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第六章

宮廷魔法使いの執務室  3

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「どうしてですかあぁ!? ダモン様が死んだら、あたし泣きます! あたしが泣いてもいいのですか? 嘘泣きじゃないですよ! 本気で泣きますよ!」
 ダモンさんは、苦笑してから言った。
「女を泣かせるのは、私の主義に反するな」
「では……」
「もうしばらく、生き恥を晒すことにしよう」
「ダモン様! ありがとうございます。それでは、さっそく逃げましょう!」
「待ってくれ。まだ、私にはやる事が残っている」
「やる事って何を?」
「地下空洞を、爆破する事だ」
「なぜ……そこまで?」
「言っておくが、これは復讐のためにやるのではない。どうしても、やらなければならないのだ。ただ、私の魔力で火をつければ、私自身も助からない。しかし……」
 ダモンさんは、僕に視線を向けた。
「君なら離れたところから、爆破できるのではないのか?」
「もちろんできます。任せて下さい」
「では、点火は君に任せよう」
「ダモン様……そこまでして爆破しなければならないなんて……地下に何か、帝国に渡したくない宝物でもあるのですか? それなら、持ち出して逃げましょうよ」
「宝? とんでもない。この地下にあるのは恐ろしい兵器だ。あれは、絶対に帝国軍に渡しては……いや、この世界にはあってはならない物なのだ。だから、私は地下に誰も入れないようにスライムを放った」
「それにしても、大きなスライムでしたね。あんなのどこで手に入れたのですか?」
「ああ。あれには私も驚いている。最初のうちは普通の大きさのスライムだったのだが、しばらくしてから巨大化してしまい。瞬く間に地下に蔓延ってしまった」

 スライムは、本来あの大きさじゃなかった?

「まあ、帝国軍を中に入れなくするのには、丁度よかったのだが。余裕があれば、なぜスライムが巨大化したのか調べてみたいところだ」
  
 まさか?

「ダモンさん。この地下にあるのは、カルカ国を滅ぼした兵器と同じ物では?」
「ああ。そうだが。私もあまり詳しい事は分からないのだが、カルカ国にも同じ兵器があったそうだ。それが、この地下に隠されているらしい」
「誰が、持ち込んだのです? そんな物騒な物」
「カルカ王に仕えていた地球人だ」
 やはり、カルカ国に地球人が来ていたのか。
「ただ、私がこの国に辿り着いた時には、彼らは全員、重い病に臥せっていた。医者も手の施しようがなかったという。彼らの話によると、この病気は兵器の呪いだそうだ」

 あちゃー! やっぱり、核だ。しかも、放射性物質が漏れている。
 スライムが巨大化したのも、放射線を浴びたせいだな。

「ダモン様、なんで兵器が人を呪うのですか?」
「分からん。地球人達は、帝国に使わせないために、地下で兵器を解体しようとしたらしい。それに失敗して呪いにかかったというのだ。彼らは死ぬ前に、兵器に近づくと呪いにかかるから、保管場所には絶対近づくなと言っていた」
「カイトさん。地球の兵器って、解体しようとする人を呪ったりするのですか?」
 僕は無言で首を横に振ってから、翻訳機に手入力で『被曝』『放射能』と打ち込んでみた。
 やはり、どちらもナーモ語に該当する単語がない。
 当たり前か。
「ナーモ語に該当する単語がないので『呪い』としか説明できなかったのだと思う。呪いというより、毒のような物だね。解体しようとしたらしいけど、おそらくその時に、危険な物質がむき出しになってしまい、毒を放出したのかと」
「やはりそうなのか。実は日本人にも相談したのだが、危険すぎて近づくこともできないと言っていた」

 という事は、今でも放射線が……
 
 まずい! このままだと地下に戻るのも危険だ。

 僕は通信機のスイッチを入れた。
「Pちゃん。地下が放射能に汚染されているらしい。至急ガイガーカウンター付のドローンを送り込んでくれ」
『了解しました。調査が終了するまで、地下には戻らないで下さい。ホールボディカウンターも用意しますか?』
「それも頼む」
 もしかすると、ここへ来る途中で被曝したかも……
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