻をなで回していた。
「ナーモ族の嬢ちゃん。赤ちゃんがほしいのか? では、わしが協力してやろう」
「やめて下さい!」
「ジジイ! ミールから離れろ!」
叫びながら、僕はジジイに掴みかかった。
しかし、ジジイは寸前で避ける。
「待て! 若造! 落ち着け」
「地下に入る前に、言っておいたはずだ。女の子に悪さをしたら、その場で去勢してやるからそのつもりでいろと」
「待て! 話せば分かる」
おまえは、五・一五事件の犬養総理か!
「問答無用! ブースト!」
僕のパンチは、さっきまでジジイのいた空間を素通りして床にめり込む。
「こりゃ! 若造。人間にそんなパンチが当たったら、死んでしまうだろ」
「元より、おまえを人間とは思っていない。大人しく去勢されろ」
「去勢というのは、生きたまま男性としての機能をなくす事だろ。おまえ、わしを殺そうとしているではないか」
「死にたくなければ、大人しく捕まれ」
「いやじゃ! 捕まったら、去勢されてしまうではないか」
「当然だ。そのつもりだからな」
「やめてくれ! そんな残酷な事」
「武士の情け。麻酔はかけてやる。消毒もしてやる。だから、大人しく捕まれ」
「おまえ、武士だったのか?」
「北村家の先祖は武士だ」
「今は武士ではないだろう」
「そんな事はどうでもいい! ワイヤーガンセット ファイヤー!」
僕の放ったワイヤーガンが、さっきまでジジイのいた場所の背後にあった壁に突き刺さる。
ワイヤーガンの追尾機能を振り切るとは、やっぱこいつ妖怪だな。
「こりゃ! 人間に向けて、ワイヤーガンを撃つ奴があるか」
「人間と思ってはいないと言ったはずだ」
ガシ! ガシ! 突然、両腕を誰かに捕まれた。
見ると、右腕を芽依ちゃんが、左腕を橋本晶が掴んでいる。
「北村さん。やめて下さい。本当に殺してしまいます」
「隊長。ここでルスラン・クラスノフ博士を死なせたら、リトル東京に行ったときに責任を取らされます」
ぐぬぬ……
「博士も、隊長を怒らせるような事はやめて下さい。先代の隊長は、森田さんにセクハラをした部下を、その場で射殺しようとしたのですよ」
「そうです。北村さんは普段は優しいけど、怒ると鬼より怖いのですよ」
え? 怒った時の僕って、そんなに怖かった?
そんな事はないと思うのだが……
「待て待て……わしはただ、女子たちが険悪になりかけていたので、場を和ませようと……」
「そんな和ませ方があるか!」
「そうは言っても、わしにできる事はこれしかないからのう。それより、おぬしはナーモ族の嬢ちゃんを、リトル東京へ連れて行きたいのじゃろ?」
「そうだ」
「簡単ではないか」
「簡単じゃないから、困っているんだろ」
「いや簡単じゃ。ヘリに乗り切れないなら、もう一機ヘリを出せばいいでないか」
「ド○え○んの四次元ポケットじゃあるまいし、そんな都合良く……」……あれ? できるじゃないか。
「ああそうか。プリンターで作ればいいのか」
だが、それを芽衣ちゃんが否定する。
「北村さん。大型ヘリを作るには、カートリッジの残量が足りません」
「え? そうなの」
「橋本さんも最初、人員を乗せ切れない場合、《海龍》のプリンターでヘリを作るようにと、リトル東京を出る前に指示されていたそうです。しかし、《海龍》のカートリッジ残量は乏しくて……」
芽衣ちゃんのセリフをジジイが遮る。
「何を言うか。メガネっ娘。わしは《海龍》を離れる前にカートリッジの残量を確認したが、ヘリ一機余裕で作れるぐらいあったぞ」
「え゛?」
「森田さん。どういう事です? 私は森田さんからヘリを作るだけのカートリッジが足りないと聞いたから、ミールさんにはリトル東京には連れていけないと言ったのですが……」
「ちょっと待って下さい。橋本さん。私もなんか混乱していて……カルカを出てからここへ来るまでに、カートリッジはかなり減ってしまっていたので……」
「確かにマオ川河口付近ではかなり減っていたが、サムライ娘が乗ってきたヘリから、再充填カートリッジを運び込んでいたではないか。あれでヘリの一機や二機作れるぞ」
「ああ! 再充填カートリッジの事を忘れていました。アハハ」
芽依ちゃん……セリフ棒読み……
記憶力のいい芽衣ちゃんが、再充填カートリッジの事を忘れるはずがない。
忘れていた事にして、僕とミールを引き離そうと考えていたのだな。
運搬ロボが戻ってきたのは、ちょうどその時。
「あら、荷物が届きましたね」
芽衣ちゃんは運搬ロボのコンテナを開くと、新しい中継機を取り出した。
「私、中継機をセットしてきますね」
芽衣ちゃんは、逃げるように傾斜路から出ていく。
「ナーモ族の嬢ちゃん。赤ちゃんがほしいのか? では、わしが協力してやろう」
「やめて下さい!」
「ジジイ! ミールから離れろ!」
叫びながら、僕はジジイに掴みかかった。
しかし、ジジイは寸前で避ける。
「待て! 若造! 落ち着け」
「地下に入る前に、言っておいたはずだ。女の子に悪さをしたら、その場で去勢してやるからそのつもりでいろと」
「待て! 話せば分かる」
おまえは、五・一五事件の犬養総理か!
