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第十六章

見張られていた?

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 扉を閉めて、室内を見回した。

 さっきまでジジイが一人でこももっていた部屋には、複雑な数式を書いたレポート用紙が散らばっている。

 こうして見ると、研究に夢中になって他の事が見えなくなった天才科学者の部屋だが……

 こいつの場合は、天災科学者と言った方が正しいな。

「あんたのオリジナル体って、僕より後の時代に生まれた人間だろ。なんで数式を紙に書くんだ? コンピューターは使わないのか?」
「紙で書いた方が、計算に集中できるのじゃ。まあ、最終的にはコンピューターを使うがな」

 まあ、悪さをしないならそれでいいが……

 それより、なんのつもりだ? 僕と部屋で二人切りになって、何か企んでいるのか?

「おまえはこう思っているだろう。わしがおまえをこの部屋に連れ込んだのは、何か裏があると……」
「ああ、思っている」

 裏があるとは思ってはいるが、ジジイが僕に危害を加えるとは思えないので、部屋に一緒に入ったのだ。

 これがもし、ジジイではなくエラと二人切りになるというのだったら、絶対にお断りだが……

「ワームホールとプシトロンパルスの関連性についてと言っていたが、それは口実だろ?」
「いかにも。それに関しては、今はまだ話すべき時ではない。今のわしの目的は、リトル東京へ行って酒池肉林の生活を味わうことじゃ。その目的を果たすためには、今のおまえの作戦に支障が出ては困る」
「つまり、作戦に支障が出るような事態に気が付いたので、僕だけに伝えるためにここへ連れてきたのだな?」
「そうじゃ」
「それは良かったよ。万が一女湯をのぞきに行こうなどという誘いだったら……」

 僕はジジイにショットガンを突きつけた。

「その場で、ミンチにしてやるところだった」
「今、覗かれているのは、わしらの方じゃぞ」
「覗かれている? しかし、監視カメラや盗聴器の類は……」
「おまえも、最初はあの子ヤギを疑っていたじゃろう」
「ああ。しかし、子ヤギはドローンではなく本物だったし、電波の類も出ていなかった」
「電波は出ていなかったな。しかし、プシトロンパルスはどうじゃ?」
「プシトロンパルス!? まさか! 動物にも脳間通信機能が……」
「当然じゃ。そもそもわしが、脳間通信機能の実在を確認したのは、動物実験の結果じゃ。わしだけではない。レム君がレム神になった後、彼の研究資料を調べたが、ブレインレターを開発する時には動物実験をやっていた。その時に使った動物はヤギとヒツジじゃ」
「じゃあ、あの子ヤギはレムと接続されていると?」
「おそらく。あの子ヤギだけではない。地下施設内に放たれたヤギやヒツジは、ほぼ接続されているじゃろう」
「なんだって!?」

 じゃあ、僕たちは地下施設に入った時から、ずっとレム神に見張られていたというのか?
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