「問答無用! ブースト!」
僕のパンチは、さっきまでジジイのいた空間を素通りして床にめり込む。
「こりゃ! 若造。人間にそんなパンチが当たったら、死んでしまうだろ」
「元より、おまえを人間とは思っていない。大人しく去勢されろ」
「去勢というのは、生きたまま男性としての機能をなくす事だろ。おまえ、わしを殺そうとしているではないか」
「死にたくなければ、大人しく捕まれ」
「いやじゃ! 捕まったら、去勢されてしまうではないか」
「当然だ。そのつもりだからな」
「やめてくれ! そんな残酷な事」
「武士の情け。麻酔はかけてやる。消毒もしてやる。だから、大人しく捕まれ」
「おまえ、武士だったのか?」
「北村家の先祖は武士だ」
「今は武士ではないだろう」
「そんな事はどうでもいい! ワイヤーガンセット ファイヤー!」
僕の放ったワイヤーガンが、さっきまでジジイのいた場所の背後にあった壁に突き刺さる。
ワイヤーガンの追尾機能を振り切るとは、やっぱこいつ妖怪だな。
「こりゃ! 人間に向けて、ワイヤーガンを撃つ奴があるか」
「人間と思ってはいないと言ったはずだ」
ガシ! ガシ! 突然、両腕を誰かに捕まれた。
見ると、右腕を芽依ちゃんが、左腕を橋本晶が掴んでいる。
「北村さん。やめて下さい。本当に殺してしまいます」
「隊長。ここでルスラン・クラスノフ博士を死なせたら、リトル東京に行ったときに責任を取らされます」
ぐぬぬ……
「博士も、隊長を怒らせるような事はやめて下さい。先代の隊長は、森田さんにセクハラをした部下を、その場で射殺しようとしたのですよ」
「そうです。北村さんは普段は優しいけど、怒ると鬼より怖いのですよ」
え? 怒った時の僕って、そんなに怖かった?
そんな事はないと思うのだが……
「待て待て……わしはただ、女子たちが険悪になりかけていたので、場を和ませようと……」
「そんな和ませ方があるか!」
「そうは言っても、わしにできる事はこれしかないからのう。それより、おぬしはナーモ族の嬢ちゃんを、リトル東京へ連れて行きたいのじゃろ?」
「そうだ」
「簡単ではないか」
「簡単じゃないから、困っているんだろ」
「いや簡単じゃ。ヘリに乗り切れないなら、もう一機ヘリを出せばいいでないか」
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「ああそうか。プリンターで作ればいいのか」
だが、それを芽衣ちゃんが否定する。
「北村さん。大型ヘリを作るには、カートリッジの残量が足りません」
「え? そうなの」
「橋本さんも最初、人員を乗せ切れない場合、《海龍》のプリンターでヘリを作るようにと、リトル東京を出る前に指示されていたそうです。しかし、《海龍》のカートリッジ残量は乏しくて……」
芽衣ちゃんのセリフをジジイが遮る。
「何を言うか。メガネっ娘。わしは《海龍》を離れる前にカートリッジの残量を確認したが、ヘリ一機余裕で作れるぐらいあったぞ」
「え゛?」
「森田さん。どういう事です? 私は森田さんからヘリを作るだけのカートリッジが足りないと聞いたから、ミールさんにはリトル東京には連れていけないと言ったのですが……」
「ちょっと待って下さい。橋本さん。私もなんか混乱していて……カルカを出てからここへ来るまでに、カートリッジはかなり減ってしまっていたので……」
「確かにマオ川河口付近ではかなり減っていたが、サムライ娘が乗ってきたヘリから、再充填カートリッジを運び込んでいたではないか。あれでヘリの一機や二機作れるぞ」
「ああ! 再充填カートリッジの事を忘れていました。アハハ」
芽依ちゃん……セリフ棒読み……
記憶力のいい芽衣ちゃんが、再充填カートリッジの事を忘れるはずがない。
忘れていた事にして、僕とミールを引き離そうと考えていたのだな。
運搬ロボが戻ってきたのは、ちょうどその時。
「あら、荷物が届きましたね」
芽衣ちゃんは運搬ロボのコンテナを開くと、新しい中継機を取り出した。
「私、中継機をセットしてきますね」
芽衣ちゃんは、逃げるように傾斜路から出ていく。
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